軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

団結

教室に、空席が一つ。

その席は担任のフィーア先生が入ってくるまで、ついに埋まることはなかった。

「今日はウォリス君が体調不良でお休みです」

フィーアの言葉に、クラスにざわめきが広がる。

「そういえば、昨日寮で見かけたとき、ウォリスなんだか具合悪そうだったよ」

モーゲンが言う。

「大丈夫かな」

「ま、いいんじゃねえのか。奴は武術大会にも出ねえんだし」

トルクが突き放した言い方をする。

「トルク君、そういう言い方はしない。ウォリス君には、大事をとって明日の武術大会の応援も欠席してもらいます。今日、自分で街の治療院に行って、そこに一泊すると言っていました」

「治療院に一泊……」

ウェンディが心配そうな声を上げる。

「先生、じゃあウォリスは相当具合が悪いってことですか?」

「そういうわけじゃないのよ」

フィーアは目を伏せた。

「ウォリス君には持病みたいなものがあってね。それが少しひどくなったということ。前にもあったことだから、みんなも心配しないで」

その話にみんな顔を見合わせる。

「大丈夫。武術大会が終わる頃には、元通り元気になって戻ってくるわ」

フィーアがそう言うと、男子唯一の補欠となったバイヤーが思い出したように、

「うわ、それじゃ武術大会の応援は僕と女子だけか」

と嫌そうな声を上げた。

「バイヤー、応援、ちゃんと声出してよね」

ノリシュがすぐにそう言い、バイヤーは、うへ、と言いながら肩をすくめる。

「そういうわけで、武術大会の前日には、大会に向けての団結の言葉をみんなの前で誰かに言ってもらうのが伝統なんだけど」

フィーアが言う。

団結の言葉。

そういうことを言うのか、とアルマークは思う。

誰かが前に出て、みんな頑張ろうぜ、とでも言うのだろうか。

「クラス委員のウォリス君に言ってもらおうと思ってたんだけど、お休みなので」

フィーアはそう言って、クラスを見回す。

「そうね、じゃあトルク君、お願いしようかしら」

指名されたトルクは、苦笑いして首を振った。

「先生、それは俺の役目じゃないです」

「え?」

「アルマーク、お前がやれよ。クラスの団結っていう話なら俺なんかよりお前がふさわしい」

「僕?」

急に名指しされたアルマークは戸惑って首を振る。

「そんな急に言われても、何を言っていいのか分からないよ」

「なんでもいいんだよ。決まった台詞があるわけじゃねえ。お前の好きなことを言やいいんだ」

「好きなことって」

なおもアルマークはためらった。

「ごちゃごちゃと、しまらないわね。そんなことじゃ勝てるものも勝てない」

苛立った声を上げたのはレイラだ。

表情は冷静だが、目の奥に燃えるような光が宿っている。

「リーダーでしょ。あなたがしっかりまとめなさい、アルマーク」

「アルマーク、頑張って」

ウェンディが笑顔で隣から声をかけてくれる。

「みんな、あなたの言葉が聞きたいんだよ」

「頼むぜアルマーク。お前が大将だ。ばしっと決めてくれや」

ネルソンが言う。

「正直、この中じゃアルマークしかいないよね」

モーゲンもそう言って頷く。

今朝、応援のメッセージを風に乗せて届けてくれた女子四人も、目配せしあったあとでアルマークを見て頷いてくれた。

「……分かったよ、それじゃあ」

アルマークはみんなの前に立った。

クラスの14人の視線が一斉にアルマークに注がれる。

何を言っていいのか分からない、というのは照れ隠しでもなんでもなく本当のことだ。

大勢の前に立つこと自体は苦ではないが、こういう状況でみんなに向けて話をするという経験はしたことがない。

上手な話は出来ないだろう。

結局、今思っていることを、まっすぐみんなに伝えるしかない。

「……みんなも知ってのとおり、僕は半年前にこの学院に来たばかりだ」

アルマークは覚悟を決めて、そう切り出した。

みんな黙ってアルマークの言葉を聞いている。

「魔法を一つも使えない、ここでの生活も何一つ分からない、そんな僕をみんなは温かく受け入れてくれた。色々あったけど、僕をクラスの一員と認めてくれた」

トルクが横を向いている。

窓の外を見ているだろうと思ったレイラは、アルマークをじっと見ている。

「僕にはそれが何よりも嬉しかった。ありがたかった」

アルマークはみんなの顔を一人ずつゆっくりと見回した。

「だから、僕はこのクラスが最高だと思っている。他のクラスのことは知らない。でも、きっと間違っていないと思う。そして、明日の大会はそれを証明するいい機会だとも思っている」

アルマークは力をこめた。

「明日は王族の偉い人を始め、たくさんの人たちが来るって聞いた。その人たちの前で、僕たちが最高なんだってことを堂々と見せ付けてやろう」

ネルソンと目が合う。

モーゲンと目が合う。

レイドー、ガレイン、デグ、ピルマン。

みんなの目が燃えているのが分かる。

「もう一度言うよ。僕はこのクラスが最高だと信じている。自分がこのクラスの一員であることを誇りに思っている。みんなもそうだろう?」

アルマークの問いに、ウェンディが満面の笑顔で頷いてくれる。

ありがとう、ウェンディ。君はいつも僕に勇気をくれる。

アルマークは最後にもう一度、声を張った。

「だから、明日は勝とう。勝って、それを証明しよう」

「そうだ、勝とうぜ!!」

ネルソンが叫んだ。

「勝とう!」

モーゲンも叫ぶ。

一緒に練習してきた男子たちがそれに合わせて口々に声をあげる。

ウェンディが真っ先に大きな拍手をする。他のみんなもそれに続いて大きな拍手をアルマークに送った。

表情は分からないが、あのレイラも拍手をしている。トルクは三回ほど義理で手を合わせる素振りをしただけだったが。

「ありがとう、アルマーク君」

フィーアが席に戻ったアルマークに言い、やや戸惑ったように盛り上がるクラスを見回す。

「すごいわね、いつの間にみんなこんなに団結したの?」

その言葉に、レイドーが答えた。

「先生、子供ってのは大人がちょっと見ない間に成長しているもんなんですよ」

ノルクの街の一角。

薄暗い路地に、一人の少年がうずくまっていた。

濃紺のローブ。

魔法学院の学生だ。

ローブからのぞく、美しい艶のある金髪。

誰もが目を奪われるような端正な顔立ち。

だが、今はその顔は苦悶に歪んでいた。

「くそ」

そのきれいな顔には似つかわしくない言葉をウォリスは吐き出した。

「まだ海の向こうだろう。もうこんなにも……」

その額に汗が滲む。

「僕だけがこんな目に。不公平じゃないか」

吐き出した弱音は誰にも聞かれることなく、闇に消える。

「できることなら……」

ウォリスは絞り出すように呟いた。

「殺してしまいたい」

泣いているような、笑っているような声で。

「殺してしまえればいいのに」