軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

思い違い

いよいよ武術大会が迫ってきた。

アルマークは、朝の練習では、他の皆から離れてモーゲンと二人、秘密の特訓に励んだ。

ネルソンはトルクと、レイドーやガレインたちは四人で、それぞれ練習を積んでいった。

トルクは、自分のプライドに懸けてネルソンには絶対に負けなかった。

しかし、それでも簡単に勝つこともできなくなり、一度などは練習時間の最初から最後まで二人でひたすら打ち合い、終了間際にようやくトルクが勝ったこともあったほどだ。

そして放課後、アルマークは、イルミスのもとで霧の魔法を練習する。

それが終わり、すっかり暗くなった頃に魔術実践場を出ると、だいたいは武術場を出てきたウェンディと一緒になる。レイラがその隣にいたりいなかったり。

一緒に帰ってもレイラはウェンディと話すばかりで、アルマークにはほとんど視線も向けない。

ある時、一度だけ、

「どう。ネルソンたちは勝てそうなの」

と聞いてきたことがあるが、アルマークが、

「ああ。きっと勝つよ」

と頷くと、そう、とそっけなく答え、それ以上は何も言ってこなかった。

ある日の帰り、アルマークがウェンディと二人で寮への道を歩いていると、ウェンディが、最近レイラに勝てなくなった、とこぼした。

「前はほとんど互角だったのに、最近レイラが何かコツを掴んだみたいでほとんど勝てなくなっちゃった」

「レイラが半身の姿勢をなかなか崩さなくなったんじゃない?」

「うん、そう」

頷いてウェンディが目を丸くする。

「どうして分かるの?」

「僕がそういう風にアドバイスしたから」

「えー!」

ウェンディが声を上げる。

「アルマークが教えたの?」

「前、帰りが一緒になったときに、少し話しただけだけどね」

アルマークは頷く。

「レイラだけずるい」

ウェンディはアルマークを軽く睨む。

「私だって教えてほしい」

アルマークは、苦笑いする。

「そんなずるいとか言うほどのことじゃ」

「だって私と一緒に帰っても、いつもそんな話はしてくれない」

「いや、それは」

アルマークは口ごもる。

ウェンディと他愛のない話をするのが楽しいから、とは恥ずかしくて言えない。

「それは、何?」

「ウェンディは、戦い方が素直すぎるんだ」

アルマークは少し慌てて答えた。

「相手が嫌がることをやってごらん。きっと勝てるようになるよ」

「相手が嫌がることって……」

ウェンディは眉をひそめる。

「具体的にはどんなこと?」

「君が試合で相手にやられて嫌なことを考えてみて。それを相手にそのまますればいい」

「やられて嫌なこと」

ウェンディは難しい顔をして黙り込む。

しばらく二人はそのまま黙って歩く。

さくさくと地面を踏む二人の足音だけが響いた。

やがて、ウェンディは諦めたように笑って首を振った。

「人の嫌がることを考えるのって疲れるね」

それから、独り言のように呟く。

「やっぱりアルマークとは何でもない話をするのが楽しい」

武術大会の日取りが近づくにつれ、徐々に学院の敷地内に衛兵たちの姿が目立つようになってきた。

どうも外から来た兵士たちのようで、地図を片手に学院のあちこちをまわり、場所の確認をしながら話し合っている。

朝の練習の時にアルマークがその話をすると、トルクが嗤った。

「大会の当日に王族が突然来るだけですむわけねぇだろう。こうやって前々から警備の人間が王族を迎える準備をするに決まってるだろうが」

「そういうことか。それはそうだな」

アルマークが頷く。

「そりゃ王様が来るんだからな。それくらいの準備はするよな」

そう言ってネルソンも頷く。

「すごいことだよね、僕たちの試合をわざわざ王様が見に来るなんて」

とモーゲン。

「王様の前で勝てたら気持ちいいだろうね」

とレイドーも言う。

「まあ王族ったって、俺たちを見に来るのは国王陛下じゃねえしな」

トルクの言葉に、その場の全員が振り返る。

「な、なんだよ」

いきなり全員の視線を浴びたトルクが少しうろたえる。

「……王様が来るんじゃないの?」

モーゲンが恐る恐る尋ねる。

「王様が来るって聞いたぜ、俺は」

とネルソン。

「ウェンディが言ってたんだ。王様が来るに決まってる」

アルマークが言い、

「ウェンディとトルクならウェンディだろうな」

とレイドーも頷く。

「お前らなぁ」

トルクが心底バカにしたようにアルマークたちを見る。

「来るよ。国王陛下は来る。でも俺たち初等部の大会なんか見に来るわけねえだろ」

それを聞いても、みんなポカンとするばかりだ。

トルクはじれったそうに舌打ちする。

「だーかーらぁ! 国王陛下は一番派手な高等部の大会を見に行くに決まってるだろ! 俺たちのところに来るのは他の王族の誰かだ。誰だかは知らねえが」

「えー!?」

ガレインやデグを含めた全員が落胆の声を上げる。

「王様じゃねえのかよ! 俺、父ちゃんと母ちゃんに自慢しちまったよ! 王族って誰だよ!」

「それは聞いてなかったな……」

「そんな……王様じゃないの? 僕の武術大会は終わった」

口々にぼやくアルマークたちをトルクは面倒そうに眺める。

「練習しねえなら俺は帰るぞ」

「うるせえ、トルク! お前に俺の気持ちが分かるか! この怒り、お前にぶつけてやる!」

ネルソンが叫んでトルクに突っかかっていく。

「仕方ない。僕たちも練習しよう」

アルマークはレイドーたちに声をかける。

ウェンディの言うことだから、深く考えもせずに鵜呑みにしてしまっていたが、よく考えればトルクの言うことは当たり前の話だ。

来るのが王様だろうが、他の誰かだろうが、やることに変わりはない。

3組に勝つ。

それだけだ。

「やるよ、モーゲン」

「うん」

頷くモーゲンの瞳に少しずつ力が戻ってきているのが分かる。

訓練の成果が出てきている証拠だ。

もう少しだ。

アルマークは思った。

間に合うかな。

武術大会まで、あと二日。