軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12話~面白い男だわ~

「いやぁ、あのオトハ様の笑顔はヤバかったなぁ」

「心臓が止まるかと思ったぜ」

漸く起き上がった仲間達は、ステージの近くに設置されていたベンチに座って談笑していた。

もう日も暮れかけているのに呑気だなと思ったけど、どうやらオトハ様の笑顔で腰が抜けたらしい。

もうそれ、嬉しいを通り越して怖がってるだろ。

そう思ったけど、彼らの顔には抑えきれない笑顔が浮かんでいる。

「マジサンキューな、黒川。あの笑顔が見れただけで、いつ死んでも本望だ」

「言い過ぎでしょ、岩本さん。それじゃ、慰問会の度に死ぬことになるじゃないですか」

俺が軽く突っ込むと、係長は「んなわけあるか」と皮肉な笑みを浮かべる。

「何時もはこんな盛り上がらねぇよ」

「そう、なんですか?」

盛り上がる=死屍累々な事に疑問を持ちながらも聞いてみると、係長は大きく頷く。

「質問なんて2,3個出来りゃいい方だ。下手すら1つ目で強制終了されたり、全部無視されたりするからな」

「先週のナナ様なんて、ドタキャンで急遽中止になりましたし」

マジか。他の慰問会って、そんなレベルなの?それから考えたら、みんながオトハ様に群がるのも分かる気がする。

次回はもっと、人気が出てしまうだろうな。彼女の笑顔は素敵だったから。

「先輩、先輩!」

「なんだ?まっちゃ…うん?」

珍しく焦る後輩の方を見ると、彼の後ろにはさっき見た顔が俺を睨みつけていた。

マイクを渡してきた局員だ。

「黒川慶吾。大人しく付いて来い」

…えっ?呼び出し?

「先輩。逆らわない方が良いですよ」

まっちゃんが言うって事は、逆らうとヤバいんだろうな。もしかして、逮捕?

管理局の権力、強過ぎるだろ!と思いながらも、ムカつくそいつの背中について行く。まだ倒れたままの観客達を跨ぎながら導かれた先は、局員達が乗ってきたトラックの裏手。そこで、奴は立ち止まる。

まさか、ここでリンチでもする気か?と身構えたが、局員は目の前のこいつただ1人、お仲間の殆どはステージの端で座り込んだまま。とてもそんな雰囲気じゃない。

では何を?と疑問に思っていると、局員は無言で手を突き出してきた。そこには、1台の古い携帯が握られていた。

なんだ?これを…使えってこと?

「ふんっ」

俺が携帯を受け取ると、局員は不機嫌そうに鼻を鳴らし、松葉杖を突いてトラックの向こうへと消えてしまった。

仕方ないので、俺は携帯を耳に当てる。嫌な予感がしながら「もしもし?」と向こう側に問いかける。

すると、

『遅いわ。10秒で出なさい』

帰ってきたのは、同じく不機嫌そうな女性の声。

ああ、やっぱり。女王様だったか。

〈◆〉

慰問会が終わったものの、私の心は不満のような物が残っていた。

普通、慰問会が終わった後は清々しさを感じるのに、今日はそれが無い。

「あいつのせいね」

黒川ケイゴ。あいつが中途半端に話を終えるから、気持ち悪いのよ。折角、ハティの事を話してやろうと思ったのに…。

「ホント、仕方ないわね」

私は再びスマホを手に取り、有事用の携帯番号に電話を掛ける。呼び出しに応じた局員に命令し、黒川を呼ぶ。

だけど…。

『10秒は厳しいですよ、オトハ様。せめて40秒下さい』

私が命令してあげたというのに、黒川は口答えして来た。

本当にこいつは…。

「良い度胸をしているわね、お前。私の貴重な時間を更に奪おうなんて」

『愛犬を愛でていらっしゃる蘇枋様でしたら、これくらいお許し頂けるかと』

本当にこいつは、図々しいわね。

でも、そうね。愛犬の事だったわね。

「喜びなさい。そのハティについて、お前に教えてあげるわ」

私は心のモヤを払う為に、ハティとの日常を話して聞かせる。本当に苦労している事を話すと、黒川は『おお』とか『そいつは可愛らしい』と相槌を打ってくる。

それを聞いているだけで、心が躍る。自然と言葉が口から突いて止まらない。だから、ついつい喋り過ぎてしまった。

それでも、黒川は『大変ですねぇ』と返してきた。

適切なタイミングでの相槌。私の話を、美声をしっかりと聞いていないと出来ない事。

こいつ、なんで耐えられるの?

「お前、もしかして管理局の人間なの?」

『とんでもない。私はただのサラリーマンですよ』

「…冗談でしょ?」

冗談としか思えない。局員でもない男が、私の声に10分以上耐えられるなんて考えられない。下手したら、病院送りの筈。

耐性があり、特別な訓練を受けた局員ですら、さっきの慰問会で多くが倒れたと聞いている。私と黒川の会話を聞いただけで、醜く発情したのだ。

…そう言う意味で言うと、黒川はただの局員ですらないわね。もっと上位の人間。例えば局長とか、上等管理保安官レベルだわ。

そんな人達ですら、私との電話に10分も耐えられるとは思えないけど…。

「ホント異常ね。お前は」

『異常…俺からしたら、他の人達の方がそう見えるんですけど…』

黒川は困った様に呟く。そこに、優越感や驕りは全くない。本当に、戸惑っている様子であった。

面白い。

「黒川。お前、管理局員になるつもりはないの?局員になれば、今回の様に特等席で私達の声が聞けるわよ?」

『いやぁ〜…毎回この地獄絵図を見るのは、ちょっと…』

ふぅん。やはりこいつにとって、声ではもう褒美にはならないみたいね。

なら、これならどう?

「それだけでじゃないわ。局員のエリートになれば、女性が区外を訪問する際、護衛に抜擢される事もあるのよ?」

女性の中には、年に何度か区外に出る者もいる。その時に、局員は周辺警護を任される。

私もいずれ、 当主様(はは) から言いつけられるかもしれないけど…そうね。

「なんなら、お前を私の 傍(そば) 付き局員に任命してあげても良いわよ?」

『えっ?』

漸く、黒川の慌てた声が聞けた。

『オトハ様の…付き人?』

「そうよ?そうなったら、私と直接会えるかもしれないわよ?」

『オトハ様と、直接…』

向こうから、固唾を飲む音がする。次いで、黒川の唸るような声が聞こえてきた。

相当悩んでいるみたいね。当たり前の事だけど。

こいつが必死になっている姿を想像してしまい、私は笑いが込み上げてきた。どんな答えを出すか、楽しみで仕方ない。

さぁ、どう出る?

『オトハ様』

「なに?」

果たしてこいつは、食い付いて来るかしら?

『とても魅力的なご提案ではありますが、済みません。俺、今の会社が好きなんで。ここで頑張って行こうと思ってます』

「ふぅん」

食い付いて来ない、ね。

普通の奴なら、給金も要らないから是非に!って飛びついてくるのに。女性に奉仕することを何よりの喜びとむせび泣くのが男という生き物。なのにこの男は…。

黒川ケイゴ。お前、本当に変な奴だわ。そこらの気持ち悪い男共とは、根本的に違う。

普通ではない、異質の存在。

「そう、分かったわ。じゃあ黒川、そろそろ終わりにするわよ。次の私の慰問会では、最初から最前列に並びなさい」

『ええっ?いや、それはちょっと無理が…』

何かグダグダ言っていたけれど、私は構わずに通話を切る。耳からイヤホンを外し、それを手提げバッグの奥へとしまい、席を立つ。

全く、私の命令を素直に受け取らないなんて、あいつもハティと同じくらいの駄犬ね。

全く…。

「面白い男だわ」

電話を掛ける前に感じていた心の中のモヤモヤは、すっかり消えていた。

〈◆〉

「最前列ねぇ…」

オトハ様との電話会談を終えた俺は、同僚の元へとトボトボ歩いていた。

今回の慰問会も、大盛況で終わらせた彼女だ。きっと次の慰問会は、今回とは比べられない程の人数が詰め掛けるに違いない。

下手すりゃ、ドームライブとかになるかもな。そうなった場合、最前列は何日前から席取りする必要があるだろうか?そんなの、しがない平社員には無理ゲーだぞ?

やっぱり、傍付き局員の件を断ったから怒っているのか?相当悩んだフリをしたけれど、それがバレてたのかも。

仕方ないだろ。俺が今の仕事を好きなのは本当だし、管理局員なんかにはなりたくないからな。あんな高慢ちきな奴らの組織に入ったら、俺が俺じゃ無くなっちまう。

だから、断るしかなかったんだが…。

「よぉ、兄ちゃん」

肩を落としながら歩いていた俺に、誰かが立ちはだかる。

見るとそこのは、見知らぬ男達が立っていて…。

あっ、知ってるわ。こいつら、俺が最前列に行こうとした時に、邪魔した奴だ。

俺は一瞬、身構えた。因縁でも付けて来るなら、やってやるぞと闘志を奮う。

でも、すぐにそれは違うと思った。

彼らに非はない。割り込んだのは俺だし、俺だって彼らと同じ立場だったら、不満と怒りで邪魔していただろうから。

だから、

「済みませんでした!」

構えを解いて、俺は頭を下げた。

すると、俺の肩に男の太い手が乗る。殴られるかと思って顔を上げたが、そこにはニヤリと歪な笑顔の男達が居た。彼らが差し出した手は、殴る為の握りこぶしではない。握手を求める手だった。

「謝るなよ。寧ろ、俺らこそ謝らせてくれ。さっきは邪魔しちまって悪かったな」

「知らなかったよ。あんたがあんな、すげぇ奴だったなんてさ」

「お陰で、蘇枋様の笑顔が見れた。俺らみんな、兄ちゃんに感謝してるんだぜ?」

俺が握手に応じると、男達は俺の肩や背中をバンバン叩いて、謝罪と賞賛の言葉を投げかけてくれる。

本当に、感謝しているみたい。

「それは良かったです。皆さんの前に割り込んで、質問も独占してしまったので、心苦しく思っていました」

「良いって、良いって。寧ろ、次もよろしく頼むぞ」

「えっ?次?」

驚いて聞き返すと、大きく頷くオヤジ。

「ああ、そうだ。次…と言うか、他の会場にも来て欲しいんだよ」

「俺はナナ様の方に来て欲しいな」

「オラは断然、スバル様の会場だ。あの人、全然質問に答えてくれねぇからよ。兄ちゃんが王子の心を開いてくれ」

えぇ…。俺、慰問会の雰囲気かなり苦手なんだけど…。

そう言いたいけど、目の前の男達は期待の籠った眼差しを向けてくる。

まっちゃん、係長。誰か、助けてくれ…。