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作品タイトル不明

第91話 トールステイン大王伝記 黄金の章

北方連合王国は、長い歴史と領土の拡大に伴って何度かの首都移転を行ったが、現代の首都はデンマーク地方のコペンハーゲンに定められている。

そのため首都が移転される度に移転元では「我こそが北方王国発祥の地」と称することとなり、最初の首都についての記録は混迷を極める。

「いったい北方連合王国の最初の首都が本当はどこであったのか」との話題は研究者のみならず多くの歴史ファンや北方王国国民の関心を惹きつけ続けている。

現在の首都コペンハーゲンの国立図書館では、歴史的文化的正当性を示すためか、多くの予算を割いて中世から近現代へと何度も写本が繰り返されたトールステイン大王の膨大なサーガが、多くの研究者の努力により現代語訳されているし、申請すれば翻訳本を読むことや借りることが出来る。

翻訳された膨大なトールステイン大王の伝記の中でも、黄金時代と呼ばれる王国拡大期のサーガの人気は高い。

永く黄金の羊皮紙に連ねられてきた物語は、活字となって現代の人々の目と想像力を楽しませている。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

聞け、北風が運ぶは勝利の凱歌

トールステイン大王の御国は、昇る日のごとく世界を照らす

その玉座の周りには、綺羅星のごとき異才が集い、宿命の輪を回す

外征を司る三将軍は、戦場の嵐を飼い慣らし

内政を補佐する三詠聖は、王国の血脈を黄金で満たす

王がアスガルドの神々より賜った兵書を授くれば、文字は知恵の礫となり、兵の脳を叩いた

盾を振るう腕に戦術の魔力が宿り、精鋭たちは狼の足を、神々の眼を得た

トールステインの軍団が駆ければ、雪原は震え、大地は平伏す

その速きこと雷光のごとく、追いつける者は九つの世界に一人もなし

異国の王子たちは、白き船の館に集い、人質の名を捨てて賓客となった

剣を交え、杯を乾かし、彼らは鋼の友誼で結ばれた

一人前の証として授けられた黄金の盾は、太陽のごとく彼らの胸で輝いた

予言の巫女シグリズは、トネリコの杖を振り、王国の行く末を寿いだ

「剣を抜かずとも、万国はひざまずき、知恵ある者は皆、北の王を慕う。

王よ、さらに器を広げよ。世界中の才知を、その懐に飲み込みたまえ」

霧の魔女の弟子アーシルドが角杯に呪文を唱えれば

ただの蜂蜜酒は女神エイルの滴となり、死の淵にある戦士を呼び戻した

その薬を啜った兵の肉体は、鉄をも弾く不死身の城壁と化した

諸国は大王の知恵を乞い、遣わされた賢者たちを黄金で誘った

だが、王に魂を捧げた者たちは、微笑んで首を振るのみ

代わりに多くの姫たちが、北の光に導かれ、王国の妻として縁を繋いだ

王が冷たき煙を操る術を教えれば、銀の魚たちは琥珀の宝へと変わった

燻された鱈や鮭は、歳月を拒み、永遠に民の飢えを追い散らした

家々は銀と蜂蜜で溢れ、梁は魚の重みに耐えかねて悲鳴を上げ

倉の壁は膨らみ、豊かさの重圧に村々は歓喜の声を上げた

人口は野の草のごとく増え、その勢いは止まることを知らず

トールステイン大王の威光は、ついに世界の果て、

ユグドラシルの根にまで届かんとしている

かくして、トールステイン大王の黄金時代は、

絶えることなき豊穣と、不敗の神話とともに刻まれたり

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

11世紀後半のブレーメンの歴史家アダム・フォン・ブレーメンは、北方王国の隆盛をまさに目の前で観察していた人物であり、その記録は興味深い。

「野蛮な北方人達は冬でも北海の荒海を自在に渡り、当初は戦で、後に商品で我らの地から金銀を奪い去った。神の教えも、彼らの斧と魚、酒と薬の前には無力であった」と、北方の異教徒の脅威について記している。

「興味深いのは、アダム・フォン・ブレーメンの記録は、当初は嫌悪を込めて、後に賞賛へと変わっていったことですね。一つには、北方からの圧力が西方への移民運動によって減退していった、ということがあるかもしれません…」

リアムは歴史の教師の話を聞き流しながら、隣の空席をぼんやりと見つめていた。

いつも話している友人がいないと、何となく調子が出ないのだ。

一方、学校を風邪で欠席したルーカスはベッドで寝込み、母に看病されていた。

「全く…雪の中でクナトルレイクに夢中になりすぎて風邪を引くなんて。体ばっかり大きくなって、やってることは小さい子供ないんだから」

「…母さん、喉痛い」

「はいはい」

ルーカスは、母から A&E製薬(アーシルド&エリンズ) の瓶入り蜂蜜味の喉飴を受け取ると口に放り込んで舐め始めた。

6章 了

作者です。

ようやく26万字!しかしトールくんはまだ6歳。

サーガはまだまだ続きます。

完結まで書き抜く力を蓄えるため、物語を気に入りましたら「★」やレビュー、ブクマといったった形で作品を支えていただけますと大変励みになります。

本当は伝記回に合わせてカクヨムサポーター限定のSSを書きたかったのですが、私事が重なり間に合いませんでした…数日中に書いてカクヨム限定ノートの方にアップしようと思います。今しばらくお待ち下さい。

今後ともよろしく物語の方にお付き合いくだされば幸いです。