軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第85話 冷燻施設をリニューアルしよう 6歳 冬

鱈の漁期が迫り、村の雰囲気が慌ただしくなってきた。

《《誰かがいろいろとやらかした》》せいで今年から外貨獲得の事業が随分と増えたけれど―― そして膨大な管理業務で死にそうになったけれど―― 去年までは鱈漁の漁獲と風乾鱈の輸出こそが、村の一年間の収入と生存を決めていたのだ。

大袈裟な表現ではなく、鱈が穫れれば潤い、鱈が穫れなければ死ぬ。

言い換えれば、村の仕事や役割の全ては鱈漁のために出来ていた、と言っても良い。

「よーし!こっちの基礎は済んだぞ!」

「石を積むぞ―!もっと持って来い!」

「ちゃんと長さは測ったのか!巻尺持って来い!」

そのため、冬の製塩権を有力者から取り上げるという政治的荒療治を施してまで村営の大型の製塩所の建設も進めるのと同時に、漁獲した鱈を冷燻するための大型冷燻施設建設が進んでいる。

なにしろ冷燻した鱈は交易で風乾の鱈の3倍の値がついた、という事実があるからね。

村のメイン収入が3倍になるかも、となれば村を上げての大事業。

イベント開催とかいう手間がかかる怪しげな新規事業は女子供に丸投げするとしても、既存事業の拡大は既得権者の独壇場となるわけでして。

最近は、そうした土木工事に、父ちゃんの指揮下で汗を流す貴族子弟も混じって汗を流す姿も見られ、村の人達が彼らを見る目も変わりつつあるみたいだ。

早朝の訓練や夜間の薪割りも相まって、良くやっている、という評価になってきているらしい。

「暇なことはよいことーるるるー」

久しぶりにブラック労働哀歌を歌っていないことからわかるように。

そんなわけで、村の大型施設の建設については僕はあんまり絡んでいない。

そもそも村全体で行う公共事業となれば、必要なのは村人を指揮する力と利害を調整する政治力だからね。

要するに、筋力と権力だ。僕はどっちも持ってない。

村長さんにお任せしてる。

「なるほどねえ、やっぱり四角い石造りの小屋にしたのか」

ときどき、工事現場の視察に行く余裕まである。

冷燻の施設は温度の低い煙を扱うので火災の危険は低いけれど、火の粉が飛んでくる可能性もあって火事のリスクはゼロではないので、伝統的な石を積んだ四角い燻製小屋を建てているようだ。

木製の船小屋を臨時の燻製小屋にしたのは、本当に臨時対応だったのだよね。

僕がしたことと言えば、煙突はできるだけ高くしておいたほうが煙の抜けがいいですよ、とだけ村長婦人や父ちゃんを通じて助言をしたけど、それぐらい。

特に設計に新規性はないので、比較的順調に進んでいるみたい。

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

「あちらが四角なら、こっちは丸くしてみようかな」

僕は泥を捏ねて板をぶすぶすと挿す。

子供らしく粘土細工で模型作り…というわけでもない。

僕が手掛けているのは、我が家の方の冷燻施設の拡充。

こちらは僕の好きに設計ができるからね!

「それが、これか?」

「そうです!新式の 螺旋(グルグル) 煙流冷燻石塔!の、模型です」

僕は家族に、粘土で作った大きいコップを見せていた。

特徴といえば、内側に何箇所か木のひだがついてるぐらい。

「なあに、これ?飲みにくそう」

「いや、冷燻施設の模型だそうだ」

「実物は上下逆になる予定なんだ。さあてお立会い。ここに壁際から水を流すと…」

グルグルと綺麗にコップの外壁に沿って螺旋を描いて水が抜けた。

「はい!見事に水が綺麗に流れて抜けました!」

「…それで?」

「水を煙と考えてみて。燻製小屋をこのような形の建物にすれば、煙がグルグル回って抜けるのです!」

「…それがどうかしたの?」

「煙がグルグル回ると、冷燻が吊るす場所によらずムラなく早くできるのです!」

「えー、本当?」

流体力学的プレゼンは失敗したらしい。模型、頑張って作ったのに…。

仕方ない。諦めが悪い僕は、次のアプローチに移る。

「そして円筒の塔の形にすると、材料と柱が少なくても高く積めるのです!支柱を兼ねた干すための柱も真ん中に一本立てればいいだけで済みます!」

「なるほど?それはいいかも」

「柱は真ん中にあるなら、吊るしやすいかなあ?ちゃんと枝つけてね」

「壁の内側の支えを兼ねたやつをつけます」

「じゃあ、いいかなあ」

流体力学的プレゼンは失敗したけど、構造と材料費からの説得は成功したみたい。

もともと回収しようね、という合意はあったし。

本当はムラ無く乾燥させるために鱈を吊るした柱の方をこそグルグル回したかったのだけど、動力機構が無理そうだったので断念した。

そこで煙の方を回せばいいじゃん!との思いつきが、壁際に設置したフィンなので。逆転の発想だね。

すごくいいアイディアだと思ったのだけど、あんまり理解はされなかった。

まあいいさ。実績でアイディアの良さを証明すればいいんだ。

とりあえず円筒形の燻製塔は建てられることになったんだし。

「と、いうわけで。父ちゃん。エリン姉。改修を手伝って下さい」

「まあいいけど…」

「泥と石では見た目もよくなかったからなあ」

粘土で模型も作ったし、ちゃんと設計通りに石を積み、漆喰で固めながら塔を高くしていく。

何箇所かは、わざと内側に石をはみ出させて板のフィンをのせられるようにもした。

所詮は家庭用途なので、基部の直径が1.5メートル、高さは2メートルもない代物であり工事は順調に進む。

僕も父ちゃんも、この1年、だいぶ土木工事はやってきたからね。

問題は、冷燻施設工事は社交場のベンチの煙を利用する機構の関係で、お喋りをしながら糸紡ぎをしているご婦人型の目も惹くことになるわけで。

「あら?燻製の施設を建て直してるの?」」

「はい。やっぱり美味しい燻製を食べたいですからね」

「綺麗な石製ね!すごく美味しい燻製が食べられそう!」

ご婦人方も、工事中の僕達に声をかけてくれる。

ここで造られた燻製は、去年もずいぶん社交場の卓に提供したので関心も評価も高いみたい。

顔見知りの何人かのご婦人と談笑していたら、また別の女性から声がかかった。

「この燻製小屋って、すごく変わった形をしているのねえ?」

「はい!丸いと煙がよく回るんです!」

「すごいわねえ…あなたが思いついたの?…トールステイン」

はっ、と聞き覚えのある声にそうっと後ろを振り向くと、もの凄い笑顔を浮かべた村長婦人がいた。

なぜか、それまで話していたご婦人方までが周囲からいなくなっている。

父ちゃんとエリン姉まで消えていた。う、裏切りもの共めー!

村長婦人は、笑顔を浮かべたまま迫ってくる。

「さて…いろいろと教えてくれる?トールステイン?」

「いえ…あの…ちょっとした思いつきなので…」

「思いつき!あなたは、いろいろと思いつくのねえ…目の届かないところで…」

「はい…いいえ…はい…」

結局、僕は滝のように冷や汗を流しながら、新式の螺旋式煙流石塔について、出来の悪い模型まで引っ張り出して詳しく説明をする羽目になったのだった。