作品タイトル不明
第67話 第1回世界クナトルレイク大会 6歳 晩秋
翌朝は真っ青な秋らしい快晴の空。雨が降らなくて助かった。
秋の柔らかい太陽が差し込む緑の競技場には白い線が真っ直ぐに引かれ、朝からご飯をたくさん食べて元気一杯の少年達が整列をする。
いよいよ、子供クナトルレイク大会の開幕だ。
うちの村の子達は選手と控えの14人が2列で綺麗に真っ直ぐ並んでいるけれど、 海の岬村(ハフネス) 、 鯨の滝村(セルヴィーク) 、 林の集落(ルンダスタジル) の子達の列は、2列だったり3列だったり曲がっていたりとバラバラ。
ちょっと集団行動とか慣れてない感じがするね。
一方で、観客席でも貴賓席におわす村長含めて貴い身分の方々は、元気溌剌とは行かないようで。
朝まで飲んでいたのか腫れぼったい目をして、少年達よりもだらし無い姿勢で椅子に体を預け、出された薬草茶を大人しく飲んでいる。
まったく。何をしに遠方まで遥々やって来たのだか。
「開会の宣言!」
進行役の合図で村長が出てきたのだけれど、酒で喉が焼けているのか気分が悪いのか、声に張りがなくつまらない校長先生の挨拶みたいな話をして下がっていった。
会場にも、期待外れと言うか、だらりとした空気が漂う。
「ふー…仕方ないなあ」
だらしない大人達のせいで、こんなに皆が頑張って準備してくれた大会を台無しにしたくない。
僕は、ちょっとだけ張り切ることに決めた。
ひとつ、酒で曇った頭と目を覚まさせてやろうか。
僕は子供の代表として前に出る。
「ブゥゥゥ―――――――ッ!!!」
おもむろに、首から下げていた角笛を大音量で吹き鳴らしてやった。
よしよし。少しは目が覚めたかな。
おじさん達、、ちゃんと目を見開いてよく聞いてなさいよ。
「これより、《《第1回世界クナトルレイク大会》》少年部の開催を宣言します!
我々は真実と正義の神、フォルセティの名にかけて、掟に則り、卑怯な技を使わず、嘘で勝利を盗まず、アスガルドの神々に戦士として恥じない戦いを行うことを誓います!」
一旦中断し、観客席を向いて「フォルセティの名にかけて!」と叫ぶと、観客席に仕込んでおいたサクラから「「フォルセティの名にかけて!」」と復唱が返ってくる。
「フォルセティの名にかけて!」
「「フォルセティの名にかけて!」」
「フォルセティの名にかけて!」
「「フォルセティの名にかけて!」
観客席に仕込んでおいたサクラがベンチを叩いて叫ぶのに続き、他の観客も大喜びで大音声で「フォルセティの名にかけて!」と続いた。
これぐらい《《かまして》》おけば、他の村の子達もちゃんとルールは守るだろう。
貴賓席を見れば、貴い身分の方々にも大声援が届いたのか、しっかりと目を見開いて眠気も吹き飛んだ様子だった。
そうそう。遊びに来たわけじゃないんだから、しゃっきりした頭で試合を見てもらわないとね。
「アスガルドの神々の加護を!」
続いて進行の合図で、盾を1つずつ頭上に掲げた若い女性が入場してくる。
その数は10人。
10個の盾には、ニーズヘッグやヨルムンガンドなど、北欧神話に基づく別々のモチーフが描かれている。
この場で、各チームがどの神々に加護を受けるのか、を選んでもらうのだ。
「うおおおっ!格好いい!大人用はないのか!」
「あの盾はいいな!ヨトゥンもあるぞ!」
観客席は貴賓席も含めて盛り上がっているけれど、実は直前になって無理くり押し込んだイベントだったりする。
他の村の子達が持参した盾は規格外で怪我しそうだから使いたくないので、うちから貸し出すことにする。
そしてどうせだからと、貸出自体を開会式のイベントとしてしまったのだ。チーム用盾は20チーム分用意してあるけれど、3チーム選出には多すぎたので10チームだけにした。
「アスガルドの神々の加護を!」
チーム代表者が前に出て、矢筒に挿された10本の矢から1本を引き抜く。
鏃に結ばれた布の色と同じ盾の色が、即ちチームの加護の盾を示すことになる。
「灰のスルトの加護を授ける!」
矢筒の籤が引かれると、灰色に塗られスルトのエンブレムが描かれた盾がチームの代表者に渡される。
代表者の少年は、誇らしげに高々と頭上に盾を掲げ、観客たちは「スルトの加護を!」と叫んだ。
同じことが2回繰り返され、各チームには「橙のゲリ」「翠のニーズヘッグ」の加護が授けられた。
ちなみに、僕の村は最初から赤のフギンの加護、と決まっていたので加護を決める矢筒の籤には参加できなかった。なぜだ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
さあ。いよいよ第1試合の開始である。
栄えある第1回世界クナトルレイク大会少年部、第1試合の組み合わせは、我が村と海の岬村である。
そして僕はなぜか開会式の後、貴賓席の方に連行されて村長婦人の横に座らせられている。
村長のように酒臭さがないだけマシではあるけれど、着飾った身分貴いおじさん達に挟まれて居心地が悪い。
「あれ?父ちゃん?」
貴賓席にいないと思ったら、父ちゃんがなぜか審判をやってる。
「選手入場!」
合図に従い、両チームの選手が入場してくる。
ちゃんと盾とスティックを備えた人間が20人も揃うと、子供と言えどもちょっとした戦士団の趣があって、なかなか格好いい。
「チーム、赤い羽根のフギィィィィン!!!」
チーム紹介が行われると、ガンガンガン!と盾をスティックで叩き選手が応えて、1人の子が進み出て戦士の 凱歌(チャント) を高らかに歌い始める。
「フギンよ、フギンよ、
知恵を我に与えよ!
賢く知り、勝利を掴む!」
「「フギン!知恵!勝利! フギン!知恵!勝利! フギン!知恵!勝利!」」
残った子供達が盾を叩きながら唱和する。
観客席も慣れたもので、大声で「「フギン!知恵!勝利!」」と繰り返す。
今度は相手のチームの番だ。
「チーム、灰の腕のスルトォォォォッ!」
進行役はテンション高く大声で紹介してくれたのだが、戦士の凱歌という文化に不慣れなのか、小さく盾を叩いただけで終わってしまった。
「両チーム整列!」
両チームが試合開始のために整列すると、うちの村の子の方が体格も勝ってる気がする。だいたい同じくらいの年齢の子を選んでもらったはずなんだけど…?
審判が試合開始の角笛を鳴らし、水時計の栓が抜かれた。
最初の盾合わせが始まる。
なんかスルトの子達、ギクシャクしてるな。
どうも戦列を組んだ盾合わせに慣れていなさそうだ。
「巨人の粉砕!」「おう!」
競技中の子供というのは残酷なもので、敵に弱点があれば喜々として突いていく。
軽くガツン、と盾同士がぶつかる音がしたかと思うと、相手の盾列があっという間に崩壊し、あれよあれよとラグビーでいうモールのように集団になった状態で、そのまま相手のゴールまで押し切ってしまった。
「ゴ―――ル!」
得点を示す角笛が吹かれ、得点黒板に大きく、1を示す縦線が貝殻棒で引かれる。
「うぉおおおおっ!」
「強い!強いぞ!なんだあれ!」
「うちの子、戦列にいるのよ!」
「すげぇ――――!あっという間に押し切っちまったぞ!」
ホームの観客席は、村の子供達の強さと活躍に大人も子供も大喜び。
控え選手たちも盾を棒で叩いて叫び得点を祝福する。
「なんだ、今の…」
「くそっ!お前らもちゃんと押せよ!」
「やってるって!お前も盾合わせしっかりやれよ!」
一方で灰のスルトチームの子達は、何が起きたのかわからず混乱しているようだ。
失点後、団子になって言い合いをしているし、チームを指導するコーチなどもいないようだ。
このまま試合を続けると、どんどん点差が開きそうだなあ。
ちょっと酷い試合になるかもな…と少し胸が傷んだ。