軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第126話 皆から借りたから怖いを文書にしたよ 7歳 夏

「では。裁判の続きを始める。被告の4つの村の代表者は前へ出よ」

僕の20の村の村長たちへのプレゼンテーションの後で、裁判の続きが実施された。

例の裁判チャート図の通りだ。

裁判内容についても争う点もなかったので粛々と進行され、アルンビョルンに率いられて襲撃に加わった4つの村の村長と船員たちへの量刑が宣告される。

そして、この裁判の量刑の宣告は、後に僕達20プラス1ヶ村の協定連合が歴史に名を記す第一歩となるのだ。

「船長については、賠償額は各牛40頭もしくは相当の銀または羊毛布での支払いとする。船員は各牛2頭もしくは相当の銀または羊毛布での支払いを認める

量刑を示すまでは普通の判決だよね。

ところが、この後の支払い方法についての判決が、歴史に残る画期的な点となるのである。

法話者が量刑に示された賠償支払いの方法について説明をする。

「支払いについては20ヶ村の名のもとに10年間の分割支払いを認める。最初に10分の1相当額の支払いを行えば、以降10年間にわたり年に1回、10分の1額を支払うものとする。支払日は今日を起点とし、来年の今日までに2回目の支払いを、この場所まで納めに来ること。

また村の代表者が全ての個人の賠償を取りまとめて納めにくる場合は、その年の賠償額の2割を減免とする」

個人債務をいちいち計算して取り立てなんて面倒くさくてやっていられないからね。

村長が一括して回収して持ってきてくれるというのならば、手間賃は減免される。

「分割…?10年かけて支払えばいいのか?」

「村でまとめれば2割減免…減らすってことか?」

「いや、それは…ありがたい…ありがたいが、それでいいのか?」

ところが、当の村人達といえば、聞いたことのない緩い条件の支払いに判決をに却って動揺する始末なのである。

続いて長船の所有と賠償についての判決が続く。

「また。襲撃に使用された4隻の長船について。通常であれば半分の2隻を買収のために没収とする…ところであるが」

法話者は言葉をきり、ゆっくりと理解できるよう説明をする。

「長船を1000頭相当の牛の財産であるとみなし、2隻の2000頭に相当する価値を4つの船に分割し、各村に半分の牛500頭相当の支払いを求める。

また個人の賠償と同様に10年間での分割支払いを認める。

ただし支払いが滞る場合は長船を没取するものとする」

「つまり…長船を…返してもらえるのか…?」

理解が及ばない…という顔をしている被告の村の船長たちに、法話者が返却と貸与の違いを説明する。

「いや。そうではない。長船は我らに没収された後に貸し出す形をとることになる。つまり貸与だ。所有ではない。引き続きの利用自体は認められるが、10年間の貸出費用を支払い終えることで長船は正式に手元に戻されることになる。

10年の返済の途中で支払いが滞れば、我らに長船は没収されることになる。

また長船が何かの理由で失われた場合でも、返済の支払いが10年間行わなければならない」

返済が途中で滞れば没収される。途中で失われても最後まで返済の義務は残る、という2点を強調する。

「そして返済の支払が滞った場合は、我ら20ヶ村が連合して村へ侵攻し財産の取り立てと差し押さえ回収に向かうことになる。

支払いを免れる、などとは思わぬことだ。誠実な返済を期待する」

賠償金を踏み倒そうとした場合、20隻の長船に満載された戦士達が家畜と財産を没収するために押し寄せる光景を想像し、被告の船長や船員たちの顔色が悪くなる。

債権回収に押し寄せる戦士達は、以降の見せしめのためと手間賃として、ついでの余録に村の資産を根こそぎ持ち去ることだろう。

「我らがこのような寛容を示すのは、北方社会の団結を促すためでもある。

共同体の一員として、罪を償った上で、我らが築く社会に参加して欲しい」

法話者は、最後に被告の村と人々への期待を示して裁判を締めくくった。

我らはあくまでアルンビョルンという悪人に騙された被害者であり、賠償と贖罪の期間が過ぎた後には良き隣人としてつき合いたい、という意思を示したのだ。

10年分割で利率が1割、などという利益はこの時代にあって無いも同然の利率であると言える。

賠償金の支払いは金融の利益が目的ではなく、対象が困窮で自暴自棄になることを防ぎ、支払いの継続それ自体を和平状態の継続履行と見なすという防衛目的である、という賠償の支払い条件の性格を示している。

それは北方社会において「武力行使と力による支配」ではなく「取引と支払いによる平和を目指す」という僕達の意思でもある。

4つの村の代表は、強い者達の集団から寛容を示される、という接したことのない新しい世界の価値観に戸惑いを隠せないようだった。

「これが賠償額と支払い条件を示した羊皮紙だ。署名するがいい」

「はい…」

「こ、これは…!?」

代表者達は、渡された羊皮紙に顔色を変えた。

賠償額と支払い条件を示した羊皮紙には、文字が読めずとも判るように、ずらりと20ヶ村の印による署名がされていたからだ。

絶対に賠償金の踏み倒しを許さない、という強い意思が示された書式である。

結局、債権の額と支払い条件については以下の通りとなる。

・個人賠償 :村長各牛40頭(総計160頭) 船員各2頭(総計400頭)

・長船貸与 :各牛500頭相当の銀または羊毛布(総計2000頭)

・支払い方法:10分の1額を直ちに。以降10年間に渡り年に1回

・支払い日 :本日を起点とし、来年の今日まで。

・支払場所 :被害村へ直接代表者が持参

◯ ◯ ◯ ◯ ◯

「では、我々が債権の回収を共同で行う協定についても文書として残すこととしようか。我らの団結を形に示そう」

賠償に関する裁判が終わり、20の村々の代表と僕の村の共同で債権回収と利益分配を行うための協定と、大クナトルレイク大会の実施と出資に関する取り決めが発行されることとなった。

また、20プラス1ヶ村は支払場所と支払日についても、年に1度開催されるクナトルレイク大会の競技場と開催日にとすることについても同意した。

協定発行を喜ぶ大人達とは反対に、主導者の一人であるはずの僕の気分は晴れない。

「20も村が集まるクナトルレイク大会を年に1回、やることになってしまった…」

4ヶ村子供クナトルレイク大会の実行だけで、あんなに大変だったのに…。

誰かのせいにしたいけれど、誰を責めることもできないのがつらい。

「とりあえず試合は日程分割して、開催期間を長引かせる方向にするかな…」

代表者には一同に集まってもらうとしても、チームと試合は分割しよう。

そうでないと村の運営容量が確実に破綻する。

いきなり1年間で立派な競技場を建設するのは無理だろうけれど、木造で観客席を増設しつつ、宿泊所や市場も場所だけは決めた上で、10年をかけて徐々に建設していけばいいかな。

「建設の方は、お父ちゃんに頑張ってもらうとして…」

村の女性達のおかげで、屈強で若い男達という建設作業にもってこいの人材も大勢確保できたことだし。持参金の返済のために、きっと頑張ってくれることだろう。

賠償金を抱える村からも建設労働者を迎えるのも良いかもしれない。

建設業という新規事業が村に誕生することになるね。

管理者の村長婦人も涙が出るほど喜んでくれるだろう。

ぐりぐりは無しの方向でお願いします。

「…持参金と賠償金のために働く?」

ふと。それって借金で縛って肉体労働をさせてるのでは?という疑念がちらりと脳裏を掠めたけれど、村の発展のために僕は気がつかない振りをする。

これは公共工事だからセーフ!…大麦酒をちゃんと差し入れるからね。

そして協定発行における最大のリスク要因であるところの村長さんは、正直なところよく意味がわかってないかったみたいだけれど、村長婦人や他の村長たちに偉大な取り組みについて賞賛されている間に、細かいことは気にならなくなったようで快く印を押してた。名前を署名するのでなければ抵抗感は薄いらしい。

「しかし、債権回収の協定集団、というのも何だか味気ない名前だな」

「そうだな。とりあえずの王に対するカモフラージュとしてはそれでも良いが、なにかこれ、という名前が欲しい」

という声が村の代表者達から上がった。

「名前。名前か…」

「トール、何かアイディアはありませんか?」

いつの間にか会議に紛れ込んでいたシグリズ様が、僕に無茶振りをする。

たしかに。協定の集団のための格好いい名前を考えたいね。

名前が格好良ければ名乗りたくなるし、名乗り続ければ愛着も湧く。

「格好の良い名前も欲しいけれど、旗も作りたいよなあ」

船団と言えば旗なのである。今は僕の村を示すフギンのバインドルーンが帆に描かれているけれど、全ての長船の帆にフギンを描くのも変な話だろうし。

「それに地図も欲しいし」

互いの村に行き来しやすいように地図もしくは航路図も作りたい。

なんと北方社会には海図や航路図はないのである。

全ての航路は熟練の航海士の頭の中だけにあり、民会で互いに話をしたりすることで徐々に頭の中の航路図を広げ、案内してくれる航海士のネットワークを広げていくというやり方をとっている。

たしかに集団としては航路の蓄積が担保されていくことにはなるが、そうした暗黙知の蓄積の方法では拡大した協定の交易を支えられないだろう。

「うーん…うん?」

「どうかしましたか、トール?」

一つ、これらの全ての問題を一度に解決するアイディアを思いついた気がする。