軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

74. BuoooNo!

お昼時。食堂には、家族みんなとほぼ住み込み状態のレミーが、ちゃっかりと顔を揃えていた。

大人三人は、さっそく白ワインのボトルを開けている。

従僕が注いで回る傍らで、執事のティエリーが、ワインの説明をしていた。

「本日の食前酒は、ヴァレー産二年物の ペッシュ・エトワール(星のような桃) 。その名の通り、華やかで甘い桃の香りが特徴でございます。口に含むと、弾けるような爽やかさと、優しいフレッシュさが溢れるワインとなっております。前菜には、旬の桃とチーズの生ハム巻きをご用意致しました」

(何それ……。すごく、美味しそう……)

ティエリーの説明に、僕はごくりと生唾を飲んでしまった。

もちろん、前菜は僕たち子どもにも同じものが出されている。

でも、僕はリモン水、リュカは果実水なのだ。

この桃の新鮮な甘さ・チーズのコク・生ハムの塩気を、白ワインと一緒に流し込むのは、どんなに 愉悦(ゆえつ) だろうか!しかも、休日の真昼間から!

僕はつい、グラスを傾ける大人たちを、恨めしい目で見てしまった。

前菜の次は、 瓢箪(ひょうたん) のような形をした、かぼちゃのサラダだ。

実は塩とチーズで味付けされていて、蒸された皮がそのままお皿になっていた。

従僕が人数分に切り分けて、サーブしてくれる。

実と皮を一緒に食べると、ピーナッツバターのような風味がして、甘くて美味しかった。

リュカも気に入ったのか、フォークでぷすっと刺して、あぐあぐ食べている。瞬殺で、もう一切れ、おかわりをもらっていた。

(本当に、調理人たちの料理は美味しいなあ)

旬の食材を上手に取り入れて、栄養に気を配った、美味しい料理を毎日作ってくれる。

そんな料理が食べられて、僕たちは幸せだった。

サラダの次は、素朴な枝豆の冷製ポタージュを楽しみ、いよいよ待ちに待ったピザだ!

最初の一枚目は、定番のマルゲリータだった。ガーリックとトマトソースのいい匂いが漂う。

焼きたてなので、見るからにチーズがとろとろで、焦げ目まで美味しそうだった。

グルマンドが、目の前でざくっざくっと8ピースに切り分けてくれる。

冷めないうちに、僕たちはさっそく1ピースずつ手に取った。

三角の頂点にかぶりつくと、生地は歯切れの良い軽快な音がして、とろ〜んとチーズが伸びる。

旬のトマトをぎゅっと煮詰めたソースはとても濃く、バジルの良い香りが鼻を抜けた。

(あ〜〜〜! これ! これが食べたかったんだ!)

「あら、あら。食感がとても軽いのね」

「これは美味しいですね」

「うむ。これには白もいいが……軽めの赤も良さそうだ」

「すぐにご用意致します」

大人たちがどのワインに合わせるか談義している隙に、残っている3ピースのうち、1ピースをリュカがさっと取って、静かに口に運んでいた。めざとい。

一枚目が食べ終わる頃合いを見計らって、また次の焼きたてピザが、石窯から届けられる。

時間を計算して焼き、厨房と食堂を往復する調理人たちには、感謝しかない。

マルゲリータのほかにも、旬のバジルソースとチーズのピザや、きのことベーコンのガーリックオイルピザもあり、どれも全部美味しかった。

(6ピースは食べたかな? 一枚が小さめとは言え、もう結構お腹がいっぱいだ)

僕たちはピザパーティーを、心ゆくまで 堪能(たんのう) した。でも、まだ最後にデザートピザが待ち構えている。

今回、デザートピザは2種類用意した。

1つはリュカが作ってくれた、葡萄ジャムをたっぷり塗って、癖のないチーズを乗せたものだ。

同じピザ生地ではあるのだけれど、不思議とパイのような感覚で食べられて、とても美味しい。

口直しに古樹の新芽茶と合わせると、すごく贅沢なデザートだった。

(甘じょっぱくて、ついつい食べられちゃう……)

おばあちゃんはもう十分なようだけど、他のみんなはしっかり平らげていた。しかも、甘党のレミーは、お代わりまでしている。

そして、最後の最後は……僕が密かに楽しみにしていた、大好物の青かびチーズピザだ。

グルマンドに青かびチーズがあると聞いて、つい小躍りして作ってしまった。

ただ……これはちょっと、いやかなり、失敗だったかもしれない。

焼かれたことにより、鼻どころか目にもつーんと来る強烈な臭い匂いが、部屋に充満してしまっている。例えるなら、洗い替えせずに十日間履き続けた、靴下の匂いだろうか。

普段、当たり前のように固形を食べているはずの大人たちも、これにはさすがに顔をしかめていた。

「ルイ……それはなんだ。もしや青かびチーズか?」

「う、うん、そうだよ……。これにはちみつをかけると、本当に合うんだ」

内心、「後でこっそり一人で食べればよかった!」と思いつつ、後に引けない僕はピザにリモンのはちみつをかける。

そして、垂れてくるはちみつを一滴もこぼさないように、大きな口で頬張った。

(え! 何これ! うっま〜!)

匂いは確かに癖が強いけれど、味は抜群だった。

チーズの豊かな風味・コク・まろやかさに、甘酸っぱく爽やかなはちみつの甘さが一体になっている。

ゲテモノ感のある、この組み合わせを思いついた人は天才だ!と、思わず賞賛してしまった。

心底感動している僕を見て、大人たちも恐る恐る一口食べ、目を見張っていた。

その初めての絶妙な調和に、言葉が出ないようだ。

……ただ一人をのぞいては。

リュカは青かびチーズピザが届いてからずっと、鼻をつまんでいた。体も大きく 捻(ひね) って、見るからに全身で嫌がっている。

(幼児には、この匂いも味も早かったか……)

無理に食べさせるつもりは毛頭なかったのだけれど、リュカは青かびチーズピザを食べた僕が、近づくのさえ嫌がった。

挙句には、眉間に皺を寄せたすごいお顔で、大きく叫んだのだ。

「やー! くちゃっ! にいに、くっちゃ!」

リュカの「臭い」は、それはもう的確に、僕の心を刺した。

さらに、その日は一日中、「くちゃいの、や!」と抱っこを断固拒否され、僕は初めて膝から崩れ落ちたのだった。