軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47. 花娘と初恋(?)の予感

大道芸の次は、音楽隊がアップテンポで陽気な音楽を演奏し始めた。

つい身体をノリノリで揺らしてしまいそうになる。

その曲を待ってました!と言わんばかりに人々が立ち上がり、二重三重の輪になる。

僕たちはその流れについていけずに、テーブルと一緒に端に追いやられてしまった。

何が始まるのかと中央のステージに目をやると、揃いの衣装を身に纏った女の子が5人、躍り出た。

そのうちの一人は、ヌーヌおばさんの娘のアネットだった。

彼女たちも手を繋いで輪を作り、音楽に合わせてステップを踏む。

白いタイツに包まれた、長く綺麗な足を前に蹴り出すような独特なステップは、軽快でキレがあった。

それに、彼女たちがくるくると風に舞うと、真っ赤なロングスカートも翻って、花が咲いたように華やかだ。

(おお〜、すごい!)

しばらく僕は女の子たちの踊りに見惚れていたが、ふと気づいて周りを見渡すと、みんな思い思いに踊っていた。

年配のご夫婦はペアでゆっくり。小さな子どもを高い高いしながら、豪快に回るお父さんもいる。

それをみて、僕もリュカと踊ってみることにした。

(踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々…って言うもんね)

前世の言葉を思い出しつつ、リュカの小さな両手を握って、1212と左右にステップを踏んだり、くるっと片手で回してみたり。

最初はきょとんとしていたリュカも、次第に屈伸のようなヘンテコなステップを披露してくれるようになった。

「リュカ、楽しいね〜」

「たのちい〜!にいに、もっかい!くりゅっ!」

「はい、くる〜」

「きゃあ〜」

兄弟でわちゃわちゃ踊る僕たちを見守りながら、チボーは直立不動で周囲に目をやっている。

普段はチャラいチボーだが、見かけによらず、しっかりと護衛の役目を果たしていた。

そして、しばらくして曲が終わると、女の子たちは広場に散って何かを探し始めた。

そんな様子を取り留めなくみていると、アネットもきょろきょろとこちらにやってくる。

(?誰を探してるんだろう?)

不思議に思ってみていると、アネットと目が合う。

すると、ずんずんと人を掻き分けてやって来た。

「ルイ、見つけたわ!お願い。わたしと一緒に来て欲しいの!」

「え、一緒に来てほしいって…なんで?」

アネットとはたまに葡萄畑で姿を見かけたり、挨拶をするくらいで、特に親しいわけではなかった。

こんな風に、いきなり来て欲しいと言われる理由がわからなかった。

だから僕が断ろうとすると、タイミングよくニヤニヤ顔のチボーが声を掛けてきた。

「リュカ坊ちゃんはオレがちゃーんとみてるっすから、行って来たらいいっすよ。花娘に選ばれるなんて、坊ちゃんも隅に置けないっすね〜!」

「花娘?何それ?あ、ちょっと」

あれよあれよといううちに、チボーはリュカのハーネスを僕から奪う。

すかさずアネットが僕の肘に腕を絡めて来たので、振り払うこともできず、ステージに引きずられていくしかなかった。

(えええ〜?なに?なんで?)

僕があわあわしながらアネットについていくと、ほかの女の子たちもパートナーの男の子を連れて戻ってきていた。

「あのね、花娘はこの踊りの目玉なの。毎年、選ばれるのは5人だけ。だから、ヴァレーの女の子たちの憧れなのよ」

「へええ。そうなんだ。…でも、それで僕はなんでここに?」

「あのぅ…えっと、それはね…」

アネットはもじもじと言葉を探しているみたいだった。

ぎゅっとスカートを握りしめている。

俯いて顔はよく見えないが、耳の先が真っ赤だった。

(???)

そんな反応が返ってくるとは思わなくて、困惑しかない。

そうこうしているうちに、また音楽が流れ出した。今度はしっとりとした曲調だ。

アネットは、はっとして僕の手を取る。

何がなんだかわからないが、せっかく 女の子(アネット) が誘ってくれたのだ。

恥をかかせてはいけない。

「えっと、僕、ステップとかよくわからないけど…」

「心配しないで!簡単だし、わたしが教えるもの」

僕は他のペアを盗み見したり、アネットに教えてもらいながら、ぎこちなくステップを踏む。

腕を組んでくるくる回り、ホールドを組んでまた回る。そして、アネットと向かいあって左右の足をダンダンダンと足踏み。これで1セットだ。

あとはひたすらその繰り返しなので、途中で慣れて余裕が出てきた。

僕は足元ばかりみていた目線をやっとあげ、アネットを見る。

それに気づいたアネットが、にっこりと笑いかけてくれた。

アネットは三つ編みを頭の上で冠のようにまとめていて、耳元の赤い花の髪飾りがよく似合う。

いつもは前髪で隠れている形の良い額が丸わかりなのが、新鮮だった。

それに、リュカとも違う手のひらは、大きいけれど小さくて、とても柔らかい。

そう意識すると、途端に手汗をかいていないか心配になってきた。

(いやいやいや落ち着け僕!相手は同い年くらいの女の子だ。前世を含めると、下手したら娘。良くて歳の離れた妹くらいの子だぞ!)

落ち着かない気持ちを宥めていると、やっと曲が終わった。

(よかった…。やっと終わってくれた…)

そうほっとしていると、アネットが顔を真っ赤にして僕に話し掛けてきた。

「あのね…気になる男の子と踊れた花娘はね、その…成就するって言い伝えがあるの!だから、えっと。良かったら、覚えておいてね!」

「え?」

そう早口で言うと、アネットは走り去っていった。

(覚えておいてってどういうこと?え?なんで??)

僕の小さくなっていくその後ろ姿を、見送ることしかできなかった。

呆然としていた僕をチボーが拾ってくれて、家路につく。

気がつけば、もう日暮れに近かった。

祭りはまだまだ続くが、これからさらに酔っ払いが増える。

それに、夜はカップルや、出会いを求める男女の時間でもあるらしい。

子どもは退散する時間だった。

(なんだか色々あったけど、お祭り楽しかったな…)

すっかり疲れて、途中で寝てしまったリュカをおんぶしながら、今日を振り返る。

僕も疲労感はあるけれど、満ち足りた心地良い疲れだった。

また来年。美味しい葡萄とワインができることを祈って。

こうして、僕たちの初めての新酒祭りは、幕を閉じた──