軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

護衛の冒険者

さて旅には護衛がつきものだ。

パクスが贔屓にしている部隊もいるにはいるのだが、今回はあえて連れてきていない。その理由は、クルムとパクスという、圧倒的要人の護衛に対してスリップがどれだけの投資をしてくるかを確認したかったからだ。

今回共に仕事をすると決めたとはいえ、まだまだ試用期間のようなものである。

いざとなればグレイとロブスがいるとわかっているからこそ打てた手であった。

一方でグレイの強さを知らぬスリップからすると、酷く緊張する展開であった。

スリップとて一代で商会を立ち上げた商人。

自分が試されていることはよく理解している。

持っている伝手をフル稼働させ、大枚をはたいて、ある魔物討伐で有名な冒険者パーティに連絡を取ることに成功した。

しかし、いざ顔合わせとなった時、スリップは卒倒しそうになった。

上は老婆から、下は十歳そこそこの少年までの普通の家族みたいなのが武器を携えてやってきたのだから無理もない。

とはいえ出立はもうギリギリ。

彼らを信じて任せるしかない。

スリップは、パクスに「頼りになりそうですね」と声をかけられた時、額に汗をかかずに「そうでしょう?」と答えた自分を褒めたたえた。もうこれで行くしかないのだ。

せめて何かあったらまずは自分が死ぬ、くらいの気持ちでスリップは先頭の馬車でぎゅっと剣の鞘を握ったまま行く先を睨みつけていた。

出発してしばらくした頃、前方を歩いている冒険者パーティに、グレイとロブスが歩み寄っていくのが見えた。

ロブスが先頭にいてくれるのは頼りになるが、どちらもスリップからすれば大事な守るべき相手だ。

剣に手をかけたまま、転がるように馬車から飛び降りて声をかけようとした瞬間、じろりとグレイが振り返る。突き刺さるような視線に、スリップの心臓は飛び上がり、思わず躓いてすっころんでしまった。

「おや、大丈夫かのう?」

「あ、いや、だ、大丈夫です」

先ほどの厳しい視線が嘘かと思えるほど、グレイの言葉は穏やかだ。

スリップは恥ずかしくなって頭をかきながら続ける。

「あの、ここは彼らに任せて、お二人はのんびり馬車の方でお寛ぎいただけたらと思いまして……」

「いやいや、身体がなまってはいかんからな」

「馬車の中とか窮屈なんすよね」

「で、では僭越ながら私も……」

スリップが申し出ると、グレイとロブスは軽く視線を交わして笑う。

「良い良い。剣を握りしめて飛び出してきたものだから、危うく迎撃しそうになったわい。危なっかしいったらない」

「そっすね。転んでけがする前に引っ込んでた方がいいっすよ」

「は、はあ、そうですか、はは」

スリップは冗談を言って和ませてくれたのかと解釈して、すごすごと馬車の中へと引っ込んだ。

『先ほどのグレイの言葉は冗談なのだ』と、スリップは繰り返し自分に言い聞かせる。そうして座席に座り、つばを飲み込んで初めて、喉がからからに乾いていることに気づくのだった。

「お主らが今回の護衛か。……護衛と言うよりも大家族って感じじゃな」

杖を突いた老婆。

体が良く鍛えられた壮年の男と、同年代の恰幅の良い女性。

その二人にどことなく顔立ちの似ている青年が二人と、若い女性が二人。

さらに十歳を少し過ぎたくらいの子供が二人いた。

「お、分かるかい? こっちが俺の母で、こいつがうちのかみさん。息子が二人に娘が一人。息子の嫁さんとその子供が二人だ。似てるか?」

「ちょいちょい似てるっすね。冒険者なんすか?」

「おう、うちの親父の代からな」

働きに自信があるのか、壮年の男性は胸を叩いて答える。

その間にも男の家族はみんなそろってこっそりと、グレイとロブスの体つきを観察しているようであった。スリップから顧客情報は得ているので、どこのどんな立場の人間かわかった上で、その強さを大まかに目算しているのだろう。

「あんたあれだろう? お姫様の教育係。それでこっちが〈要塞軍〉のお偉方って聞いたぜ」

「いや、俺は現場で魔物殴ってるだけっすね」

「ほー、〈要塞軍〉って結構ちゃんと魔物と戦ってやがるんだなぁ、な、婆ちゃん」

男が老婆に話を振ると、老婆は聞こえたのか聞こえてないのか眉をピクリと動かしただけだった。

「ま、何かあれば儂らも暇つぶしに手を貸すからのう」

「そりゃあありがてぇや。一応名前を教えてもらえるか? なんかあった時に、おいとかあんた、とか言ってたら混乱するからな」

「ロブスっす」

「グレイじゃ」

「よし分かった、様とかつけたほうがいいかい?」

「いらねっす」

「いらんのう」

「こりゃあ話が早い、な、婆ちゃん。……婆ちゃん?」

さっきと同じように話を振った男だったが、老婆の目が数年ぶりに見開かれているのを見てぎょっとする。ぎょろっとした目はグレイとロブスの方を一度見てから、また皺と大差ないほどに細くなった。

「……久々に目が開いたの見たぜ。ええと、一応婆ちゃんは魔法を使う。俺たち男が前線で、女たちは支援の魔法が使える。子供たちはおまけだな。ま、よろしく頼むぜ」

老婆はもごもごと口を動かしていたが、その後特別な反応を見せることはなかった。

グレイたちは、冒険者の家族と、いざ戦闘になった時どのように動くかを話し合いつつ、のんびりとした馬の歩みに合わせて道を進んでいくのであった。