軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

期待を受け止めて

パーティは平和裏に終わった。

グレイが連れてきたロブス以外には、招待されていない者は参加していなかったようで、他勢力からの偵察は紛れ込んでいなかったようだ。

すでにファンファの手の内に入り込んでいる者がいるから必要なかったのか、それとも本当にクルムの参戦など歯牙にもかけていないのか、それに関してはわからない。

少なくとも参加してもらった店主たちには十分に楽しんでもらえたようであったし、クルム自身も、たくさんの人々にお祝いの言葉を貰えてまんざらでもなかった。

多少の想定外はあれど、良い一日であったことには違いないだろう。

みんなそろって王宮まで戻り、自室で着替えたクルムは、テーブルに並べられている、店主たちからの贈り物を眺めていた。

彼らがどこまでクルムの状況を理解できているか定かではないが、祝う気持ちに嘘はないだろう。日常的に使えるものばかりでなくとも、それらがここにあるだけで、穏やかな気持ちになる。

これからまた、これまで以上に忙しい毎日が続く。

無事に王位継承者争いへも名乗りを上げて、つかの間の休息の時間であった。

そんなクルムの部屋にノックの音が響く。

力強いその音はグレイのものだ。

中から扉を開けると、グレイがむき身のネックレスを指に引っ掛けて現れた。

「中へどうぞ」

「ここで良い」

既に寝間着姿のクルムと、テーブルの上に並んだ贈り物をちらりと見て、グレイは入室を拒んだ。しかしクルムは苦笑して「良いから入って下さい」と椅子の方へ歩いていってしまう。

グレイは仕方なく部屋へ入ると、後ろ手に扉を閉めて、テーブル越しにクルムと向き合った。

「こんな夜更けにどうしたんです?」

「誕生日の贈り物じゃ。儂と、ビアットからじゃな。ほれ」

クルムは伸ばされた腕の先に引っ掛けているネックレスを受け取る。

薄暗がりでもぼんやりと輝く六角形の小さな宝石は、クルムの知っているどんな宝石とも特徴が一致しなかった。

「これは……?」

「肌に直接あたるようにか、布一枚くらいを挟んで身につけておくんじゃな。それは致命傷にいたる魔法攻撃から、一度だけ身を守ってくれる。ま、もうちょっと具体的に言うのであれば、一定量以上の力の込められた魔法を拒絶する障壁を生み出す、じゃな。じゃから、治癒魔法などを使われる際は外すんじゃぞ」

「……貴重な物でしょうに」

「大したもんじゃないのう。一撃で人を殺す魔法を放てるような奴は、何発だって撃ってくる。ただの気休めじゃ」

グレイは自分のこれまでの環境を思い出して言っているだけで、実際は気休めなどではない。

要人が命を落とす時は、大抵の場合奇襲による一撃だ。

魔法による奇襲攻撃を必ず一度防げると考えれば、それは十分すぎる効果を持った魔道具である。大商人や貴族が大枚をはたいて買いたがる、貴重な逸品であることは間違いなかった。

「……ありがとうございます、身につけておきます」

クルムは迷いなくネックレスを首からかけて、外からは見えないように服で隠す。

それから、グレイを招いてからの数十日のことを思い出した。

随分と感情の揺さぶられることも増えて、忙しく、大変な毎日ではあったが、それ以上に得られたものもたくさんあった。

グレイがいなければ、きっと今日もウェスカと二人、静かな誕生日を過ごしていたことだろう。

「先生、ありがとうございます」

「なんじゃ、何度も礼を言って」

「今のは、私の教育係になって下さったことに対する礼です」

「ふむ、そうか。まぁ、始まったばかりじゃ。あまり油断せず過ごすんじゃぞ」

「それはもちろん」

しんみりと礼を言っても、グレイはいつもと変わらぬ調子だった。

クルムには、もう少し物思いにふけっていたい気持ちがあったが、そうならぬためにグレイを部屋へ招き入れたのである。

深呼吸を一つして、きりっと表情を引き締める。

「ところで、〈要塞軍〉の件について細かいことをお聞きしたいのですが」

「ああ、それか。いや、そのネックレスを準備するのに、魔物の素材が必要でな。たまたまロブスを見つけたから、融通してもらったんじゃ」

「……〈要塞軍〉の伝手、あったじゃないですか。前に聞いたときは何の心当たりもないと」

「あの時のお主に紹介できるような伝手は何もないと話しただけじゃ」

「……力不足であったと?」

「そうじゃな。今も力が足りているわけではない。ロブスと出逢ったのは偶然じゃな、偶然」

本当に偶然の出会いなのであるが、クルムはこれをひねくれたグレイによる誕生日プレゼント兼、激励のようなものであると捉えた。

まだまだ〈要塞軍〉を掌握するには力が足りないが、これからの短い時間で成長して何とかして見せろという、ある種無茶ぶりの様な大きな期待。

クルムは他人から期待されたことがほとんどなかった。

小さなころは兄二人が優秀であり、常に保護される立場であった。

母と兄がいなくなってからは、何の勢力も持たない隅っこ暮らしの弱小王女だ。

ウェスカだって忠臣ではあったが、クルムに期待していたかと言えば微妙なところである。どちらかと言えば、心配してくれていた、が正しい。

クルムはグレイの気持ちを勝手に拡大解釈し、勝手に目を輝かせ、勝手に奮起した。

「まぁ、見ていてください。〈要塞軍〉から帰る頃には立派な成果を上げてみせますから」

「……ふむ、ま、そうじゃな?」

グレイはなんだか知らないけれど元気になったクルムを見て、とりあえず肯定的な返事を返しておくことにしたのであった。