軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伝説の男

翌日の昼下がり。

グレイはファンファの護衛と中庭へ出て、適当に訓練をつけてやっていた。

色白筋肉のニクスはファンファの横にいて、今相手取っているのは色黒筋肉のドーンズだ。

この二人は大体同じくらいの実力を持っている。

グレイの評価としては冒険者の中では中の上くらいで、おそらく二人がかりならば、元騎士のスカベラといい勝負するくらいの実力だ。

危険な冒険に連れていくには少々頼りないが、冒険者として名声を得るくらいのことはできるだろうといったところか。

自分の実力を上の上と判断しているグレイからすれば、一対一で相手をするなど赤子の手をひねるようなものである。

ころんころんと地面に転がして実力差を思い知らせてやったところで、ついにドーンズは息を切らせて参りましたと座り込んだ。

「弱いのう……」

あまりに包み隠さぬ台詞であったが、ドーンズには返す言葉もない。

本気で身体強化の魔法を使いながら挑んだというのに、その場から一歩も動かすことができなかった時点でお察しだ。

「先生は元々何をされていた方なんすか……。こんなに強ければ、名前くらい知られているはずっすよ」

クルムが先生先生と呼ぶせいで、この冒険者二人も先生と呼ぶのに慣れてしまったようだ。ちなみにファンファはグレイのことを『おじいちゃん』と呼んでいる。

最初はなんとなく腹が立っていたグレイだが、段々と慣れてきてしまった。

あれはあれで人の懐に潜り込むのが上手いのだ。

「ここ二十年は王都でのんびり暮らしておった」

「のんびり暮らしてた年寄りの体じゃないんすよ……」

比較的背の高いドーンズの身長が百八十五センチ程度。

体つきもマッチョと言うほどではないが相当に鍛えて絞り込まれている。

一方でグレイはそれよりもさらに背が高く、ローブに隠れてはいるが体つきもドーンズよりもがっしりとしている。

「その前は何を?」

「隣の国で冒険者をしとった」

どうせ知らんだろうと思ってぼろっと情報を漏らすグレイ。

もし知ってても、何か不利益になるようなことを吹聴するようならば、首をねじ切ってやればいいだけのことなので特に問題はない。

「俺も元々は隣の国で冒険者してたんすよ。それじゃあウィクトさんとか知ってます? 二十年前にはもう割と有名な冒険者だったと思うんすけど」

「ウィクト? 双剣使いのウィクトか?」

懐かしい名前だった。

冒険者として最後にパーティを組んでいた冒険者にそんな名前の剣士がいた。

故郷の 竜食山(りゅうばみやま) に冒険に行くというからついていってやったのだ。

その冒険では、なぜか竜食山に 呪(まじな) い谷からきた魔物が紛れ込んでいて大変だった。

結果、もともと自らの出身地であり、そこを庭のようにして過ごしていたグレイとしては、色々と責任を感じる冒険になってしまったのだ。

死者は出さずに済ませたのだが、これこそがグレイが冒険者をやめるきっかけとなった出来事でもある。

「知ってるんすか! 俺、あの人に世話になったんすよ」

「…………あの一緒にいた小娘やら、エルフの婆は元気なのか?」

「誰のことかわかんないすけど……、もしかしてエルフのその……、人って【清凛】メナス様のことじゃないすよね……?」

ドーンズは思い当たる人物が偉大過ぎるせいで、とても婆とは呼べず、恐る恐る名前をあげる。自称でない二つ名がつく冒険者なんていうのは、一流中の一流だ。

それこそ、今冒険者ギルド長をしている【双竜剣】ウィクトや、【清凛】メナスといった、古株の超一流冒険者だけである。

「そんな風に呼ばれとるのか、あの口うるさい若作り婆」

「先生……、お知り合いですか」

「おう、知っとるとも。儂が若い頃からえらっそうにもう百何十歳とか言って年上ぶって小うるさいことばかり言ってきおった。まだ生きとるのか、しぶとい婆じゃな」

多くの冒険者たちから尊敬を集める、美しいエルフの細剣使いを婆呼ばわりし続けるグレイに、ドーンズの表情はひきつった。

そしてグレイがクルムに何と呼ばれていたかをハッと思い出して声を震わせながら尋ねる。

「……先生のお名前って、グレイですっけ?」

「そうじゃが?」

「まさか、【青天の隠者】……ではないすよね?」

ウェスカも言っていた呼び名だ。

少なくとも自分が現役の時はそんな呼ばれ方をすることはなかった。

どこで誰が呼び始めたのかは知らないけれど、少なくとも冒険者たちの間では浸透しているらしい。

「それ、どこで誰が呼んでおるんじゃ」

「ウィクトさんの冒険についていってた吟遊詩人が、【青天の隠者】引退の後に物語として語ったんすよ。知らないんすか!?」

そりゃあ引退した後雲隠れして王都に引っ込んでいたのだから知っているわけがない。

「【清凛】メナス様と若いころから何度もパーティを組み、世話になった冒険者は数知れず! 今の冒険者たちの水準を引き上げたと言われるその人すよ!?」

「ほーう……」

あまりに身に覚えはないが、悪く語られているわけではないらしいと、グレイは顎鬚をなでながらご満悦である。

「グレイ先生はあの【青天の隠者】なんすか!?」

「……どうじゃろうな。確かにあの婆とは何度もパーティを組んだことがあるし、ウィクトと竜食山へ行ったこともあるのう」

「握手してほしいっす!」

「仕方ないのう」

グレイはとにかくご機嫌だった。

その後に交代でやってきた色白筋肉のニクスにも、開口一番握手を求められて大満足である。

二人は素直に話で聞いたグレイのことを尊敬しているようで、グレイが「みだりに口外せぬように」と言えば、子供のように目を輝かせて頷いた。

なんじゃ、なかなか良い冒険者達ではないか、と評価を改めたグレイは、実はファンファと同じくらいに結構ちょろいのかもしれない。