軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

知らん弟子

メナスがぱたんと扉を閉めたところで、土下座しているグロウバウゼン以外の四人がアイコンタクトを交わし、最初にウィクトが口を開いた。

「三人のうちの、どなたかのお知り合いでしたか?」

三人が同時に首を横に振る。

そんな状況でもグロウバウゼンが何も言わないものだから、ウィクトが首をかしげるしかなかった。

「グレイ、お前の知り合いだろ」

ラウンドが、どうせあちこちに出かけているグレイが犯人だろうと決めつける。

グレイならば、ちょっと関係を持ったくらいの人間の顔はすっかり忘れていてもおかしくない。

だが、今回に関してはグレイも心当たりがなかった。

「儂は知らん。メナス、冒険者だし、お主じゃろ」

「いや、私も知らないぞ? あまりこの国での活動はしてこなかったからな。それに、この男の名が知られたのはここ二十年程度だ。その間私はずっと、グレイのことを探していた。ラウンド殿こそ、王国の重鎮なれば、その伝手のために頭を下げているのでは?」

一周回ってラウンドに戻ったところで、王国の重鎮である自覚のないラウンドが、もしかしたらそう言うこともあるのかもしれないと、頭を下げているグロウバウゼンに尋ねてみることにした。

「俺に用事か?」

「そちらの、白髭の……、グレイ師匠に……!」

「ほら、お前じゃないか」

「忘れるなんて酷いぞ」

左右から責められたグレイであるが、こんなよく分からない男に見覚えはない。

慌てて過去の教え子たちの顔を思い出してみるが、グロウバウゼンのような特徴的な顔立ちに一致する者はいなかった。

「知らん、誰じゃお前、こわ」

「まぁまぁ、いったん皆さん座って下さい。グロウバウゼン殿も、顔を上げて、事情を聞かせてもらえますか?」

立ち直ったウィクトが場をとりなしたことで、三人はソファに腰を下ろしたが、グロウバウゼンは頭こそあげたものの、床に座ったまま頑として立ち上がらなかった。

「えー、ではグロウバウゼンさん。ゆっくりで構いませんから、お話を」

「師匠と初めて会ったのは、忘れもしない、二十三年前のこと」

「儂にお前のような弟子はおらん」

「いえ、師匠は、師匠です」

グレイが気味悪げに吐き捨てても、グロウバウゼンはその厳めしい顔で一切引くことはなかった。

「とにかく話を聞いてみましょう、グレイさん。それじゃ、お願いします」

あまりしゃべることが得意そうではないグロウバウゼンは、ウィクトに促されてぽつりぽつりと、当時のことを語り出す。

グロウバウゼンは、農家出身の冒険者だった。

五男であったことから畑の相続権はなく、体が大きいことも災いして、上の兄弟から牛馬のごとく働かされていた。

そんな扱いだから、当時のグロウバウゼンには名前すらもろくになく、「おい」とか「お前」とかそんな風に呼ばれていた。

ある日グロウバウゼンは、いつものように夜遅くまでせっせと畑を耕していた。

家の方から何か悲鳴がするなというのは分かっていたのだけれど、グロウバウゼンは仕事が終わらねば帰るわけにはいかなかった。

半端にして帰った日には、粗末な食事も出してもらえないし、仕事をすべて終えていなかったことがばれれば鞭で叩かれる。

だから『大丈夫かな』とか、『心配だな』と思いながらも、与えられた範囲の畑を耕し終えるまで、体を動かし続けたのだ。

悲鳴が聞こえてから数時間して、ようやく仕事を終えたグロウバウゼンが家へ戻ると、そこでは家族のほとんどが死体になっていた。

家の中はすっかり荒らされて、『こりゃあ参った、大変なことだ』とグロウバウゼンも思ったのだが、一日中体を動かしていたせいで、死体を見ているのにグロウバウゼンの腹はぐぅと音を立てた。

グロウバウゼンは、指示をしてくれる者がいないと何をどうしたらいいかもわからない。

仕方なく、おそらく連れ去られたであろう家族を探すために、血の跡を追いかけてとぼとぼと森の方へと向かうことにした。

きっとそこに行けば、家族の誰かが生きていて、その家族からどうしたらいいか教えてもらえると思ったからだ。

グロウバウゼンがそれこそ動物のように鼻をすんすんときかせながら血の臭いを辿っていくと、途中でそれが一気に濃厚なものとなった。

なんだろうと思い足早にそちらへ向かうと、そこには武装した男たちのバラバラの死体が転がっていた。あっちにもこっちにもあって、グロウバウゼンは『片づけるのが大変そうだな』と思った。

ただ一つ一つ顔を確認したところ、どうやらその中に家族の死体はないようだった。

だからグロウバウゼンは、更に血の跡を追いかけることにした。

少し進んだところで、また血の臭いが濃くなっている場所があった。

そこにはグロウバウゼンが探していた家族が、五体満足で転がっていた。

死んでいたけれど。

それからばらばらの死体がいくつかあって、血の臭いはまだ続いていた。

当てがなくなってしまったグロウバウゼンは、どうしたらいいかさっぱりわからなくなって、仕方なく更に血の臭いを追いかけることにした。

ただ何となく、この先に答えがあるかもしれないなと思ったからだ。

グロウバウゼンに怖いものはなかった。

危機感とか、死に対する恐怖とかを学ぶ機会もなかったので、怖いというのが何なのかを理解していなかった。