作品タイトル不明
その過去の真実は
「先代とは違い、ルアーノ陛下は、そもそも跡を継ぐ段階でかなり強くオブラ侯爵家からの影響を受けているものと思われます。優秀な教育係をつけられ、順当に王位に就きました。あまり感情を発露されたところも見たことがありません」
「……まるで、オブラ侯爵家の操り人形のようですね」
クルムが自分の父のことを、歯に衣着せずにはっきりと評価する。
ルアーノをよく知らないグレイからしてもその評価は間違っているとは思えなかった。
「そうですね……、私から見る限りはそのような印象で間違いないかと」
「……大方バミ殿が仰る通りですが、私から一つ訂正を」
バミが頷いたのに対して、ヒストルが控えめに異議を唱える。
「はい、聞かせてください」
「……陛下は王位に就いてから、しばしオブラ侯爵家の指示を無視するような期間がございました。その頃の陛下は、影ではひっそりとご自身の理想を語り、それを叶えるため、仲間を増やそうとされておりました」
「それは……、私のあずかり知らぬ話ですな」
この持っている情報の差は、本人たちの能力によるものではない。
バミは自分の能力のみによって宮中で地位を得ることになった男であり、どうしても王宮内での耳目が少ない。それに対して、代々大臣を輩出してきたドクト家には、当時から様々な伝手があった、ということである。
「はい、私がそれを知っているのも、我が娘が陛下に見初められたからこそです」
「そういえば……、オブラ侯爵家のよいように操られてるという割に、今の王は好色で子だくさんじゃな」
「あ……、そう、ですね」
グレイの言い方のせいでクルムは少しばかり同意しづらかったが、考えてみれば確かにそのとおりである。ルアーノはオブラ侯爵家の後援を受けていたのにもかかわらず、オブラ侯爵家の影響外にある様々な方面の実力者と、結婚によって手を結んでいる。
もしオブラ侯爵家が完璧にルアーノの行動を制御できていたとするのならば、これは随分とおかしな話である。
できた子たちはいずれ、王位継承争いによってオブラ侯爵家以外の勢力と手を結び、派閥を作り牙をむいてくるはずなのだ。
「…………オブラ侯爵家が、逆らう全てを叩き潰して勝利する自信があった、とかでは? それで陛下が演技をして、様々な方面から妻をめとった、とか」
「いえ、あの頃のオブラ侯爵家と陛下は、かなり仲が悪くなっていたように、私には見えました。少なくとも私の娘に陛下が近づいたころは……、そうであったはずです。ただ、ある時を境に、陛下はぴたりとそういった行動をやめました。それ以来、オブラ侯爵家と陛下の蜜月は続いております」
「そのある時というのは?」
「それが分からないのです。おおよそ、王位に就いてから五年ほどはそのような行動が多かったように思うのですが……」
部屋に沈黙が走る。
それが分からないと、ルアーノがなぜ自由にふるまうようになったのか。そしてなぜそれをやめたのかの理由がさっぱりわからない。
もはや想像するしかないような状態だ。
「……ケルンお兄様のお母さまは……、何かおっしゃっていないのですか?」
「……その時期を境に、陛下の口数が減った、とだけ」
「そうですか……」
分かることはほとんどない。
ただ、少なくともクルムは、ルアーノがすっかり喋らなくなってから生まれた子なのだろう。せめて母親が生きていれば馴れ初めくらいは聞けたのかもしれないが、今となっては難しい。
他に聞こうにも、多くの王妃は不自然に命を落としているし、そうでない者は外界と関わらず、口を堅く閉ざしているものばかりだ。
「……とりあえず、父に関しては分かりました。では、ヘグニお兄様はいかがでしょうか?」
「ヘグニ王子殿下は、文武両道で口数は少なく、オブラ侯爵家の後援を受けて淡々と地盤を固めております。特別派手な行動はされませんが、それがゆえに、崩すことも難しいでしょう」
バミの評価は表面的なものだった。
それでは情報がないと言っているようなものだ。
実際、あまり性格的なものは表に出ないようになっているのであろうし、バミからしても、まさかクルムの後押しをするとは思っていないから、普段から王子の情報を集めたりはしていない。
それにバミはどこまで行っても外様の役人だ。
王家の個人的な情報は手に入りにくい。
こうなると頼りになるのは、またヒストルの方だ。
クルムがヒストルに視線を向ける。
「……概ね、その通りではあります。高い水準で、どんな事もこなされます。しいて特徴を挙げるとするのならば、判断には慎重である、というところでしょうか」
「この際、どんな情報でも構いません。私が知らぬような話は何かありませんか?」
何が突破のきっかけになるかもわからない。
だからこそクルムは、折角の機会に、少しでも多くの情報を取り入れようと必死だ。
「……ああ、ヘグニ王子殿下はセルルト王子殿下と仲が良いのです。あのお二人、実は双子なのです。公的な記録にも残っておりますが、今ではあまり公にされることはありません。それはきっとオブラ侯爵家が、ヘグニ王子殿下を後継者にすると決めたからこそ、なのでしょう。昔は顔立ちも体つきも、明るい性格も、よく似ていらっしゃったのですが、セルルト王子殿下は一度大きな病にかかったことがあるのです。それ以来、ヘグニ王子殿下は慎重な性格に、セルルト王子殿下はあのようにほっそりとした物静かな性格になられました」
「それは、知りませんでした」
「思えば……、陛下の行動が大人しくなり始めたのも、その頃であったかもしれません。何かしら、関連があるのかもしれませんが、それ以上のことは私も……」
「十分です、ありがとうございます」
クルムは唇に指をあてて思考に没頭し、過去の出来事のピースをくみ上げようとするが、どうしてもいくつか足りないピースがあるように感じる。
特に弱点らしい弱点を知ることはできなかったが、今回聞いた話は、それなりに貴重だ。
クルムは一度その過去についてつなぎ合わせることを中断し、そこからもいくつか、二人の大臣に質問を投げかけ、十分な収穫をもってその日の話し合いを終えることになるのだった。