軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ヒストルの知っている過去

ヒストルは、クルムの剣幕を見てしばし黙り込んだが、やがて落ち着きを取り戻してゆっくりと口を開く。

「クルム王女殿下の意志を疑うような発言、改めて謝罪いたします。ただ、一つだけ言い訳をさせていただくのであれば、殿下の教育係であるグレイ殿は、それだけ無視できない人物なのです」

「私も先生の過去についてはある程度把握しています。その上で、手を貸していただいているのです」

「本気でめちゃくちゃにするつもりなら、とっくに国王とめぼしい奴の首を全部引っこ抜いておるわ」

グレイが鼻を鳴らして言い放つと、クルムとヒストルは目だけを動かしてじろりとグレイを見て、そこに一切触れずに会話を続けることにした。

グレイの言葉が本気で本当に実行できるのならば、ヒストルの手には負えないので気にすることは意味がない。そしてクルムからすればまた余計なことを言ってくれている、くらいの反応だ。

「クルム王女殿下が、強く王位を欲していることは十分に理解いたしました。では現実的なお話をさせてください。私が派閥を押してケルンを後押ししなかった理由も含めて」

ヒストルが、グレイに構っていると話が進まないと判断したのは英断だ。

実際今この場でグレイの話を掘り下げると、とんでもないことになる。

クルムが自身の意志で王位を目指していることがわかり、その上グレイがその制御下で大人しくしているというのならば、ヒストルにとってそれが一番いいのだ。

祖父から、グレイ=アルムガルドが王宮で何をしでかしたのかをこんこんと聞かされ、強い恐怖を覚えたあの日のことを、ヒストルは未だ鮮明に覚えている。

「……派閥を後押ししなかった理由、ですか」

「はい。殿下であれば既にご理解されていることかもしれませんが……。少し長くなりますが、よろしいですか」

「聞かせてください」

王宮で数十年働き、現役で中枢の大臣をしているヒストルの考えならば、時間をかけてでも聞く価値がある。仮に同じ意見を持っていたとしても、中枢との距離の関係で、クルムとは違った解像度の話が聞ける可能性があった。

「我がドクト侯爵家は、代々大臣を歴任して参りました。ただ、このままですとおそらく、私の代より先にドクト侯爵家が重要な大臣職に就くことはなくなるでしょう」

「……派閥の違い、ですか」

「はい。オブラ侯爵家の一派は、代を重ねるにつれて勢力を強めております。ハルシ王国の歴史を振り返りますと、これまでは続けて同じ派閥が王家の後援をすることはございませんでした。それは当代の派閥が力を広げたことによって、他の勢力が危機感をもち、連携して次代の王位継承争いに臨むためです」

この王位継承争いが意外とうまく回り続けてきたのは、ここに力を入れることによって、貴族や有力者たちの力をも削ぎ続けてきたからだ。そして後援についた派閥も、権力を広げようと努めるが、王家からの要請によって忙しく動かなければならないことにより、次代の王位継承争いで続けて勝利することは難しかった。

「……その均衡が崩れたのは、先代陛下の頃からです。私も若かったので詳しくは知りませんが、その当時の王位継承争いは、今と比べてもそれはそれは激しいものだったそうです。代々武が磨かれ、影の力が育ち、どの勢力も強力な駒を揃えて王位継承争いに臨んでいました。ドクト侯爵家にもまた、歴代最強と呼ばれた槍使いがいました」

「まぁ、そうじゃな。言われてみれば、強者がゴロゴロと転がっておった気がするのう」

「先生が言うのならば、そうなのでしょうね」

実際にその現場で戦っていたグレイがそういうのだから間違いない。

クルムはこれまでにもグレイから、『最近の若者は』とか『ぬるい』とかいう台詞を何度か聞いたことがあるので、なんとなく納得できる。

クルムは、グレイもたまには本当の老人のようなことを言うのだなと軽く流していたのだが、そういう類の愚痴ではなく、事実であったらしい。

「その中でも、アルムガルド家は特別でした。当時の陛下が、緊張が高まり切った王位継承争いを、少しでも秩序あるものにするための監視人として、国内最強とされるアルムガルド家の当主を王都に招いたそうです」

これはクルムも初めて聞く話だ。

チラリとグレイの様子を窺うと、先ほどとは違ってつまらなそうに腕を組んでソファに寄りかかっていた。

「アルムガルド伯が王都へ来てからは、多少、命を落とす者の数は減ったそうです。目の届かないところでは、相変わらずだったようですが」

「つまらないことを言ってないで、さっさと話を先に進めんか」

グレイが口を挟む。

「よろしいですか、殿下」

「仕方ありません、お願いします」

「では率直に。……アルムガルド家のブラック殿の暗躍と、グレイ殿が最後に大暴れしたことにより、当時の王国で育っていた戦力のほとんどが失われました。そうして運よく戦力を保持することのできたオブラ侯爵家が、王の後援者の地位を得ることになったのです」

少し想像のついていたことではあったが、間が飛びすぎて何が何やらさっぱりだ。

「ブラック殿というのは……?」

「儂の兄じゃ」

クルムが尋ねると、グレイが苦り切った表情で、ぽつりと答えるのであった。