軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最後の依頼

「先生が再び姿をくらませた理由について、何か思い当たることはないのですか?」

「そうだな……、いくつかあるのだが……」

メナスは理由を一つに絞りきれていない。

考えてみれば、それがなんとなく複合的なものであるように思えるからだ。

年齢、環境、関係。

一言で説明することは難しい。

「何かきっかけがあったのなら聞かせていただけませんか?」

「そうだな……、では、私とグレイが最後に共に旅をしたときの話をしよう」

メナスはここまでの語りの中でのクルムの反応から、グレイへの理解度の高さを感じている。自分がこうだろうと考えてきた、グレイ失踪の理由を、クルムはどう考えるのかが気になった。

少なくともメナスがグレイに聞いてみたところで、はぐらかして絶対に本当の理由を教えてくれることはないだろう。

それならば、誰かと答え合わせの一つくらいしてみたい。

「依頼は試練の塔からギルドに向けて来た。かつてグレイが作らせた解毒薬が必要になったのだが、その材料が足りないので、手に入れてほしいという話だった」

「貴重なものなのですか?」

「皇竜の血液、だ。〈竜食山〉の主であり、〈呪い谷〉に住まう不死竜の、かつての番であると言われている」

クルムは思わず息を吐いた。

無茶苦茶な依頼である。

そしてこの回答は、グレイが一度はその〈竜食山〉の主である皇竜と向き合い、血液を採取したうえで生きて帰ってきているということになる。

かつて不死竜の牙をへし折ったという話を聞いたことがあったが、こちらもまためちゃくちゃな話である。

「そもそも……、私が受けたあの毒自体が、不死竜の体液を混ぜて作られているらしいのだが……。まぁ、そんなことはさておき、当時のギルド長から私とウィクト、それにもう一人【風鳴】ペナーレという冒険者が呼び出されて、依頼についての相談をされた。他に受けられる者はいないだろう、とな」

「先生は呼ばれなかったのですか?」

「元々は、あのでかい男が健在ならばその人に、という話であったらしいのだ。だが、当時のギルド長もグレイを呼び出したりはできなかったからな。話を聞く私たちに、グレイの説得を頼んできたのだ。私はもちろん、ウィクトもペナーレも、若い時分からグレイに世話になっていた。時折共に依頼をこなすこともあったからな」

実際のところ当時のギルド長は、グレイにさっぱり頭が上がらなかった。

なにせ年齢はほとんどいっしょで、その上若い頃に絡んでいってボコボコにされたことがある。

その時点で格付けが済んでしまっているので、何を言われても『はい』としか答えられないし、自分から頼みごとをするなどもってのほかであった。

何か困ったことがあれば、その時のようにいつもメナスにこっそりと声をかけて、伝えてもらうようにしていたくらいである。

「私は、依頼をしてきた試練の塔の男に恩がある。なにせ解毒薬を作ってもらったからな。だからと言って私たちだけで皇竜に挑む気にはならなかった。私は一度その恐ろしさを間近で見ている。だからギルド長に言われた通り、グレイを誘いに行った。グレイは面倒くさそうに一人で行ってくる、と言った」

メナスたちは強かった。

それだから連れて行けば道中は多少楽になるだろう。

しかし、いざ皇竜の前に立てば、生き残ることはできても、十分な戦力として数えるにはやや力が足りないとグレイは考えたのだ。

「……私ももしかしたらそのほうが良いかもしれない、とは思った。だが、ウィクトとペナーレは、グレイだけに行かせるわけにはいかない、と鼻息を荒くした。二人は皇竜の強さを知らなかったし、グレイの本当の強さも知らなかったからな」

グレイはウィクトたちと出会った時には既に、補助魔法に徹していた。

時折拳を振るうことがあったし、ウィクトたちの実力が高くなっていたので、グレイが実力を隠しているだけの強者であるということも見破っていた。

だが、実際にどれほどの強さなのか、までは分かっていない。

五十を過ぎたグレイだけを死地へ行かせるなど、そんな危険なことはできないと主張したのだ。

つまり、百パーセントの善意である。

グレイは善意に弱い。

実際手を貸すと言ってきている二人の実力は確かなものであったし、竜食山の強い魔物たちと戦うことは、二人の実力を更に底上げすることにもつながる。そんな風に自分に言い訳をして、グレイは二人とメナスの同行を受け入れたのだった。

「結局、私たちは四人で旅に出た。〈竜食山〉へたどり着いてからも、グレイの豊富な知識のお陰で、攻略は順調だった。日数をかけ、少しずつ高地とその土地の魔物に体を慣らしながら山を登っていった。実際、皇竜との戦いは上手くいったのだ」

グレイ以外の三人がひたすらに攻撃をしのぎ、グレイだけが攻撃をかわしながら時折カウンターを放つ。囮が多かった分、グレイに対しての攻撃は多少緩まり、その時点では確かに連れてきた甲斐もあった。

「問題は、帰り道だった。皇竜の血を手に入れて逃走に成功した私たちは、姿を隠してこっそりと下山した。満身創痍であったが、皇竜の爪などの収穫もあったし、気分は良かった。だが、その中腹辺りでおどろおどろしい不死竜の集団に見つかってしまったのだ。なぜ〈呪い谷〉の奥深くにいるはずのあれがあんな所にいたのかは、私も知らない。グレイも酷く驚いた様子だった」

グレイにとっても計算外であった、世にも恐ろしい戦いが〈竜食山〉の中腹で始まろうとしていた。