軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

暴露話

ハップスが帰ると、グレイはわざわざ立ち上がって元々座っていた席へと戻る。

そうして冷めた茶をグイッと飲んで、頬杖をついた。

「して、お主はいつまで意地を張るのじゃ」

「急に何の話です」

「おお、まだ知らぬふりをするのか」

グレイはわざとらしく両手を上げて驚いたふりをしてみせると、クルムが嫌そうな顔をする。グレイはそれに笑いながら、なんとなくクルムの思い込みの根の深さを察した。

きっとクルムはこれまで、いくつかの復讐だけを目的に気を張って生きてきたのだ。ぽっと現れたグレイが小言を漏らしたくらいでは、認識を改められないくらいには、それは強固なものなのだろう。

グレイは怒りや復讐の気持ちが必ずしも悪であるとは思わない。

それらは人の原動力足りうるし、人を爆発的に成長させる燃料にもなり得る。

もっと強くなるまでの、もっと成長するまでの糧となるならば、今しばらくあの不器用そうな兄には恨まれていてもらうくらいで丁度いい。

二人の間に在った真実については想像することしかできないが、どんな事情があれハップスはクルムの下の兄を見殺しにしている。その当時今ほど力がなかったからなのかもしれないし、計画を察せなかったからなのかもしれない。あるいはクルムの下の兄が、クルム同様に警告を突っぱねたなんてこともあり得る。

しかしどちらにせよ見殺しにしていることには違いない。

だったら諦めてもうしばらく悪役に徹してもらっても罰は当たらない。

グレイは不器用そうなあの男が、王族にしてはそれほど嫌いではなかったが、それでも王族なので扱い自体は雑であった。

「そんなことより、ハップスお兄様のあの態度……。先生は過去にいったい何をやらかしたんですか」

「言うた通りじゃ。ちょいと血の雨をな」

「普通はそんなことをしたら死刑です。なぜ死刑になっていないんです? 三十年で罪を許すなど聞いたこともありません」

折角訪れた機会だ。

クルムはこのタイミングでグレイの過去を把握しておくつもりだ。

他勢力であるハップスが知っているというのに、クルムが知らないというのでは何かあった時に困る。

「しつこいのう。何が聞きたいんじゃ」

「具体的に何をして、どうしてそのような罪となったかです」

「文献には書かれておらなんだか。では簡潔に話すぞ」

グレイは渋い顔をして椅子の背もたれに寄りかかり腕を組む。

昔の話だ。中二病、なんてものではもちろんないけれど、過去の失敗も栄光も、人に語るのはどうにもこっぱずかしい。すでに先ほどの脅し文句でそれを利用したことも、仕方ないとはいえ失敗だったなと思っているところだ。

「王位継承者候補の一人に味方していた兄上を殺そうとしたところ、おびき寄せられた現場に父上と騎士団がいた。父上は強くてのう。一応巻き込まれて死にたくなくば背を向けて逃げろと言ったのだが、巻き込まれてまぁ、それなりの数が死んだ。兄上も、その王位継承者候補もじゃ。最後の方で当時の国王とかが現れてのう。儂を捕まえて処刑したかったようで、そこからも次々と騎士団やらなんやらをけしかけられたから、全て返り討ちにした」

「……それは、まぁ、文句なしで死刑じゃないですか? やっぱり」

クルムの真っ当な素直な感想だった。

というか、誰がどう聞いたって死刑だ。

さらし首がおまけでついてくるタイプの。

「うむ、そうじゃな。でも捕まえられないのにどうやって死刑にするんじゃ?」

「……はい、そうですね」

クルムはグレイの頭の先から肩幅や腕の太さを見ていく。

老人にしてこの性格なのだから、きっと当時はもっと尖っていたのだろう。

クルムがその当時生きていたとしたら絶対に関わりたくない。

「……ではその、三十年というのは?」

「ふむ。当時小賢しい友人がおってなぁ。ごちゃごちゃとうるさいことを言われて一度矛を収めたんじゃ。結果下されたのが三十年王国から追放及び、アルムガルド家の取り潰しと、身分のはく奪じゃ。あと莫大な賞金がついて、三十年の間、常に命を狙われている状態じゃった。これも多分、その友人が口八丁で王宮の馬鹿どもを説得した結果じゃろうなぁ」

「三十年間、命を狙われ続けたんですか?」

「うむ。それで他国で冒険者をしていたというわけじゃ。とはいえまともに来たのは最初の十年くらいで、以降はちらほらしか来んかったがな」

それは間違いなく十年間の間でめぼしい殺し屋や、腕の立つ賞金稼ぎを皆返り討ちにしたせいだろう。もしかしたらグレイのせいで、国の治安が悪くなっている可能性すら出てきた。

こんなこと、とても王国の正史に書くことはできないだろう。

個人が大暴れして王国が誇っていた最強の辺境伯と騎士団を撃退。

どうしても殺せなかったから仕方なく国外追放。

実質グレイはたった一人で王国に勝利したようなものである。

「どうじゃ? 教育係を首にしたくなったか?」

「頼もしくて大変結構だと思いました」

呆れた顔はしても嫌悪感は出さない。

いつも通りの態度で返事をしてきたクルムに、グレイは思わず笑った。

「馬鹿じゃのう、お主」

「先生に言われたくありません」

クルムはツンとして言い返したが、グレイは面白そうにただ笑うだけだった。