軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

震える

モーリスとて色々とやることがあるから、しょうもない他の貴族たちの保身に付き合う気はさらさらなかった。そもそも父が鞍替えをしようとした時に、誘いに乗ってこなかった者を、今更クルムの陣営に引き込もうとは思わない。

それでもこうしてクルムのところまでわざわざ相談にやってきたのは、つい先日、とんでもない数の貴族たちの連名で、クルムに紹介を頼みたいという話が来たからだ。

勢力争いなどあまり気にせず、地道に真面目に働いているような、いわゆる今は亡きユゥバ子爵のような者から、一度こうと決めたらなかなか他所を向かないような頑固者までだ。

これはどうにもおかしい。

そんな状況を説明し終えたところでやってきたのがケルンだ。

クルムとモーリスは一瞬視線を交差させて頷く。

「通してください。ここで話をします」

「承知いたしました」

ウェスカが立ち去っていくのを見送りつつ、バリバリと硬い茶菓子をかじっているのはグレイだ。

政略的なことに関しては口を出すつもりもないので、最近は本当に暇である。

クルムもすっかりメンタルが強くなってきて、後は強い護衛の一人や二人用意したら、放っておいてもいいんじゃないかと思うくらいだ。

どうせやることがないので様子を見ているけれど。

まもなくケルンが通される。

ケルンは部屋の中にクルムとモーリスがいることを確認すると、ふっと左の口角だけを上げて笑った。

「予定通り、顔をそろえていたか」

ちなみにここの予定にはグレイは含まれていない。

クルムもモーリスも、グレイがこういう話に首を突っ込まないのを知っているし、ケルンはできるだけグレイをいないものとして扱っている。

どうやらやべぇやつだと流石に気付いているので。

ケルンは勝手に歩いていくと、じろりとソファの前で立ち上がっているモーリスを睨みつけてから、鼻を鳴らして隣に座った。

「バッハ侯爵も座るがいい」

「ありがとうございます」

長いことケルンを洗脳した上に、最後には裏切ったバッハ侯爵家。

それを立て直している年の近い当主であるモーリス。

色々とわだかまりはあるが、ケルンはその全てを今は水に流した。

それができただけでも数カ月前のケルンとは大違いである。

「聞きたいことがあるのではないか」

「……王都の貴族たちが騒がしくしているようで」

クルムははっきりとは言わず、匂わす程度に言葉を濁す。

「回りくどい。私の派閥の貴族が大挙して、お前の所へ駆け寄せてきているだろう」

「そんな話もあるようですね」

「あるようですね、じゃない。私がそうなるようにした」

ケルンは懐から取り出したスクロールをテーブルに広げ、勝手に用意されている重しをその四方に乗せた。

「私を最後まで裏切らなかった大馬鹿共を切り離した。私を見限ってお前に従うように伝えた。その名簿だ。ここに名が載っていない者は、自分の利益と保身ばかりを追い求めてうろうろと彷徨う亡霊のような連中だ。取り合う価値はない」

「……突然どうしたのですか」

王を目指さないが手を組むつもりはないと言っていた男のやることではない。

何か企んでいるにしても、ケルンにとっての利益が見つからない。

「お前が欲しかろうと思ってまとめてやったのだ、ありがたく受け取れ」

「何を考えているのです」

ケルンは腕を組んで眉間に皺を寄せる。

そして感情を抑え込んで静かに語り始めた。

「私の派閥の者が、ジグラ兄上の派閥にとりこまれている。モーリス、一時、貴殿につなぎを頼む者が減っただろう? その頃からだ」

「……確かに、浮ついた言葉ばかり述べる者が数人、顔を出さなくなりました」

今更ケルンを見限り、クルムを頼ろうとしていた者が、ジグラに吸収された。

そんな者を仲間にしても仕方がなかろうとクルムは思うけれど、ジグラのように、人を駒として扱うことに慣れていれば話は別だ。

捨て駒は、いくらあってもいい。

ジグラからすれば国内に不足している駒を好きなように拾えるチャンスだったのだろう。

「ジグラ兄上からの手を組もうという申し出を幾度か断ったところ、馬鹿正直に私に付き従っていた貴族が何者かに襲撃され、その当主が命を落とした。……許せん」

ケルンからすれば、これから少しずつでも前に進もうと顔を上げた瞬間だ。

卑怯な手を使ってくるジグラのことはもちろん、何もできない自分のことも許せない。

握った拳は震えていた。

ケルンはそのまま再び懐に手を差し込むと、布で包まれた何かを取り出して、怒りの感情と共に、再びそれをテーブルに叩きつけた。

「これをお前に預ける。私は、絶対にジグラ兄上が王になることだけは認めん」

乱暴に布をほどいて現れたのは、王位継承争いに参加している者に与えられる、継承者のナイフであった。

自分に従う貴族が殺されても、復讐に走れば力の差から、もっとたくさんの犠牲が出る。それならばいっそ全てをクルムに預けて、自らが退くしかない、とケルンは判断したのだ。

「……これは、お兄様が私の派閥に加わるということですか?」

「…………好きに受け取るがいい。話すべきことは話した。私は今後一切、自分が王になるための活動はしない。ラウンド殿に弟子入りし、自らを鍛え直す。何もできないことが、これ程腹立たしいこととは知らなかった。二度と……、二度とこんな思いはしてなるものか」

ケルンはぎりぎりと歯を食いしばり、そのまま勝手に部屋から出ていってしまった。

はじめこそ取り繕っていたが、最後に体を震わせて怒っていた姿こそ、今のケルンの偽らざる本音の姿であった。