軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

疑いの芽

「そうですか。では私の方からも質問を。しばらく前に貧民街で怪しい集団を見かけたのですが、それらの正体に心当たりなどはございませんか?」

「うーん、ないね。僕も何でも知っているわけではないから」

お前のところの手先だというのは分かっているぞ、と言外に突き付けてみたけれど、ジグラは素知らぬ顔でしらばっくれて見せた。

こうして、互いに情報を漏らすつもりがないことだけがはっきりしたところで、ジグラがまた口を開く。

「本題に入ると……、クルムは本当に玉座を目指しているのかな」

「当然です」

「じゃあ、どうやってヘグニ兄上に勝つつもりでいるの?」

「お兄様こそ何か案はあるのですか?」

国内に勢力を増やしてきたクルムはまだしも、ジグラはどちらかと言うと国外からの支援者が多い。そちらの国境沿いの貴族の一部はジグラを支援しているのかもしれないが、それだけでどうにかなるほどヘグニの牙城は脆くない。

なにせ先代、当代を盛り立ててきた貴族たちが、丸ごとヘグニを後援しているのだ。

クルムは〈万年祭〉が行われるおよそ一年間の間に、できる限り多くの貴族を取り込んでいくつもりであるが、それだって相当うまくいかない限り、ヘグニと正面から戦えるまでには至らないだろう。

いくつか腹案はあっても、まだまだ綱渡りは続いている状態だ。

「策もなしに戦おうとは思わないさ」

互いに目を見つめ合うが、瞳にその作戦が映ることなどありえない。

「それで、まだ本題に入っていませんが?」

「互いに足を引っ張り合うのはやめない?」

「互いに? 私は、ジグラお兄様の足を引っ張った記憶はありませんが」

お前はやってくれたよな、というのが副音声であるのは当然のことだろう。

ヘグニがそんな細かい工作をするとも思えないから、貧民街関係で余計なちょっかいをかけてきたのは、ほぼ間違いなくジグラだ。

互いにとか言っていないで、詫びの品の一つでも持って来いと思うのは当たり前のことである。

流石のクルムも眉をひそめて目つきが悪くなる。

「そう、互いに。それでさ、協力してほしいことがあるんだよね」

面の皮が厚いとはジグラのことを言うのだろう。

何を言われているか分かった上で平気な顔をして更に要求までしてくる。

開いた口が塞がらない図々しさであった。

「実は王都に隣国で罪を犯した冒険者が紛れ込んでいるらしくて、それを引き渡してほしいって言われてるんだよ。心当たり、ないかな」

「ありませんね」

あるに決まっている。

間違いなく、今ファンファの部下になっている四人組の冒険者のことだ。

ジグラ、あるいはジグラに協力している隣国の権力者が、クルムに悪さの証拠を握られていることを嫌がって、取り返して始末しようとしているのだ。

「もし見つけたとして、私に何の得があるのですか」

「協力できることがある時は協力をするよ。特にヘグニ兄上に勝つためのことであればね」

「それは何も見返りがないと言っているのと同じでは?」

「そうかな? 互いに邪魔をしないの、大事だと思うけどなぁ」

これはつまり、『協力しないとこれからも妨害を続けるぞ』という意思表示でもある。どこまでも性格の悪いことである。

クルムも一瞬、本当にグレイに首を引っこ抜いてもらったほうが良いんじゃないかなと思ったが、何とか堪えて会話を続ける。

「お話はそれだけですか?」

「そうだね。気が変わったら教えてよ」

「わかりました」

知らせに行く気などさらさらないが、クルムはもうこれ以上ジグラと話を続ける気にもならなかった。どうせ何も教えてくれないのだから、話すだけ無駄である。

「さて、じゃあ僕は帰ろうかな」

そう言いながら立ち上がったジグラだったが、部屋の扉に手をかけてふと立ち止まった。

「そうそう、クルム。兄として一つだけ忠告をしておくよ」

「なんです」

同じく、見送りのために一応立ち上がっていたクルムは、ジグラの背中に向けて返事をする。

「あまり人を信じすぎるのはどうだろうね。身内に、油断ならない人が多くないかい? 君の近くにいる人は本当に皆味方なのかな? 同じ方向を向いている?」

耳を傾けても、傾けなくとも心にささくれを残すような、嫌な忠告だった。

特定の心当たりなどなくとも、心に疑心を植え付けることは難しくない。

「曖昧なことを勝手に自分の都合のいいように思い込んで放っておくと、いつか後悔することになるよ」

何のことに関して言っているのか、クルムが一瞬気を取られたすきに、ジグラは扉を開けてそのまま出ていこうとする。

言い返すタイミングを逸したクルムが顔をゆがめたところで、相変わらずソファに座ってつまらなそうにしていたグレイが初めて口を開いた。

「そりゃあ人のことを信じられんけつの穴の小さい奴の言うことじゃな。お前のような奴の部下はさぞかしやりづらいことじゃろう。おお全くかわいそうに」

下品な言い回しの暴言に、流石のジグラも面食らったようだった。

振り返ったところでにやにやと笑っているグレイの顔を見てしまったジグラは、一瞬目尻をひきつらせる。

「……楽し気な、教育係だね」

「ありがとうございます」

一方でグレイが余計なことを言うのには慣れているクルムの立ち直りは早かった。

今日一番の笑顔で答えてやれば、ジグラは不愉快そうに肩をすくめてそのまま立ち去っていく。

そのまま区域の外までジグラを送り出したクルムは、隣でニヤついているグレイを見上げて尋ねる。

「あんなことを言ってましたが、先生は人のこと信じる方ですか?」

「そりゃあそうじゃろ」

「その割にはすぐ手が出ますが」

「そりゃあ信じる以前の問題じゃ」

言われてみれば確かにそうだ。

大して知らない相手に対して信じるも信じないもないだろう。

「なるほど、では一度信じたら疑わないと?」

「ま、そうじゃな。裏切ったと分かった時点でぶち殺せばよいからのう」

裏切られても力尽くで何でも解決するグレイに死角はなかったし、人にけつの穴が小さいとか言う資格もなさそうである。