軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

スコラの話したかったこと

「外さないとできないような話であれば遠慮します」

「……ならやめておこうかな」

スコラはクルムの強気な態度と、グレイから立ち上る妙な気配を察したのか、あっさりと引き下がった。

「条件は、そのうちジグラ兄上から直接話が来ると思う」

「となると、スコラお兄様が連日わざわざ私と話すためにここで待っていたのは、今やめた話をするためですか」

「……連日?」

「資料室が、スコラお兄様がいじった後の景色になっていますので」

以前自分が来た時とは違う景色。

ただし、しっかりと整理整頓されている。

別の者が使った後であればこうはならないことをクルムは知っている。

本当に連日来ているかどうかに関しては、ただ鎌をかけただけであったが、反応に困っているところを見ると図星だったのだろうと分かる。

どんなに知識を豊富に持っていようと、腹芸ができないスコラは、きっと王位継承争いに向いていない。

「参ったな、クルムは随分と成長しているみたいだ」

「スコラお兄様は昔から変わりませんね」

嫌みでもあったが、同時に懐かしさを覚えての発言でもあった。

半端に親切で、覚悟が足りない。

スコラは、目の前に現れたクルムの資料集めこそ手伝ってくれたが、母と兄を失ったクルムをどうにか助けてやろうとか、利用してやろうという気概を見せたことはなかった。

クルムにとってはそれで十分ではあったが、頼りになる人だという印象はなかったし、案の定王位継承争いに敗れたらしいと知った時は、やっぱりなとしかならなかった。

「……僕は力不足だった。クルムもさ、あまり意地を張らない方がいい。戦ってから負けるよりは、土産を持って降参するのが得策だと思うよ」

賢しい顔で忠告するスコラに、グレイは呆れた。

親族で殺し合う王族なんて糞だと思っているけれど、ここまで腑抜けているのを見ると、それはそれでしょうもない奴だとは思う。

自分勝手な考えだが、それがグレイという老人であるから仕方がない。

「スコラお兄様は、現状をよく知らないようですね」

「……ジグラ兄上の仕事の手伝いをしているから、ある程度は把握しているつもりだよ」

「王位継承争いがどうなっているかが分からない程度の仕事しかさせてもらえていないでしょう? それどころか、ほぼ軟禁されているような状態なのでは?」

スコラは表情を消して黙り込んだ。

どうやら都合の悪いことを指摘されたようだ。

クルムは立ち上がって、資料室の直近の資料が収められている辺りの棚へ向けて歩いていく。

比較的新しい棚であるから、資料を収めに来た者がいじっており、きちんと整理されていないこともある棚だ。

今日は全ての資料がぴったりと奥まで押し込まれており、最新のものまで、一切順番にはずれがなかった。

「ジグラお兄様に何かを命じられて、私が資料室に来るまで連日待っていた。スコラお兄様が知識の収集がお好きなことは、私がよく知っています。軟禁され、情報を制限されている暮らしはさぞやお辛いことでしょう。そんな毎日の中、数年ぶりに資料室へやってくることができた。むさぼるように資料を読み漁ったことでしょうね」

クルムは振り返りざま、少し遠くにある自分も漁った記憶のある資料の棚をちらりと見やった。綺麗に揃っている。クルムが最後に来た時に、わざとずらして入れておいた資料までもが、しっかりと。

スコラは、グレイの過去について探った。

あるいは、確認のために資料を漁った。

都合の悪いことの多くは、王家によってもみ消されているけれど、前後の情報は掴むことができたのだろう。

わざわざ探るということは、グレイが何者であるのかをジグラから知らされている可能性が高い。

だからこそ、それについての話をしようとして、先ほどグレイの離席を提案した。

そこまで推察の線を繋げてから、クルムは戻ってきてテーブルに手をつき、スコラを見下ろす。

「探していた資料、見つかりましたか?」

「……何のことかな」

下手な誤魔化しだった。

いっそグレイのことに触れない程度に、資料を漁ったことについて話せばいいのだ。

随分と長いこと待っていたから、暇つぶしに、とか言い訳をして。

それで誤魔化されるクルムではないが、だからと言ってスコラのやり方は賢くなかった。

スコラは知識をたくさん持っている。

昔のことに関しては、クルムよりも詳しいだろう。

だが、知識と、それを活かすための生きた知恵はまた別物だ。

「お兄様。ジグラお兄様に軟禁されて使われているくらいならば、私の陣営につきませんか? 多少仕事を手伝ってもらうことはあるかもしれませんが、今よりはずっと自由に暮らせると思いますよ?」

クルムは体を傾けて、スコラの顔を覗きながら、誘いの言葉を耳に流し込む。

顔を伏せ、黙って聞いていたスコラであったが。

ごくりとつばを飲み込んだかと思うと、突然椅子を引いて立ち上がった。

「……クルム、あまりジグラ兄上を舐めない方がいい」

顔をしかめて小さな声でそう言ったスコラは、そのまま振り返ることもなく、資料室から出て行ってしまった。

「ふは、嫌われたもんじゃな」

「どうでしょう? だいぶ脅かされてると考えるのが正しいのでは?」

「どうだかのう」

「そんなことより先生」

楽しそうに話すグレイに、一応、念のためクルムは情報を共有する。

「ん、なんじゃ?」

「おそらくジグラお兄様は、先生の過去のことを知っていますよ」

「ほう……」

グレイは眉をあげて、長い白鬚をゆったりと撫でた。

既に国外追放の期間は終わった。

ここにいることは何の問題にもならないはずだが、それと絡ませて、敵陣営が何かを仕掛けてくる可能性は十分にある。

「今のうちにぶち殺しておくか」

「早まらないでください、こちらでも色々考えるので」

あっさりと殺人を決意したグレイ。

クルムはその当然の反応に、もはや驚きもせず、冷静にいったんステイをお願いするのであった。