軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

謝罪方法について

訓練が終わった。

結果だけ言えばラウンドが圧倒した形であるが、訓練が終わってものの数十秒で、全ての兵士が他の兵士の肩を借りながらでも立ち上がったのは見事な根性であった。

もちろん、その程度に収まるようにラウンドが加減して戦っていた部分もあるのだろうけれど。

ケルンは終始圧倒されていた。

訓練風景を見ただけだというのに、その前後では〈要塞軍〉に対する印象ががらりと変わってしまった。

田舎に左遷されたはみ出し者の犯罪者集団から、常在戦場の精兵たちに見えてきてしまったのだから困ったものだ。

ラウンドはのっしのっしと歩いてきて、ケルンの前でぴたりと足を止める。

「それで、誰が下賤な者だ」

見下ろして尋ねられたケルンの心臓は縮み上がっていた。

しかしここで退くわけにはいかない。

せめて心のプライドだけでもしっかりと保ち、堂々と言葉を返さねばならないと胸を張った。

いつの間にか瞼にたまった涙は乾いていたし、むしろ恐ろしい強さを誇るこの老人に認められたいという気持ちすら湧いてきていた。

そう、クルムのように。

半分以上は対抗心であった。

それでもケルンは意地とプライドを張り通して、キリリと表情を引き締めてラウンドを睨み返すように見つめて口を開く。

「先ほどの言葉は撤回しよう。私が無知であったがゆえの失言であった」

その堂々たる姿に、付いてきていた貴族の私兵は思わず小さく「おぉ……」と声を漏らす。

はっきり言って彼らもまた、ケルンのことを見くびっていたのだ。

それが、自分ですら足が竦むようなラウンドを相手に堂々たる態度で対応し、かつ自分の非を認めた。これはどう見ても、これまでのケルンから一皮むけた形である。

どこか王族としての器のようなものも見えた気がしてきたくらいだ。

ラウンドが目を細め、「うーむ」と唸りながら首を縦に動かして、それから雷のような声を発した。

「それが人に謝る態度か!!」

ごっ、と音がしてケルンの頭頂部に拳骨が落ちる。

もちろん存分に手加減をされた一撃である。

しかしケルンにとっては、脳天に雷が降ってきたような衝撃であった。

体ごと地面に沈んだのではないかと錯覚しているうちに、脳天に鈍い痛みがじんじん響き、気付けばその場にしゃがみこんで目を白黒とさせていた。

何もわからなかった。

ありえないことだ。

乾いたはずの涙がボロボロとあふれ出てきて、ひくっと呼吸が引きつった。

その段階になってケルンはようやく、自分が殴られたことに気が付く。

王族を真正面から怒鳴りつけて脳天に拳骨を落とすなど前代未聞だ。

慌てたのは護衛の兵士たちである。

クルムとの『怪我させたりはせん』という約束はどこへ行ったのか。

あとでめちゃくちゃ叱責されるのではないか。

というか、ケルン王子は無事なのか。

そんな考えが一斉に頭によぎり、情報過多で体が固まってしまう。

「先生……」

クルムが小さな声でグレイに話しかける。

「なんじゃい」

「先生って……、理性の利く方だったんですね……」

「そりゃあそうじゃろ。あの馬鹿と一緒にするな」

グレイからすれば分かっていた結果であった。

かつて学生の頃、ナックス王子と仲良くなり、バミに制御され、兄であるブラックと和解して丸くなったグレイの代わりに、学園で大暴れしていたのがラウンドだ。

それこそ王子だろうが高位貴族だろうが関係なく、悪いと思えば拳を振るうラウンドに意見できる者はいなかった。

ちなみに世間からは、このラウンドを唯一倒せる存在としてグレイが認知されており、その世間の九割は、ラウンドを化け物に仕立て上げたのがグレイであると認識していたので、結局グレイが悪いという話になっていた。

グレイからすれば一緒にするなという話であるが、ラウンドがやっていたことは、その少し前にグレイがやっていたこととほぼ同じである。

圧倒的暴力による秩序。

目に付くところで悪さをしたやつが悪い。

もちろんあらぬ罪を着せられて排除されそうになったこともあるのだが、そんな時は本人は脱獄するし、グレイたちが裏から黒幕を締め上げてしまうので、もう触れずにいるしかないような状態であった。

今のラウンドが兵士たちに『いい加減少しは衰えてくれ』と思われているとするならば、当時のラウンドは『さっさと田舎に引っ込んで、一小領主として二度と王都に来ないでくれ』と思われていた。

まぁ、クルムのせいで実に五十年ぶりに王都へ帰還してしまったわけだが。

王都で暮らす貴族としては、場合によってはグレイ以上に記憶から抹消したい存在である。なにせグレイは戻ってくるはずがない存在であったが、ラウンドは帰ろうと思えばいつでも王都に戻ってくることができたのだから。

そのどちらもが今王都にいるのは、正に奇跡であり、過去を知る者たちからすれば悪夢でしかなかった。

「謝る時にはそれなりの言葉があるだろうが!」

「す、すまぬ……」

「違う! ごめんなさいだ!」

「ご、ごめんなさい……」

もはや言われるがままである。

まもなく二十歳になるケルン。

生まれて初めて人に殴られ、謝罪を強要されながら涙した瞬間であった。