軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これがグレイの良いところ

とりあえずそちらに突き出してしまおうと、クルムは周囲を見回し、廃材をまとめているロープに目をつける。

拝借しようと駆け寄って結び目に手をかける。

しかしクルムのような少女には少々結び目が固すぎるようだ。

いくら最低限の自衛手段を身に着けたと言えど、力で大人に勝てるわけではない。

ほどくのに苦戦しているとグレイがやってきて、「何やっとるんじゃ」と言いながら、さらりとロープをほどいてしまった。

クルムにもできることとできないことがある。

赤くなった指先をしばし見つめてから、クルムは気を取り直して指名手配犯たちを器用に縛っていくグレイを見守る。

「慣れた手つきですね」

「冒険者をしていた頃にはよくやったもんじゃ」

見事に数珠つなぎを終えたグレイは、ロープの端を持ったままクルムの方を振り返る。

「こやつらは突き出すのか?」

「はい、近くに騎士の方がいるはずなので」

近頃の貧民街付近には、割と遅い時間まで騎士が巡回するようになっている。

一人で行動することはないから、預けてしまえばあとは良い感じに処理してくれるはずだ。

納得したグレイは、縛り上げた者たちが歩いていようが転がったままだろうが関係なく、ずるすると地面を引きずって道を進んでいく。

誰もが酷い怪我をしているため、弱音を吐いてグレイの気を引こうとしたり、文句を言ったりしたが、そのたびグレイの歩行速度が上がり、がりがりと地面で肌を削られることになると気づいてからは、誰も文句を言わなくなった。

意識のある者たちはこれではたまらないと、慌てて立ち上がって付いていこうとする。しかし、足を怪我して立てない者がいると、どうしたって中腰くらいまでしか立ち上がることができない。何をするにも不便な絶妙なロープの長さである。

やがて彼らは、互いに肩を貸したりして、協力してグレイの後についてくるようになった。

これは決して仲間意識ではない。

何せそうしないと、手首が引っ張られて自分たちが辛いのだ。

隙を見てロープを切断しようと試みた者が一人いたが、振り返ったグレイが魔法をぶっ放したことで、複数名が巻き込まれて怪我をして、それ以降逃亡を試みる者はいなくなった。

一般的にはあまり教育によろしくない光景であるが、王位に就こうというクルムならば、当然見て知っておくべき犯罪者の末路でもあった。

無事騎士を発見したグレイは、気軽に手を挙げて存在をアピール。

嫌そうな顔をして足を止めた騎士と、目を合わせないようにしているそのお付きの兵士たちに向かってにっかりと笑い、声をかける。

「こっちへ来い、手柄を立てさせてやろう」

「……なにかございましたか?」

一応グレイが敵でないことは分かっているが、これまでの諸々の経緯もあり、騎士たちにとってはあまり関わりたくない存在であることは確かだ。

警戒しながら寄ってきた騎士に、グレイはロープの端を差し出す。

「指名手配犯一式じゃ、お主に授ける」

「指名手配……?」

騎士は角に隠れて見えなかったロープの先を見る。

明らかに重傷と思われる者たちが、ロープで数珠つなぎにされていた。

しかも全員見事にまともに動きがとれないくらいには、怪我をしているように見える。

「こ、これは……、お、おい! 応援を呼んで来い! 隊を二つだ! 急げ!」

男は騎士のたしなみとして指名手配犯の顔をある程度覚えている。

だからすぐにこの中に殺人を犯した者が混ざっていることに気が付いた。

実際は全てそうなのだが、全員の顔をまじまじと確認する前に指示を出した騎士はそこそこ優秀であると言えよう。

「すみません、よろしくお願いします」

「は、はっ!」

グレイの影に隠れて見えていなかったクルムがひょっこりと顔を出してそう言ったものだから、騎士はまたも慌てて敬礼を返す。

「では先生、行きましょう」

「うむ」

そうこうしているうちに二人は何も説明をせずにさっさと立ち去ってしまう。

ロープの端をしっかりと握った騎士は、呆然と二人を見送ってから、はっと気づく。

この状況を、上司に何と説明したらいいのだろう、と。

騎士が頭を悩ませ始めた頃には、二人は次の目的地に向けて小走りで移動をはじめていた。

「今晩中にすべての貧民街で同じことをします。次からは指名手配犯ではなさそうな人も何人か捕まえられるとなおいいです! そちらは怪我をさせてまでとは言いませんが!」

グレイはほぼ大股で歩いているような状態だが、クルムは体を跳ねさせながら走っている。おかげで言葉にもいつもより勢いがあった。

「事情を聴くのか?」

「そうです!」

「素直に話すとは思えんがな」

「素直に話していただくために、先生に指名手配犯の捕縛を頼んでいます!」

素直な返答に、グレイは悪戯っぽく口角と眉を上げ、並走するクルムを見下ろす。

「お主、儂に似てきたのではないか?」

「先生の良いところだけ参考にするようにしています!」

「ならばそのうちそっくりになるかもしれんな。王には向いておらんかもしれんぞ」

「その自信に満ち溢れているところも、参考にできたらと思っていますが!」

「生意気な小娘め」

くだらない言い合いをしながら夜の街を走る二人は、問題に直面しているとは思えぬほどに、妙に楽しそうであった。