軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一方爺は茶を啜り、菓子をむさぼっていた

「それで? 王女様は何か私に伝えたい事でもあるんですか?」

目元だけ出ているパクスは表情だってわかりにくい。

しかしそんなことが分からなくても、王女様、という呼び方にはあからさまに嫌味がこもっていた。

それでも、クルムからすれば初めて訪れたチャンスであった。

これまで一度も相手にされたことすらなかった。

仮面をかぶったまま丁寧に、しかし歓迎されずに、話した言葉は右から左へ聞き流され続けてきたのだから。

これをものにできなければ、前に進むことなどできない。

クルムは目を逸らすことなく正面を見据えた。

見えないものを見なければならない。

グレイを味方につけようとした時には随分と失敗をした。

どんなに熱を込めて語ってもクルムの言葉が届いた気配はさっぱりなかった。

おそらくパクスも、そのたぐいの人間だ。

「なぜパクス様は、お兄様やお姉様の要請に協力の意思を示さなかったのでしょうか?」

権力を背景に強引に協力を迫ることもできなければ、代わりに差し出せるものもない。そして口のうまさや演技力で騙くらかせるような容易な人物でもない。

クルムは自分を見せるのではなく、まず探ることにした。

しかしパクスは横目で隣に座るグレイを見てから鼻で笑った。

「質問に答えるとは言っていませんよ」

「……失礼しました」

減点。

尋ねることは失敗だったようだと気づき、クルムは内心で歯噛みする。

グレイの時はまだ相手が聞く姿勢を持っていたのに対して、パクスの場合はもっと強く敵対の意思を持っている。

そんな相手に安全策を取ろうとすることが間違っていたのだ。

どちらにせよここでパクスの協力を得ることができなければ、前に進むことは非常に難しい。他の勢力がまだ手にしていない武器となり得る存在は、もうそれほど王都に残っていないのだ。

「……パクス様は、王侯貴族がお嫌いだそうですね」

「ええ、その通りです。脅しですか?」

いつも細い眼はさらに細く細くなる。

恫喝するような風ではなかった。むしろ、そんなしょうもない脅しをかけてきたのかとパクスは笑ったのだ。

所詮はこれまで交渉を持ち掛けてきた馬鹿どもと同じ、どうしようもない権力者らしいやり方だと馬鹿にしたのだ。

「私も嫌いです」

「……ほう」

クルムはパクスの気持ちに寄り添う。

いや、共通点を見つけて無理やり同じ視点に立った。

少しだけ興味を持って、パクスはにやつくのをやめる。

「私の母と兄二人は、『魔窟』の化け物たちに殺されました。私は化け物退治をしたいんです。そのためにあなたの力が必要です」

クルムは考える。

どんな言い回しが、どんな情報が、パクスの心に影響を及ぼすのかを考える。

悲しむべきか、怒るべきか、それとも淡々と語るべきか。

「そして原因となったくだらない制度も解体して、そこに群がる貴族たちの力も抑え、国を作り変えます。その過程で口を挟めたら、何かと得だと思いませんか?」

この言葉を『魔窟』で聞かれようものなら、それこそすぐにでも化け物に食われて命を落としてもおかしくない。

パクスはクルムをじっと見つめる。

哀れな子供。

自分の下へ機嫌伺いに来るのは、小賢しい保身のためだとばかり思っていた。

しかし今目の前で爛々と目を輝かせているクルムは、平気で命を燃やして交渉を持ち掛けてきた。

パクスはもう一度横目でチラリとグレイを見る。

本気で口を挟む気がないのか、茶菓子をバリバリと食べて、鬚にその粉をつけていた。

パクスにとってグレイは、子供を大事にするよき指導者である。

本来であればクルムがこれだけのことをしていれば、止めに入ってもおかしくないはず。

だというのに余裕のあるその態度は、グレイがクルムに対して強い信頼を抱いていることの証明のようにも思えた。

パクスはその信頼関係がなんとなく腹立たしい。

実際はただ美味しい茶菓子をむさぼっているだけであったが、そう見えてしまったのだから仕方がない。

「一つ、試させてもらいましょう。聞いてから断わっても構いません」

「なんでしょう」

酷く失礼に試すと言っているのにクルムはためらわずに内容を問う。

まっすぐな危なっかしい姿勢が、どこか昔の自分と重なってパクスはまた嫌な気分になった。

パクスは手袋の上からハメていた指輪を一つ取り外し、ことりとテーブルに置いた。

「これは災禍の指輪と呼ばれるものです。不幸と死を誘引しますが、一カ月間身に着け続けることができれば、逆に幸運をもたらすと言われています。一月後、これを私に返しに来てください。それができれば話を改めて聞くことにしましょう」

クルムはためらうことなく指輪を手元に寄せてから、少し困ったような顔をしてみせる。

「どうしました? やはり命を懸けることはできませんか?」

パクスは臆したかと思い、馬鹿にしたように尋ねた。

しかしクルムは、「いいえ」と言って指輪を手のひらに乗せてパクスに尋ねた。

「私の指には大きいようなのですが……、紐を通して首にかけたりしても良いのでしょうか?」

「……どうぞご自由に」

パクスはクルムの手の小ささを見て、少しむきになりすぎたかと思う。

しかしそれでも、この試しをやめるつもりは全くなかった。

先ほどの大口を実現するのであれば、これくらいのことは軽く乗り越えてもらわねば困るのだから。