軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんな奴ら

振り返ったグレイに睨みつけられた追跡者のうち半分ほどは、グレイの言葉に怒りをあらわにして襲い掛かろうと構えたが、残る半分はそのまま踵を返して逃げて行った。

情けなくはあるが、どちらの方が生存能力が高いかといえば、間違いなく逃げ出した方だろう。

逃げ出した者たちに気付いて、残った者たちも及び腰になっていたが、そのうちの一人が破れかぶれになって突っ込んでくる。

まだ年の若い、二十代半ば程度に見える男であった。

グレイは構えもせずにその男がやってくるのを待って、繰り出された拳をため息交じりで片手で受け止めて、そのまま足払いをして地面に転がした。

勢いよく地面に転がされた男は、その衝撃で肺から空気を吐き出す。

慌てて大きく息を吸いこんだところで、大きな足が鼻先をかすめて地面を踏みつける。

恐る恐る足が落ちた地面を見れば、踏み均された土に、しっかりとした足形が残っている。

脳天に振り下ろされていれば、頭蓋が割れてぺしゃりと潰れていてもおかしくなかっただろう。

男の全身からどっと冷や汗が溢れ出た。

「愚か者が。よくもまぁ、その年まで生き延びられたもんじゃ」

いくらガタイが良いとはいえ老人。

人数をかけて襲えば何とでもなるだろうという発想で、男はグレイに襲い掛かった。危険な一番槍を買って出れば、その分何かを得た時に取り分を多く主張することができる。

だが、慌てて振り返れば、暗黙の了解で協力をするであろうと思っていた他の者たちは皆姿を消していた。

「へ、へへへ、あ、あの、あいつらに脅されて……」

そう言いながら男が立ち上がる。

その最中、グレイの右腕が左から右に振られ、その指先が男の額をかすめる。

攻撃か、と慌ててのけぞった男であったが、追撃が来る様子もない。

何だったのだろうと思いながら立ち上がると、どろりと額から暖かい何かが垂れて来る。手で触れてみれば、それは真っ赤な血液であった。

男はそこに至って男はようやく、自分の額が真一文字にぱっくりと切り裂かれていることに気が付く。

「くだらんことを言っておらんで、まっすぐ立って質問にだけ答えよ」

「は、はい!」

男はついに、目の前にいる老人が尋常ではない存在であることに気が付いてしまった。

あわてて額の血だけを拭って、びしりと直立不動になる。

「新入りじゃな?」

「はい!」

何のことかもわからないが、とにかく大きな声で返事。

いいえと答えた瞬間、殺されていたっておかしくない。

「何をしてここで暮らすことになったか、包み隠さず話せ」

グレイの言う通り、男はスラム街にやってきてまだ数カ月。

それまでは街中の、質の良くないものを安く人々に売りつける商店で普通に働いて生きてきた。しかし、ちょっとばかり売り上げをちょろまかしたのがばれてしまい、財産を奪われた上に店から追い出されたのだ。

それからはこの貧民街の浅いあたりで、名前も知らぬ顔なじみたちと、金を持っていそうな奴らを襲う毎日だ。

しかしそんなことを今赤裸々に語ってしまっては、この何をするかわからない老人にどんな目に遭わされるか分かったものではない。

何かカバーストーリーを用意しようと躊躇った瞬間、大きな手のひらが迫ってきて、男の頭をホールドし、こめかみのあたりをぎりぎりと締め付けた。

「余計な嘘を吐いたら首を引っこ抜く」

頭蓋がミリミリと音を立ててきしむ音を幻聴した男は、慌てて早口で自分の来歴をまくし立てた。すると体がブンと放り投げられて、頭が割れそうな頭痛から解放される。

「次に悪さをしているのを見かけたら容赦なく殺す」

「は、はいぃい!」

グレイがその台詞を言い終わらないうちに、男は涙を流しながら貧民街の奥へと消えていった。

周囲に人影がすっかりなくなったところで、グレイは隣に立っているクルムに向けて話しかける。

「このように、貧民街の浅い辺りには、しょうもない輩もたくさんいるという事じゃ。誰がどこで暮らすのに向いておるのか、よく考えるべきじゃろうな」

「なるほど……」

グレイの行動が破天荒であることはいったん置いておくとして、クルムは示された現実について考える。

ああいった人物、すなわち、普通に生きることができた可能性もあるのに、自身の問題で、貧民街にやって来ざるを得なかったような人たちをどうするかも考えねばならぬということだ。

クルムは、ほんの数秒考えてから、すぐにグレイの顔を見上げて尋ねる。

「……ああいった方は、〈要塞軍〉で鍛え直してもらうというのは?」

「奴らがそれを了承するかは分からんがのう」

「その問題がありましたか。……ちょっと考えてみます」

〈要塞軍〉自体は、多少の悪さをしたような人物であろうと、人手不足であるからして誰でもウェルカムな状態だ。ただ、そんな人たちが、辺境の地にいるよく分からない〈要塞軍〉なんかに就職したいかといえば、また話は別である。

「まぁ、よかろう。さて、次はこっちじゃ」

「はい、わかりました」

何にしても、〈貧民街〉の一つの側面は見せてもらった。

クルムはグレイの案内に従って、貧民街のさらに奥の方へと足を踏み入れるのであった。