軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

年の割に

他に誰もいない廊下を歩きながら、クルムは隣にいる巨大な老人に話しかける。

「先生。分かっていたことですが、言葉ばかりではなかなかうまくいかぬことも多いですね」

クルムは分かった上で、バミのように悠然と構えずに、ホワイトやジグに対してあえて言葉多く語って見せたのであるが、それが結果的には上手くいかなかった。

むしろ語れば語るほど、心が離れていくのを感じて、なかなか難しいものだと考えていたのである。

「そりゃそうじゃろ。大事なのは覚悟と行動じゃ。言葉だけで未来を作れるのは、既に信頼を得ている者だけじゃ。バミのようにな」

「そのようです。私の言葉は軽い」

「お主が生まれてここまで来る三倍以上の時間、バミは信頼を得続けてきたのだ。比べるなどおこがましい」

「分かっています。バミ殿は実務で、先生はその力で、信頼を得てきたのでしょう。ホワイト殿は実績で、ジグ殿は忠誠心で、となると……、私は何を武器にするべきか、と考えていただけです」

グレイは横目でクルムを見やる。

また弱音を吐くつもりかと思ったがそんな様子はない。

ここ数日の忙しさを考えれば弱音の一つや二つ当たり前であるが、今朝の件はどうやらクルムをきちんと奮起させたらしい。

ホワイトの説得に失敗しても、めげずに先のことを考えている。

「それで、結論は出たのか」

「先生ならば、普通こういう時に答えを下さるものでは」

「貰った答えを抱えて生きると、いざという時に心の隙ができるきっかけになる」

「自分で考えろと。……私の場合、強くもなければ時間の余裕もありません。分かりやすく周りに示せる武器なんて何もありません」

諦めて投げだしたような発言だが、クルムの横顔は敗北者めいていなかった。

顎を引き、しっかり正面を見据えている。

「だから、地道に積み上げつつ、はったりで誤魔化しつつ、その間に結果を出すしかありません。きっとこれは、王になってからも続くのでしょうね」

正しい未来の想像だ。

初めての、しかも年若い女王。

寄せ集めの勢力に、怪しく武力にしか頼るところのない教育係。

だが、それはまだ手中に収まっていない未来だ。

「捕らぬ狸の皮算用じゃな」

「なんですかそれは」

「まだ王にもなっていないのに、先のことを心配しすぎじゃ、と言っておる。まずは王にならねばならん。なってからのことを心配してものう」

「先生はたまに、よく分からない例えをしますよね。意味を聞けば意外と納得しますが。アルムガルド領での言葉ですか?」

グレイは廊下から月を見上げ、右の頬だけを上げてニヒルに笑う。

「いや、誰も知らん、儂の頭の中にしかない世界の言葉じゃ」

クルムはグレイの顔を見上げながらしばし考え、首を傾げた。

「よく分かりませんが、先生しか知らない世界となると、かなり暴力的な世界なのでしょうね」

否定するでもなく、馬鹿にするでもなく、一応真面目に考えて答えたらしいが、結果内容はやや馬鹿にしたものになっているのは、普段のグレイの行動のせいである。

「何を言うか。この世界よりもよっぽど平和で穏やかな世界じゃ」

「なら先生は退屈でしょうね」

「……どうじゃろうな。まぁ、そうだったのかもしれん」

グレイしか知らない世界。

正義の味方に憧れて入った世界は、盲目的に上に倣えの縦社会であった。

上が白と言えば黒も白になるのが当たり前であったし、それに逆らって生きたグレイは、結果的に長生きしなかった。

そんな世界で培われた価値観は、この世界で普通に生きることを阻害し、気付けばこんな爺になっていたわけである。

「今一つよく分かりませんが……。私は今、先生のお陰で前に進んでいます。私には……、先生も楽しそうに見えていますが、どうですか?」

グレイの硬い表情に、クルムはどこか触れるべきではないことに触れた感覚があったのだろう。

話題をころりと変えて問いかける。

「そうじゃのう」

子供に気を遣われたことに気が付いたグレイは、もはや過去のこととなっている感傷を捨ててニカッと笑って鬚を撫でた。

どうやら久々にバミやスペルティアと長い時間接したせいで、過去を思い出しすぎて、少しばかりナイーブになっていたようだと気がつく。

「……まぁ、悪くないかもしれんのう」

グレイにしては割と褒めた方だったが、クルムは不満そうに「そうですか」とため息交じりに言葉を漏らした。

クルムはグレイと共に悩んだり街を駆け回ったりすることが、終わってみればいつも良い経験となり、後から思えば楽しかったのだろうと感じている。

グレイもそうであろうことは見ていれば分かるのに、どうしてこの老人はこう素直でないのかと思ったわけである。いい年をして、何かと逆らわないと気が済まない、天邪鬼で子供のような精神性をしている。

だがそうして子供のように同じ視線で怒ったり笑ったりしてくれるからこそ、クルムだって世話になりっぱなしであっても、あまり気負いすぎずに次に挑戦していくことができる。

ある意味では助かっているのだが、いかんせんクルムにも、たまには意見の一致を見て、気持ちよく話を終えたい時だってあるのであった。