軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バミは考えさせる

バミはしばし考える素振りをしてから、ゆっくりと話を切り出す。

「遡って考えてみてはどうだろうか」

「どういうことです?」

「つまり……、ジグ殿が教会の実態を隠して活動していたことで、どのような被害が出て、どのような恩恵があったのか」

「恩恵、ですか……?」

ホワイトは眉間に皺を寄せたが、バミは気にすることなくゆったりとした語り口を崩さない。

「ではまずどんな被害があっただろうか?」

「……解決までの十年間で、幾人もの無辜の民が実験によって犠牲になったことでしょう」

「なるほど、確かに人の命は取り返しがつかない。他には」

「騎士団内の情報を教会に漏らし続けた」

「それにはどんな被害があったのだろうか」

ホワイトは黙り込んでしまう。

被害らしい被害は、現段階のホワイトには見えていないからだ。

情報を横流しすることは、明確に騎士団の規則には違反しているが、しかしどんな被害が出たかと尋ねられると具体的には分からない。

つまり、ジグが特に被害がなかったと言い張れば、騎士団の規則違反、で終わってしまう話なのだ。

「……幾度か、騎士の巡回範囲を調整することで、薬の流通経路が見つかり難くなるようにしています。薬があれほど広がったのは、私の責であると言えましょう」

「なるほど、それは確かに被害だ」

答えたのはホワイトでなくジグであった。

罪を隠すつもりはなく、必要に応じてきちんと答えていくつもりだ。

クルムとしてはハラハラする展開だが、今場を取り仕切っているのはバミだ。

余計な口を挟んで空気をかき乱すわけにはいかない。

「他には何かあるだろうか?」

「薬物の経路を隠したことによって、貴族数人が命を落とし、騎士にも被害が出ている」

「それもまた、大きな被害だろうな」

バミは頷いて黙り込む。

視線が他には何かあるかとホワイトに問いかけるが、全容が見えていない以上ホワイトにはこれ以上答えるべきことはなかった。

ジグもしばし自らの罪について考えると、ぽつりとつぶやく。

「前の団長と、ホワイト殿のお父上であるところのトルメン副団長の諍いを、大きな問題になるまで黙って見過ごしました。あれは、私の大きな罪です」

「……そうだったのか」

「はい」

知らぬ事実であったらしく、ホワイトが困惑してジグを見ると、ジグは神妙な表情で頷く。

その辺りに関しても多少の知識があったバミは、数秒目を閉じて当時のことを思い出し、それから目を開けて最後の確認をする。

「……そんなところか」

ホワイトからもう何も出てこないことは分かっている。

ジグも絞り出して出た話題が今のものならば、もう何も出てこないだろう。

二人の顔をもう一度順に見てから、話題を切り替える。

「では、どのような恩恵があっただろうか」

「……ルミネ王女殿下を無事に救出することができました」

「間違いなくそれが一つ目であろうな。他に何かあるだろうか?」

ホワイトは答えない。

そしてジグも答えない。

どちらも恩恵などないものと思い込んでいるからだ。

バミはそれを見て、自分や身内に厳しいものだと思う。

本当は二人に考えさせて、答えさせたかったのだが、出てこないものは仕方がないから、自分から少しずつ話していこうと口を開きかける。

ルミネ王女が話したのはその時だった。

「ジグ殿が助かりました。あの時、協力すると約束したことで、ジグ殿が今も無事に生きていらっしゃいます」

「それは……、裏切ったのだから当然のことで、何の恩恵にも……」

「いえ、私にとってはそれは何より大きな恩恵です」

ジグ自身が否定をするが、ルミネ王女はそればかりはと引かなかった。

困ったジグが否定をしてもらうためにホワイトの方を見るが、ホワイトもまた腕を組んで難しい顔で考え込んでいる。

「ホワイト殿も分かっているだろう。この十年、ジグ殿がどれだけ騎士団の基盤を支えてきたのか。どれだけの被害を未然に防いできたか。ジグ殿がいなければ、ホワイト殿は騎士団長になっていない可能性もある」

「それは考え過ぎです。私がいなくとも騎士団は活動を続けていたでしょうし、ホワイト団長は団長たりうる実力がありました。それに、功績があるから罪を問わないというのはおかしな話です」

反論をしたのはホワイトではなくジグであった。

クルムの説得に乗るとは言ったが、やはりジグは心のどこかで自らが裁かれることを望んでいるのだろう。

「もちろんそうだ。私は今、罪の有無の話をしているのではなく、どのような恩恵があったかを話している。罪を大きく見るあまり、過去の事実を否定するというのは、現実からの逃避に過ぎない。ジグ殿、事実を事実として客観的に捉えることができぬのならば、今この時は口を慎むべきだ」

バミにじろりと睨まれて、ジグは唇を噛んで押し黙る。

背は小さく、体が弱り切った老人であるはずのバミの独眼は、副団長のジグですら黙らせるだけの威厳があった。