軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バミの長い五十年

バミの想像した通り、間もなく扉がノックもなしに勝手に開けられた。

グレイの様に人の気配を察知できるレベルに感覚が研ぎ澄まされているのならばともかく、バミはそういった面では普通の人間のはずだ。

本当に種も仕掛けもなく到来を告げたのであれば、神がかり的な予測である。

「バミよ、年貢の納め時じゃ!」

「人の部屋に勝手に入ってきて訳の分からないことを言うな」

楽しそうにやってきたグレイだったが、バミが驚いていないのを見て、クルムたちを見ながら不審がる。

「……お主ら、ばらしたのか?」

「お前のやることなんてお見通しだ、馬鹿め」

「なんじゃ、つまらん。ほれ、スペルティアを連れてきてやったぞ」

会いたくないと言っている相手を連れてきておいて、グレイはまるで悪びれもなく言い放つ。

クルムはこれだけ自分勝手だといっそすがすがしいなと思いながら、グレイの行動を見守る。昼間の問答の通り、自分の正義を信じて生きているのだろう。

「……お久しぶりです、スペルティア様」

「座っていろ。足が悪いのだろ」

バミはゆっくりと体を前かがみにして立ち上がろうとしたが、スペルティアはつかつかと歩み寄りながらそれを止める。

「申し訳ありません。スペルティア様もお好きなように座って下さい」

スペルティアはバミの言葉を無視してそのまま距離を詰め、バミを見下ろしながら尋ねる。

「なぜすぐに治しに来なかった」

「会わせる顔がなかったので」

「なぜ」

「約束を守る手段を失いました」

「なんの」

「あなたの故郷を取り戻すための、です」

「頼んでいない」

「いえ、約束しました」

「してない。期待しているとは言ったが、頼むとは言わなかった」

惚れた女の前で格好をつけた。

そうして期待していると言われた。

それはもう、バミからすれば約束をしたも同然だった。

「……怒っていますか」

「怒っている」

「申し訳ありません」

バミが深く頭を下げると、スペルティアは腕を伸ばしてその手でバミの顔を挟み込み、無理やり上げて自分の方に向かせた。

「逃げるな、見ろ」

「はい」

「お前は、私様が嫌いになったのか」

「いえ」

「ではもう逃げるな」

「わかりました」

「よい。許してやる。私様にとって五十年はそんなに長くなかった。我慢してやる」

「そう……、でしたか」

バミは何とも言えぬ顔で返事をする。

バミにとってこの五十年は長かった。

心許せる相手は消え、孤独に戦い続けた五十年だった。

新たな策は思いつかず、力のなさを呪いながらグレイの帰還を待った。

権力者に適宜情報を流し、スペルティアの地位が保たれるよう手配し、出入りしたものの全てを監視した。

その上で体を張りながら、自分の地位が保てるぎりぎりまであらゆる不正を暴きつつ、王都に睨みを利かせてきた。

長かった。

そしてグレイがようやく戻って来たけれども、自分はもうそれほど役に立てそうにない。少なくとも、今からどんな作戦を立てようとも、エルフの森を取り戻すまで自分が生きている自信はなかった。

もう次代に思いを託すことしかできない。

忸怩たる思いを抱えながらもバミは思う。

しかし、スペルティアにとってその程度ならば、まぁ、良かったのかもしれない、と。

スペルティアはそのままバミの頭を抱え込んで、その背中をポンと叩いた。

「しかし、お前にとっては長かっただろう。頼られないのは……悲しかった」

感情のこもらない話し方をするスペルティアが、言葉を溜めて、選んで、そして絞り出すようにして『悲しかった』と言った。

心が締め付けられ、バミは言葉も出なかった。

「ナッシュも、ブラックも馬鹿だった。グレイはもちろん大馬鹿だ。バミだけは賢いと思っていたが、どうやらお前もそれに並ぶくらいに馬鹿だ」

「申し訳ありません」

「もっと言い訳をしろ」

「ございません」

「馬鹿」

「仰る通りです」

スペルティアが罵り、バミが謝罪をするという光景がしばらく続く。

いつの間にかグレイは椅子を持ってきてクルムの隣に座り、更にその隣ではルミネが「素敵……」と呟きながら、胸の前で指を組んでキラキラとした目でスペルティアの方を見つめている。

やがて一切言い訳をしないバミに、スペルティアが先に根負けしてため息を吐き、自ら椅子を持ってきてバミのすぐ隣に座る。

「あの……」

「なんだ」

「近いのではないでしょうか」

「バミはすぐ逃げるからこれくらいでいい」

「お主らの距離感はどうでもいいから、そろそろ本題に入ってもいいじゃろうか?」

「……ああ、そうだな」

随分と我慢したであろうグレイがようやく突っ込みを入れると、バミもようやく元の剃刀大臣の顔に戻って姿勢を正す。

ただしその太ももの上にはスペルティアの手が乗せられているが。

クルムはあれはどういうことなのか、真面目な顔で考える。

何かそういう関係なのか、それとも、ただただバミの悪い足を治すために治癒魔法を使っているのか。

恋とか愛とかに関して言えば、割と鈍感な王女様である。

「まずはお主と別れてからあったことを全部共有しておこう。ほれ、クルム」

「はい、それでは……」

クルムは気を取られつつも、バミに協力してもらうべく、つぶさに今の状況を共有し始める。