軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

分別がある時もある

「何でと言われてものう」

「わかりました。ではまず街へ行って、ローブを用意します。せめて新調しましょう。あなたのお好みの物を自由に選んでいただいて結構です。お金に糸目はつけません」

「本当じゃな?」

「もちろんです」

「偽りないな?」

「しつこいですね」

あまりにしつこい確認に、ちょっと心配になってきたクルムであるが、ここで引くわけにはいかないと胸を張る。いつもだったら冷静に引き下がっているところだが、グレイ相手だとつい向きになってしまうところがあった。

「ではまず呪い谷まで行くとするかのう」

グレイの使っているローブは特別製だ。

確かに見た目はみすぼらしいかもしれないが、素材は高級品のオンパレードで、性能だって鎧をしのぐほどの代物だ。飛び道具も刃も滅多なことでは貫通しないから、気合いを入れて当たり所さえ計算しておけば、大抵の攻撃は打撲程度で凌ぐことができる。

見栄えだけを気にしてわざわざただの布を羽織る気にはならなかった。

「……なぜです?」

「素材も職人も特別じゃから」

「ただの布のようにしか見えませんが……」

クルムに疑わしそうな目を向けられて、グレイはついついこのローブのすばらしさを口早に語る。

「百年以上生きた竜の皮の一番丈夫な部分だけを慎重に剥いで重ね合わせ、その中の一部に大鬼蜘蛛が我が子を守るためだけに吐き出した糸だけを使って魔法的な刺繍を施してある。これによって打撃と魔法的な攻撃から、呪いにいたるまでの耐性がついておる。縫製も同じ糸をさらに寄り合わせて丈夫にしたもので、少なくとも儂が生きている間は絶対に破れたりほつれたりはせんじゃろうなぁ。ちなみに作った職人は呪い谷で暮らしておったが、今は生きとるのかもわからん。ちなみに支払いは金ではなく、不死竜の牙じゃった」

一つ一つの材料を聞くたびに、クルムの頭にガンガンと衝撃が降ってくる。

たった一つ、たった一掴みで金貨の山ができそうな素材。

今では誰も近寄ろうとしない呪い谷の職人。

その上、支払いには不死竜の牙を使ったと言いだした。

不死竜と言えば、呪い谷の主とも言われるような魔物で、誰も倒すことができなかったからこその『不死竜』なのだ。

「ふ、不死竜、倒したんですか?」

「ありゃあ死なん。牙だけへし折って撤退した」

王家は旧アルムガルド領に派遣した兵士を、呪い谷だけで数百ではきかぬ数失っている。

グレイが言っていなければ冗談を言っているのだろうと笑い飛ばすか、からかっているのかと怒りだしてもおかしくない話だ。

「で、新調してくれるんじゃろうか?」

「……さて、街へ行きましょうか」

もう見栄えなんてどうでもよかった。

そんなわけのわからない伝説の防具みたいな物をまともに用意しようとしたら、きっとクルムに用意される支度金をすべて使っても賄いきれない。

しばし部屋の角を睨んだクルムは、全ての話をなかったことにして立ち上がる。

先ほどまで酷く疲労していたはずなのに、クルムの足は思ったよりもずっと元気に言うことを聞いてくれた。

「おい、新調してくれるんじゃったら、最近の流行りを取り入れたローブを用意してもいいんじゃぞ」

「お部屋にあるものを使って下さい。先生はそのローブがお好きなようですから、無理に新しくしろとは言いません。よく見れば色合いも味があって良いのでは?」

「いやぁ、ちょうど新しくするのも良いかと思っておったんじゃ。実にありがたい提案じゃった。さて、共に呪い谷まで行くとするかのう」

出かける準備をしているクルムにグレイはしつこくついて回り、先ほどまでの話を蒸し返す。クルムは無視をして侮られぬ程度の装飾品を選んでいたが、面倒くさい老人のいじわるは止まらない。

「やはり人前に出る時の見栄えは大事じゃからな。そんなものは糞くらえと思っておったが、こんな王宮にあってはその流儀に従うべきじゃからなぁ」

「グレイ先生」

「なんじゃ」

「私が悪かったです、もう許してください。そのローブの色合いは、立派なお鬚にもよく似合っていると思っていました。見栄を張って妙な提案をしてすみませんでした」

あまりに大人げない仕打ちであったが、逆にクルムの方は見た目よりもずっと大人であった。ついでに喜びそうな言葉の一つも添えてやると、グレイの口撃はぴたりと止まる。

「ふむ、まぁ、なんじゃ。うむ、そうか」

振り返れば満足そうに顎の白鬚をなでるグレイ。

クルムはグレイがよそ見をしているのをいいことに、剣呑な目つきでその鬚を見つめ『いつか隙をついて引き抜いてやろうか』と考えていた。

グレイを連れて街を歩くとどうしたって目立つ。

何せ背は高いし顔もよく見えない。

立派な護衛なのかと思えば、僅かにのぞく顔の下半分には、立派な白ひげが生えており若い男とは思えない。

折角多少きらびやかに着飾っても、注目はクルムではなく、グレイの方に集まってしまっていた。いつもの小さな商店をいくつか訪ねたが、商人はほぼずっと怪しい大男であるグレイにくぎ付けで、肝心のクルムの話は右から左へ抜けているようだった。

それでもクルムはいつも通り、懇ろにしている商人たちの下をまわる。

今日のあいさつ回りで建設的な話はもう捨てた。

話をちゃんと聞いていないようであれば、次回以降の話で相手より優位に立つ材料になるし、そう悪いことではない。

前向きに前向きに考えながら、クルムはぐるりと街をまわり、最後に特に大事にしている商人の店を訪ねることにした。

「次に訪ねるのは一代で財を築いた商人です。三十の半ばくらいですが、王都の商業組合の代表にも選ばれた勢いのある方になります。何か一つを取り扱うのではなく、市場を徹底的に調べ上げた上、売れる商品だけを店頭に並べることで、店舗の数を増やしています。とにかく大事な相手ですので、そのつもりでお願いします」

「うむ、そうじゃな」

そのつもりでも何も、グレイは外へ出てからほとんどクルムのやることに口を出していない。何やら声をかけられた時も「ふむ」とか「そうじゃな」とか、いつもよりちょっと低めの威厳のある声で返事するばかりの猫かぶり状態だ。

クルムにとっては都合のいいことだが、いつ何をしでかすか心配でドキドキしてしまう。

いつものことなのだが、クルムはそれを知らない。

いや、忘れてしまっている。

最初に会った頃を思い出してみればわかることなのだが、ここ数日の関係とグレイのキャラクターがあまりに濃すぎて、そんな印象はどこかに行ってしまっていたのだった。