軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

堂々たる闇夜の襲撃

ホワイトが想像していたよりもずっとグレイに近いタイプであったことは、クルムの計算外であった。おそらく今までは、ハップスが抑止力となっていたり、ジグが外へ情報が漏れないように手を回していたのだろう。

それを今回の騒動でクルムが解き放ってしまった。

完全にクルムのせいであるから、今こうして激しく揺さぶられながら輸送されているのも自業自得である。

今晩の目的は、薬の栽培施設の襲撃から始まって、教会の協力者の襲撃、そして最終的にはそのもっとも地位の高い黒幕まで潰してしまおうというものらしい。

手段は簡単。

暴力と脅しである。

きっとグレイもホワイトも躊躇しない。

この類の人間に共通して言えることは、大義名分があって自分さえ納得していればどこまでも行く。

これを止めるのがどれほどの重労働であるか、既にクルムは理解していた。

相手からすれば、急転直下、青天の霹靂。

ここ数日のホワイトの行動から、警戒くらいはしているかもしれないが、そこまで無茶苦茶してくるとは思わないだろう。

ところで今クルムは、とんでもない問題に直面している。

腹部を圧迫されたまま揺らされ続けた結果、今にも胃の中身が逆流しそうになっていた。

顔を青くしながら、ただひたすら早く到着することを祈るばかりである。

「……ここか」

「そうだ」

ようやく地面に下ろされたクルムは、ほっとしながらゆっくりと深呼吸を繰り返していた。まさか王女として、人の面前で嘔吐するわけにはいかない。

きっとここからは比較的ゆっくりとした動きになってくれるはずだ、と思った瞬間、ホワイトが教会の扉を蹴破った。

蝶番ごと吹き飛ばすその威力は、ホワイトもまた、やはり尋常な生物ではないことを示している。

「や、薬草の確認とか……事実の調査は……」

「見ても分からんじゃろ」

「そうだ」

グレイが答えるとホワイトが頷いて、ずんずんと教会内部に踏み込んでいく。

息を整える暇もない。

「クルム、ちゃんとついてこい」

「……はい」

仕方なくグレイのすぐ後ろについて歩いていくと、ホワイトが突然ギラリと剣を抜いた。

教会内部には、いくつかのゆらりゆらりと揺れる影。

それがふらふらとクルムたちの方に近付いてきている。

「止まれ。止まらねば斬る」

ホワイトは警告を発した。

そして止まらずに迫ってくる揺らつく影を、頭頂部から股下まで一刀両断に切り伏せた。

相手の言葉も聞かず、正体も不明のまま。

悲鳴もなく、他の影の反応もない。

そこでようやくクルムは、それがおそらく薬物兵であると判断した。

ホワイトは近づいてくるものを皆一刀両断で切り伏せていく。

剛剣。

ホワイトは瞬く間に揺れる影を仕留め、教会の奥へと歩いていく。

グレイはそれについていきながら、先ほどホワイトが吹き飛ばした扉をちらりと見ると、足を上げて振り下ろし、破裂させた。

どうやらその下にも、薬物兵が下敷きになっていたようだ。

教会の内部構造と言うのは大体同じようにできており、内部の人間が宿泊する場所もおおよそ決まっている。

ホワイトは迷うことなくその寝室へ向かっていくと、やはり当たり前のようにドアを蹴破ってそこへ侵入した。

寝室は窓が開いており、細身の人物が逃げていく後ろ姿が見える。

「逃げられた」

これだけ大きな音を出せば当然である。

窓はグレイや鎧を着たホワイトが通れるほど大きくない。

ホワイトが回れ右して一度教会の外へ出ようとしたところで、グレイがにっかりと笑った。

「逃がすか」

一言漏らしたかと思うと、グレイは窓が取り付けられている壁に向けて肩からタックルを仕掛ける。衝突の瞬間に破裂音が鳴り、そこにグレイより少しばかり大きな穴が開いた。

「ふは、はははは」

そうしてそのままグレイが笑いながら穴から飛び出していく。

やはり妖怪じみている。

グレイは、ホワイトとクルムが穴から外へ抜け出す間に逃げ出した人物に追いつき、首根っこを捕まえていた。

当然その人物は暴れたが、髪の毛をぐっと掴まれて首を捻られながら「捻り殺すぞ」と言われた瞬間、ピタリと反撃をするのを諦めた。

そこからは尋問の時間である。

用意の良いホワイトが持っていた縄で後ろ手に縛り、その端をグレイが握る。

神罰が、とか、許されることではないとか言っていたが、特にホワイトもグレイも事情は説明せず、身分も明かさず、自分の知りたいことを尋ねる。

流石にただでは応えてくれなかったが、この人物に限って言えば、結果はそれほど残酷なことにならなかった。

ちょっと指を数本ぺきぺきとしただけで、知っていることをすべて話してくれたからだ。

この男が知っている中で最も身分の高い教会の人物を聞いたところで、グレイはにっこりと笑って言った。

「案内せよ」

「こ、殺されてしまいます……! 神罰が……」

「ふむ……、では足はいらぬな」

「へ……?」

「案内できぬ足ならいらぬじゃろう? 神に祈れ」

グレイは無理やり男を引き倒すと、その膝の上に足を振り下ろそうとする。

瞬間男はすでに涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で叫ぶ。

「案内します!」

「いやいや、やりたくないことを無理強いしてものう。安心せよ、自分で探してみるわい。間違えたとしてもお主のような犠牲者が増えるだけじゃ。安心してここで死ね。さぁて、お主の膝は踏み砕いたらどんな音が鳴るかのう」

「案内させてください! 案内したいです!」

「案内したいのか?」

「したいです!」

「……仕方ないのう」

グレイは男の首根っこを掴み、無理やり体を持ち上げて立ち上がらせる。

「さて、留守じゃったら関節と言う関節を踏み砕いてから殺すか」

「い、いらっしゃるかどうかまでは……」

「祈れ。神が見ておるんじゃろう?」

「う、うぅ……」

目の前で行われる悪魔の所業を、ホワイトは特に何の感情もなく見つめていた。

なにせ指をぱきぱきとしたのは、グレイではなくホワイトの方である。

趣味が悪いが脅しとしては非常に有効だ。

逆らう気力を根こそぎ持っていかれた男は、時折鼻をすすりながら夜の街をよろよろと歩いていく。

クルムは、敵の殲滅にばかり意識を割いている大男二人が取りこぼした情報を拾うべく、質問を投げかける。

「教会内部には数人そちらの手の者が控えていました。どこも同じように警戒しているということでしょうか?」

「はい……、ここ数日薬を扱っている組織や、卸している教会が襲撃されていたので……」

「教会内でこの薬関係に関わっているのは、何割程度です?」

「分かりません……、分かりませんが、私が知っているだけで三か所……」

どうやらこの男はそれほど上の方の人物ではないようだ。

情報が曖昧で、聞き出したところであまり意味がなさそうである。

クルムは『ブレーキがなくなるとこうなるのか』と、グレイの露悪的すぎるやり様にため息を吐く。

ホワイトもホワイトである。

街の治安を守る騎士団長の通常運転がこれだとはあまり考えたくないところだ。

どちらも頼りになるし、効率も良いのだが、目的に向かうために手段を選ばない。

夜の空気を取り込んで、ようやく吐き気は収まってきた。

首魁の下へ到着するまでに、何が起こってもいいように、頭の中で作戦を立てる必要があった。