軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

グレイが元凶

翌日は月の変わり目で、王子王女が集められて王の前で諸々報告するという、グレイに言わせれば【自由に殺してください会】が開催される。グレイが殴り込んで暴れたのもこの会である。

よくもまぁ再開したものだ。

おかげで護衛も一切立ち入り禁止で、外で待機の状態となっているので、グレイと同じくらいに非常識な頭のおかしいのが乗り込んでこない限りは安全だ。

一応グレイも待機所になっている庭の端の方で、気配を消して静かに終わるのを待っていた。これまではウェスカを同席させてきたクルムだったが、そろそろ何かあってもおかしくないかと、この集会においてもグレイを連れて来るに至ったわけである。

グレイは庭の端で黙って他陣営の護衛連中を観察する。

腕の立つ者もいるが、ついてきただけにしか思えないしょうもない連中もいる。ただ、王族たちがいる部屋の入口に立っている護衛は、特別に腕が立つようであった。

静かに立っているだけのグレイをずっと警戒している節がある。

何か言われた、というより、単純に武人として危険な存在に気が付いたのだろう。

退屈しながらもしばらくそこで立ち尽くしていると、一人の男が近づいてくるのが分かった。

ハップスに付き添ってやって来たジグだ。

本人はまだハップスがクルムについたことも、クルムがホワイトに余計なことを吹き込んだことも知らないはずだ。

以前と変わらぬ様子で、しかし少しばかり困ったような表情でやってくる。

「すみません、グレイ殿。こんなことを尋ねるのはおかしいと分かっているのですが……、うちの団長の行方を知りませんか?」

「ホワイトのことか? 知らん」

「そうですよね、ありがとうございます。妙なことを言って申し訳ない」

「姿が見えんのか?」

「実は昨日からどこへ行ったのやら……。時折あることなのですが」

時折あることも問題なのだが、自由人であるホワイトの行動を縛ることは難しい。

ジグは基本的に自分が外回りをすることで、ホワイトが好き勝手に動き回るのを制御しているのだが、一度いなくなるとなかなか姿を現さず、何かしでかして帰ってくるのだ。

その間はジグが騎士団の指揮を一手に担うことになり、王宮から離れられなくなる。

何かをしでかすと言っても、触れてはまずい貴族をとらえてきたり、癒着している商人をとらえてきたり、とんでもない悪党を討伐してきたりと、手柄ではあることは確かなのだが、なにせ何をするのか伝えずに出かけていく。

毎度のことにジグは困っていた。

ただ今回に限っては、もしかしたらいがみ合っていたグレイと本格的にやり合って、殺されてしまったのではないかと少しばかり心配をしていたのだ。

他にも確認したいことはいくつかあったのだが、グレイの様子を確認して一安心したジグである。

「ふむ、変なやつじゃな」

「……まぁ、そうですね」

ジグはグレイの棘が微妙に薄れていることに気付き、疑問を覚えながらも同意する。

どこかで接触している説が濃厚である。

「あ奴はお主より年下じゃろう。先に団長になられて羨んだりはせんのか」

「はは、いや、まさか」

ジグは目を丸くして、思わず笑った。

グレイのような男の口から、羨むなんて言葉が出てくること自体が面白かった。

「私は騎士団長の器じゃありません。こうして団長のような才のある人を補佐しているくらいでちょうどいい」

「ふむ、そうか」

どうにもやはり、悪役というには人が良い、ように見える。

すべての演技を見破れるわけではないが、もしこれまでの全てが演技なのだとすれば、ジグは大した狸だとグレイは思う。

「あまり無茶ばかりされても困るのですけどね。先代のラバラン伯爵も腕の立つ方だったが、先々代の件で遂には騎士団長になれずじまいでした。折角復帰されたのだから、地位は大事にしてほしいのですが」

「……先代のラバラン伯は騎士団長にはならなかったのか?」

「あ、いや……、失礼しました」

「何がじゃ?」

突然視線を彷徨わせて謝罪したジグに、グレイは本当に何を言われたのかわからずに問い返す。意地悪をするつもりではなかったのだが、ジグはそれを別の意味にとらえたらしく、ややうろたえながら答える。

「嫌味のつもりではなかったのです。グレイ殿の件で、先々代のラバラン伯爵が辞任されまして、それを引きずって先代は結果を残しても騎士団長になることはできず……」

そこでようやくグレイは状況を理解して、顎鬚を撫でながら鷹揚に答える。

「……まぁ、そうじゃろうな。気にするな」

気にするな、ではない。グレイこそ気にすべきことだ。

グレイが暴れたせいで、騎士団の内部もごたついたらしいことを考えると、騎士団の内部に腐敗した勢力が入り込んでいるのも、そのせいであることが考えられる。

もしホワイトがグレイの正体に気が付いているのならば、隔意を持っているのは当たり前のことであった。

「もしホワイトの奴を見かけたら、お主が心配しているから帰ってやれと伝えておこう」

「あ、いや、それは……」

「なんじゃ?」

グレイに言われれば、ホワイトは余計に反発するのではないかと言い淀んだジグを、グレイがじろりと睨む。

「あ、いえ、お願いします」

余計な諍いを起こしたくないジグは、諦めて素直に軽く頭を下げて話を切り上げるのであった。