軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

恋とか愛とか

「ケルンお兄様は私のことが好きなんですの」

「はい?」

廊下を歩きながらファンファが突然言い出した言葉が理解できず、クルムは普通に聞き返す。

「だから、ケルンお兄様は、私のことが好きなんですの。好みなんです、この顔と体が」

「……はぁ?」

「その割に素直にならないし、好かれようと努力しないし、頼りないので、私としては論外……、論外ですわ!」

一応半分血がつながっているわけだが、まあ横並びにしてもさっぱり兄妹とは思えないほどには似ていない二人だ。クルムにはよく分からない感覚だが、男女関係については、ファンファがそうだと言うのならば、きっとそうなのだろうと納得する。

「そうですか」

ファンファは近くに置いておけばペラペラとよく喋るし、表情も変わるので面白いのかもしれないなぁ、と、やはりずれた感想を抱きながらクルムは頷いた。

「そんなことより先生」

「そんなことより……?」

上手くあしらってやったことを誇っていたファンファは、あまりの反応の薄さに少しばかりダメージを受けた。しかし二人の冒険者が後ろから「さすがファンファ様です」「あれはしばらく立ち直れないでしょう」と応援してくれたことですぐに持ち直した。

立ち直りが早いのはファンファの良いところである。

そうしてグレイに話しかけるクルムの姿を改めて見て、そういえばこの子はまだ十三歳になったばかりだった、と思い直す。

そして、いい大人たちが十三歳のクルムの妨害をして、恥ずかしくないのかしらと内心で憤慨した。もちろん自分のことは棚に上げて。

ファンファがそんな具合に自己肯定感を上げる中、クルムはグレイとの話を続ける。

「スペルティア様が王宮で無事な理由は、治癒魔法に優れているから、とおっしゃっていましたね」

「そうじゃな」

「そもそもスペルティア様……、つまりエルフの国は数十年前まで旧アルムガルド領付近の森にあったのですよね?」

「うむ」

「なくなった理由は?」

「呪い谷の魔物の氾濫じゃな」

「若い頃の先生が、そこからスペルティア様を救出した?」

細かくは話していないが、これまでの経緯を聞いていればなんとなく当時あったことは見えてくる。クルムはスペルティアと改めて話をする前に、その辺りの情報整理をしておこうとしていた。

「正しくは、儂の友人であったナックスという王子が、手を貸せというから貸してやった。その際にバミともう一人が同行している」

「……もう一人とは?」

「言いたくない」

グレイがこう言ったらそれ以上は何も言わないだろう。

クルムは早々に諦めて話を進める。

「そうですか……。とにかく、それでスペルティア様とエルフの方々を救出し、王宮へ連れ帰った、と」

「そうじゃ」

「ということは、今のスペルティア様の環境を整えたのが、ナックス王子と先生方。見張りを立たせているのは、バミ大臣ということになるでしょうか」

「ま、そうなるのう」

なるほど、全容はなんとなくわかった。

そこでクルムは更に尋ねる。

「バミ大臣は随分と怪我が多かったですね。先生がいない間、ずっとスペルティア様を守っていたでしょうに、治してもらわなかったのでしょうか?」

「それがあやつの面倒くさいところじゃ」

「どういうことです?」

グレイはふーむと顎鬚を撫でながらしばし悩み、それからニヤッと笑った。

「ま、儂のことではないし話してやろう」

「先生のことではない?」

「そうじゃ。儂はナックスとバミとおまけ一人と一緒にスペルティアを迎えに行った。スペルティアは一般的に美人の類じゃろう? まあ、エルフじゃし」

「ええ、そうですね」

「誰がとは言わんが、儂以外の二人がスペルティアに惚れた」

「何の話ですの?」

好いた惚れたの話になったとたん、いつの間にか完全復帰したファンファが正に真ん中に首を突っ込む形で話に割って入ってきた。

「昔話じゃ」

「お爺様の恋のお話しかしら?」

「儂じゃない。儂が当時一緒にいた馬鹿共の話じゃ」

「気になりますわね」

聞いたクルムがそれほど興味がなさそうであるのに、ファンファが勝手に盛り上がり始める。グレイも他人事だから勝手にペラペラと話す。

「奴らは誓ったわけじゃ。エルフのために、いや、スペルティアのために、いつかエルフの森を取り戻すと。儂も一緒に約束させられた。……まぁ、主導者であったナックスが命を落として、それっきりじゃが」

「そうだったのですか……。もしかして、そのためにスペルティア様は資金集めを……?」

種族の未来を考えてのことだと思えば、あの守銭奴っぷりも理解できる。

「いや、あやつは物を集めるのが好きなだけじゃ。エルフの森から逃げる時も、よく分からん石を貯め込んでおって、それを持ってこうとしたから捨てさせた」

「あ、はい、そうですか」

「部屋の引き出しも半分は、滅多に使いもしない薬草コレクションじゃ。ただの変人の類じゃな」

グレイはそう言うが、実はスペルティアは崇高な目的を持っているのではないか。

クルムはそんなことを考えながら、バミが立たせている見張りの間を通り抜け、スペルティアのいる治癒室へと入る。

「金? ではなかった、けが人? 最近はグレイのお陰でけが人が多い。私様大歓迎」

ぬっとあらわれた、心なしか嬉しそうに見える無表情を見て、やっぱりただの変人かもしれないと、グレイの意見に同意したくなったクルムであった。