軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真面目なクルム

「随分と楽観的ですが、何か策はあるのですか?」

「ない」

クルムはテーブルに肘をついて頭を抱え込んだ。

王女様の仕草にしてはあまりお上品ではなかったが、頭を抱えざるを得ない状況であるということだ。悪いのはクルムではなくグレイである。

「怪しいのは……、ウェスカが捕まった時の件と……、昨日の日中の件でしょうか」

話を聞いたところによれば、モーリスと二人でいる時に、チンピラたちに襲われて返り討ち。ついでにチンピラたちは逃亡中に、例の薬を使った襲撃者とスカベラによって、その多くが殺されている。

全てをグレイのせいにされているとすれば、正当防衛とはいえ、多少の罰は受けてしまいそうだ。あまり行動が制限されるのはクルムとしても困りものである。

どうやって乗り切ったら良いものかと考えていたクルムは、なんだかグレイが随分と静かなことに気づきハッとする。

「…………先生、他に何か心当たりはありますか?」

「なんのじゃ?」

絶対にわかっていて問い返してくる時点で、心当たりがあると言っているようなものだ。

「もちろん、罪に問われそうなことに関してです」

「まぁ、ぼちぼちじゃな」

「全部教えてください」

「聞いたところでどうなるものでもあるまい」

「いざという時は、私も一緒に言い訳を考えますので」

もう無実は無理だろう、とクルムは諦め始めていた。

勝負はどうやってグレイの正当性を主張するかになってくる。

知っていると知らないでは、考える時間が段違いだ。

今のうちに全てを洗いざらい聞いておく必要がある。

「無駄じゃと思うけどのう」

「無駄かどうかは私が決めます!」

グレイはバミが知り合いだから無駄だと言っているが、クルムからすればどうせ暴力で解決するし、と言っているようにも聞こえる。

あのカミソリ大臣に暴力を振るうなんてとんでもないことだ。

それだけは何とかして止めなければならない。

「そうじゃなぁ……。ほれ、ビアットを迎えに行ったとき、襲い掛かってきた借金まみれの一般人をしばいたじゃろ? 最近の巡回でも似たようなことはしておるなぁ。あとはそうじゃな……、ビアットをいじめていた貴族を二人殺そうとしたが、タイミングよく騎士が来たので諦めたのう。他には……、うぅむ、なんかあったかのう」

知っていることと知らないことが続々と出てきて、クルムはついに両手で顔を覆ってしまった。

特に貴族のくだりは一切何も聞いていない。

どうして僅かに目を離しているだけで、それだけの問題を積み重ねられるのかと思ったクルムだが、よく考えてみれば、目のある時でも問題ばかり起こしていた。目があるとかないとかは関係ないのである。

「詳細を聞かせてください」

「聞いても仕方ないと思うがのう」

「いいから聞かせてください」

クルムが一人で焦っているのを見ながら、グレイは請われた内容を淡々と話していく。何か聞くたびに表情を変えるクルムが面白くて、わざとちょっと盛って話したりしてみるが、一生懸命真面目にグレイの罪を弁護しようと考えている本人は気づいていないようであった。

長い話を終えたところで、やや憔悴したクルムが肩を落としながら述べる。

「…………しかし、全てにおいて先生なりに正義はあります」

「当たり前じゃろ」

「それを押して、理解していただくしかないでしょう。幸いバミ大臣は曲がったことがお嫌いだと聞きます。普通ならば隠居されるようなご年齢なのですが、後継者育成に手間取ってるという話もありまして……」

その時クルムは、なんとなくバミの年齢を思い浮かべ、ピタリと言葉を止めた。

「……ちょっと待ってください。先生ってバミ大臣と年齢が近かったりしませんか?」

「お、そうじゃな」

「もしかしてですが……」

ニコニコと楽しそうに笑うグレイの顔は、答えを教えているようなものだった。

それでもクルムが核心に迫ろうとしたところで、部屋がノックされ、バミの元から迎えがやって来たことが知らされる。

「今行きます、とお伝えください」

クルムは手早く上着を羽織り、外に出かけられる格好になると、扉の前までつかつかと歩いていき、グレイの方を振り返る。

「先生、からかいましたね?」

「儂は最初から大丈夫じゃろと言っておったが?」

それなりに怒っているのだが、グレイはどこ吹く風でにやにやとしている。

あとで責められないように絶妙な言い回しをしていたことも分かり、余計に腹が立ってくるクルムである。

「別に残ってのんびりしておってもいいぞ」

「……一応ついていきますけど」

昔馴染みと言っても、グレイの性格を考えると何をするかわからない。

例えばスペルティアと再会した時など、なかなか危ない感じのやり取りをしていたことをクルムは覚えている。

特に今回の相手であるバミは、長年王国の大臣として働いてきた重鎮だ。

粗野なグレイと相性がいいとは思えなかった。

クルムがグレイを連れ立って区域の外へ出ると、若い美男美女が体の前で手を組んで待っていた。二人はクルムを見た瞬間に何か互いに目配せをしたようだが、すぐに頭を下げて挨拶の口上を述べる。

「バミ大臣より仰せつかりまして、グレイ殿をお迎えに上がりましたホープです」

「同じく、ご案内させていただきますクリネアと申します」

「クルムです。私の教育係であるグレイ先生に嫌疑ありとのことですので、同行させていただきたいのですが、よろしいですか?」

「どうぞお心の向くままに」

「ただし嫌疑を晴らす場にて、十分なおもてなしはできかねること、ご了承くださいませ」

場合によっては慇懃無礼ともとれるくらいに丁寧な対応だった。

クルムが「もちろんです」と答えると、ホープとクリネアは完璧な仕草で頭を下げ、声をそろえて「こちらへ」と言って二人を先導し始める。

それがなんだか不気味で、心配になったクルムは、本当に大丈夫なのだろうかとグレイを見上げてみる。

しかしグレイはそんな使者の態度を全く気にする様子もなく、ただいつもの通り長い顎鬚を撫でているばかりであった。