軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騎士団への協力要請

まっすぐにハップスに与えられている区域へとたどり着いたクルムは、入り口に立つ兵士二人を見上げる。クルムに与えられた区域を守っているような、左遷された兵士ではなく、ハップスに忠誠心を持っているであろう屈強な二人だ。

そんな二人が、まだまだ子供であるクルムにまっすぐ見上げられ、僅かに気圧される。後ろに立っている恐ろしくガタイの良い老人も、その理由の一端を担っていそうだが、それを差し置いてもクルムの視線は異様に鋭かった。

「クルムです。至急の用事があります。すぐにハップスお兄様に会わせてください」

「ご用件は……」

「至急です」

「ハップス様は今騎士団の訓練所の方におります。ご案内を……」

「ありがとうございます。自分で向かいます」

クルムは話が終わらぬうちに踵を返して歩きだす。

騎士団訓練所にいるというのならば、その方が都合がいい。

そのまま騎士団の方にも協力を仰ぐことができる。

ほぼ走るように廊下を早足で歩き、たどり着いた訓練所は、王宮の中でも端の方だ。広い敷地の一部で、暗い中に篝火を焚いて、ぽつりと数人だけが剣を振るっているのが見えた。

周りに誰も人がいないのを確認したクルムは、すぐさま駆け出してハップスの下へと向かう。そうしてあちらが認識し、振り返った瞬間に大きな声を出した。

「お兄様、緊急で相談したいことがあります!」

「……クルム、こんな夜更けに何事だ」

ハップスの横には副団長のジグと、数名の騎士もいる。

「バッハ侯爵が何者かの手にかかり命を落としました。他数名の貴族の方々も命を狙われています。今すぐ騎士団を動かして護衛に向かってください。敵は……」

「待て、その情報はどこで手にした。確かなものか?」

「問答している暇はないんです」

「俺だけの権限で動かすわけにはいかない。……ジグ副団長ならばまだしも」

クルムは冷静なようで、ハップスとの問答でイライラとするくらいには焦っていた。相手がハップスだからなのか、それとも、状況のせいなのかはもはやわからない。

それに対してハップスは冷静な返しをする。

いくら騎士団に支持をされていようとも、好き勝手に動かせるような権限はない。

ハップスにできることは、騎士団にお願いをすることくらいである。

それも、正当な理由でなければいくらクルムが相手でも手を貸すつもりはなかった。

「お兄様、約束です」

「何?」

「『私のみが危ういとき、一度だけハップスお兄様の力を使って助けていただく』。約束、守って下さい」

ハップスは盛大に顔をしかめた。

「そんな約束を使わずとも、きちんと説明すれば……」

「それどころではないと言っています。バッハ侯爵と、おそらくユゥバ子爵も命を落としています。貴族が悪漢に殺されているのです。相手は薬と何やら怪しい魔法によって、妙な不死性を持った異常な輩の集団です。騎士団の中でも報告が上がっているでしょう。今すぐ、動かしてください」

「クルム、そのやり方はあまり褒められたものではない。…………ジグ、話は聞いた通りだ。どうか俺を信じて動いてもらうわけにはいかないだろうか」

クルムの性急な要求を批難しつつも、ハップスは自分の責任において騎士団を動かしてもらえないか、頭を下げて頼み込む。

「やめてください、ハップス様。……クルム王女殿下。一つ確認させていただきたいことがあります。今日の日中……、グレイ殿はどこにおりましたか」

クルムは一瞬眉を動かしてから、小さく息を吐いて正直に答える。

「街に出ておりました」

「……後ほどその話、詳しく聞かせていただけるのであれば、協力いたします」

クルムが振り返ると、グレイが鼻を鳴らして肩をすくめる。

好きにしろという合図であった。

「約束します」

「結構です。狙われている貴族たちの名を教えてください」

クルムが次々とハチから聞いていた名前を伝えると、ジグはそれを復唱してくるりと振り返り、その場にいた数人の騎士へ指示を出す。

「私は団長に仔細を伝える。お前たちは今すぐ全員叩き起こして、街中の不審な輩の制圧に向かえ! 敵は聞いての通り、不死性の高い者たちだ。決して油断をするな。いいな、決して油断をするな!」

「はっ!」

そうして散っていった騎士たちに対して、その場にはハップスとクルムたちだけが残る。

「お前はどうする」

「今すぐ現場へ向かいます」

「危ない真似はよせ」

「放っておいてください」

「……どうしても行くというのならば俺も行く」

「迷惑です」

「邪魔はせん」

すでに出発をしようとしていたクルムは、振り返ってハップスを睨みつける。

「私は王位継承争いに参加しました。お兄様は敵です。今回は約束があるから助けを求めましたが、勘違いをしないでください」

「……駄目だ。同行できないのならば行かせない」

「……先生!」

なんとかしてくれ、とクルムが声を上げると、グレイは耳を小指でほじりながら深いため息を吐いた。

「クルムよ、時間がないのだから連れてきゃいいじゃろうが。いざとなれば肉盾になってくれると言うておるんじゃ。死んでくれりゃあ候補が一人減って御の字じゃろ」

「…………わかりました、行きます!」

グレイが協力してくれないと悟ったクルムは、そのまままた早足で歩き出す。

自分がまるで子供のように聞かないことを言っているのは分かっていながら、どうしても感情がうまく制御できずにいた。

グレイが自分に対して子供に言い聞かすように言っていたのが、何よりの証拠だ。

ハップスと話していると、どうしたって小さなころの、世話になった時間を思い浮かべてしまうのだ。一度甘えると、そのままずるずると敵だと思えなくなりそうで嫌なのだ。

以前グレイによく考えろと言われてから、自分のいま持っている感情を改めて分析し、理解し直したからこそ、クルムはなおさらハップスとは余計な関わりを持ちたくなかった。

今心中にあるのは、自己嫌悪と、情けなさに対するいら立ちである。

「すまない、感謝する」

「何がじゃ、知らん」

後ろではハップスがグレイに対して小声で礼を述べていたが、グレイは馬鹿らしいとでもいうようにまともに取り合いもしなかった。