軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

精神年齢

クルムはため息をついてお茶をまた一口こくりと飲む。

グレイの言う通りになるのは癪だが、薫り高いお茶は、確かに気持ちを少しばかり落ち着けてくれるような気がした。

上の兄と母がなくなってからは、飲食物を楽しむ余裕などなかったクルムだ。

まさに人心地付いたような気持ちで、グレイに向けてあふれ出してくるいくつかの感情を飲み込み、代わりに息をゆっくりと吐きだした。

「……ハップスお兄様が、他の勢力と情報を共有しなければいいのですが」

出る杭は打たれるものだ。

これまでは取るに足らないと思われていたからこそ看過されてきたことも、脅威となる力があると知られれば話は変わってくる。

金、人脈、世論、単純な暴力。

目的を果たすためには、単純な暴力だけでは足りないとクルムは考えている。

何せクルムは、母を見殺しにした父王のことだって恨んでいるのだから。

グレイの制御が効くのであれば、どこかの勢力下に潜り込みつつ、上をそそのかし、順番に恨みある相手を殺すという手も取れた。

だがこのジョーカーを手元に置いてしまった以上それは難しい。

グレイの性格からして、あまりにつまらない手を打とうものなら邪魔すらしてくるのではないかとクルムは想定している。

結局のところクルムは、この偏屈な老人とうまくやっていくしかないのである。

幸いなことに、攻撃しようが文句を言おうが楽しそうではあるので、その点は心配いらない。むしろ飾った言葉で話そうものなら、途端につまらなさそうな顔になるのが目に見えていた。

「あれがか?」

グレイは出会ってからのハップスの動きを思い出しながら首をかしげる。

何やら覚悟を抱いた愚直そうな男であった。

王族である割には体もそれなりに鍛えているように見えたし、なにより先ほどの決闘で卑怯な手は使わなかった。たとえば、周囲に伏兵を多数配置して一斉に襲い掛かる、などだ。

得体のしれぬグレイを連れてきた王女が、突然乱心して襲い掛かってきたので返り討ちにしました、なんて言い訳くらい簡単にできるシチュエーションだ。

なぜだかクルムはそれを想定していないことが不思議であったくらいだ。

憎んでいると言っているのに、心のどこかで信頼しているような、妙な油断のようなものを感じていた。

「何か異論でも?」

「なんとなく、あれは余計なことを他所に話さないような気がするんじゃがな」

「信頼していたお兄様を裏切って見殺しにした男です。何をするかわかりません」

本当に何でもするような男ならば、ここに至るまでにやれることなど山ほどあったのではないかとグレイは思う。

少なくとも、クルムはハップスという兄王子に対して、もう一人の王子と接した時とはまるで違う態度をとっていた。グレイはそれを、クルムの甘えのようにも見ていた。

もしあれを、他の恨みがある候補にもやっているのだとすれば、未熟も未熟だ。

今すぐここから担ぎ出して別の国に放ってやった方がいいだろう。

「本当にそう思っておるのか?」

「しつこいですね」

「ならばなぜ、儂が勝ったときの約束をあのようなものにした?」

『私の身が危ういとき、一度だけハップスお兄様の力を使って助けていただく』というのが、クルムが出した条件だ。

信じられぬというのならば、なおさらこんな口約束は役に立たない。

「……あの場には騎士団の副団長がいました。厳格で騎士団内でも支持を集める方です。もしお兄様が約束を違えるようなことがあれば、お兄様の背景にある騎士団からの信頼が揺らぐことになるでしょう。私一人を殺すために、そんな愚を冒すとは思えません」

「なるほどのう……」

明らかに納得していないグレイの空返事であったが、クルムにはこれ以上語る理由なんてない。なぜだか心がざわついてしょうがなくなったクルムは、無理やりに話題を変えることにした。

「そんなことよりも、私はあなたが支援型の魔法使いだとばかり思っていました。昨日ナイフをあしらった時点でそれが嘘であることはわかっていましたが……、それにしても強すぎませんか?」

「じゃから最初から強いと言ったろうに。お主が信じなかっただけじゃろう」

「そういう時には具体的な例を示すものなんです」

「何で儂がお主に強いと信じてもらう努力をせねばならんのじゃ」

その言葉を聞いて、クルムはしめたと思い、すました顔でお茶を一口飲んでから言い返す。

「先ほど、私に強さを信じさせるためにスカベラをひどい目に遭わせたと言っていましたよ。矛盾していませんか?」

ただ言葉が丁寧なだけで、揚げ足取りの子供のようであった。

得意げな顔を隠すためのすまし顔も含め、年相応といえば相応である。

「未知数ならばかっこいいが、弱いと断定されるのは腹が立つじゃろうが」

「…………子供みたいなことを言いますね」

わけのわからない理論で堂々と言い返されたクルムは、自分のことを棚に上げてじっとりとした目でグレイを見つめる。

「ま、男のロマンは小娘にはわからんじゃろうな」

「こ、小娘……」

仮にも王族として生まれたクルム。

他の後継者候補やその従者たちに、さりげなく馬鹿にはされたことはあれど、面と向かって小娘とまで言われたのは生まれて初めてである。

しかも内容が内容である。

いい年こいて男のロマンとか言い出した年寄りに、クルムは開いた口がふさがらなかった。