軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファンファのお喋り

クルムの部屋へ戻ってきたグレイが最初に目にしたものは、楽しそうにペラペラと喋り続けるファンファと、首を僅かに傾けたまま死んだ魚のような目で仕事を続けるクルムの姿だった。

左側からぴったりと体を寄せられて話しかけられているが、クルムの方は定期的に返事をするばかりで、右手と視線は常に手元の片付けるべき書簡に向いている。

ファンファはそれでもかまわないのか、時折身振り手振りを交えて話をするのだが、その度クルムはさっとペンを持ち上げる。大したものである。

「あらお爺様もおかえりなさい。相変わらずお元気そうね」

「お主も変わらんのう」

「あら、ありがとう」

「何がじゃ」

「変わらず可愛いってことでしょう?」

自己肯定感が強すぎる。

二人の冒険者が穏やかに見守っているので、おそらくこういうところもファンファのいい部分なのだろうけれど、グレイには今一つぴんと来なかった。

馬鹿らしくなってそれ以上突っ込むことはせず、クルムの部屋の茶葉を取り出して淹れ始める

「先生、私の分もお願いできませんか」

「よかろう」

クルムは随分と疲れた顔をしていた。

しばらくの旅で体力はついたはずだが、好き勝手話してくるファンファの相手は久しぶりなので随分とくらっているようである。勝手に引き出しを漁って、甘いお菓子もいくつか取り出してテーブルに並べてやる。

「茶が入ったぞ」

「ありがとうございます」

グレイが声をかけると、クルムはペンを置いて立ち上がり、グレイの横に座った。

四人掛けの小さなテーブルなので、これで横からファンファの声を聞かないで済むという寸法である。

ファンファも同じくやってきてクルムの正面に座ったが、自分の前にお茶がないことに気が付いて、じろりとグレイを見つめる。文句の一つでも言ってやろうと思ったようだが、少し考えて言葉を飲み込んだ。

グレイには言っても無駄だとしばらくの付き合いで察したようだ。

残っていたお茶を勝手にカップに注いで戻ってきて腰を下ろす。

「外では何もありませんでしたか?」

「襲われたりはせんかったのう」

「襲われる以外には何かあったということですか?」

「うむ、知り合い何人かと話してきた。ま、街を歩けばそんなこともある」

グレイは必要以上にクルムに味方を紹介するつもりはない。

それはクルムの成長を願うからこそだが、そうでなくとも、自分の知り合いを他人に紹介するというのは、なんとなく気が進まないものだ。

「そうですか……、問題がないなら構いませんが」

紹介できる者などいないと言っておきながら、次々と重要人物の知り合いであることが判明したグレイである。クルムは端から疑ってかかっているが、しつこく聞いても答えが出てこないこともわかっている。

「さて、ではお姉様もいることですし、今後の方針の話をさせてもらおうかと。お姉様が私が留守にしている間に、自分の地位を上げようと努力されていたことは、先ほど色々と聞かせていただきました」

「違うの、ほら、クルムが狙われないように私が目立ってあげようかなぁって思っただけなのよ?」

言い訳をするファンファを黙らせるために、クルムはため息に少しばかりに皮肉を交えて擁護する。

「ケルンお兄様とのおしゃべりで啖呵を切って下さったのでしたか?」

「そうなの。『私の可愛い妹のクルムに、あまり失礼なことを言わないでもらえるかしら』って言っておいたわ。ケルンお兄様ったら、その場にいないクルムに対して失礼なことを言うものだから許せなくて!」

聞いた話によればケルンは、『卑しい血が流れている者同士手を組んだか。大人しくしていればいいものを』と、クルムに対して言っている。明らかに自分もその対象であるはずなのに、さらりとかわしてクルムだけへの悪口のように脳内変換したらしい。

素晴らしく勝手なことだが、もはや責める気にも問いただす気にもならないのは、ファンファという王女の特性だろう。

「まぁ、それはいいとして……、帰り道に暗殺者が差し向けられました。撃退しましたが、私はケルンお兄様の陣営から仕掛けられたものではないかと考えています」

「……街の外で殺せれば証拠は残らないものね」

その辺りの駆け引きについては分かるらしく、ファンファは深刻な表情で答えた。

ファンファからすれば半分くらいは本当に、クルムに目がいかないように強気な態度をとったつもりだったのだが、上手くいかなかったことに少しばかり肩を落とす。

「先生が撃退してくださったのであまりおきになさらず。ただ、今後も何かあるたびに仕掛けられる可能性はあります。ずっと受け身というわけにもいかないでしょうね」

「ケルンお兄様自体は、暗殺なんて手段は嫌うはずです。正直、あまり賢くないですし……、周りにいる貴族が手を回したのでしょうね」

これで案外周りをよく見ているのがファンファという王女である。

伊達に長いこと最終的にどこの陣営に着くか、様子を窺っていたわけではない。

「バッハ侯爵家、でしょうか?」

「そうかもしれないわ。うぅん、王都に屋敷を持っているはずだから、見張ってもらうのも一つの手ですけど……、暗殺者を使っている以上、見張るのにも危険が伴いますわ」

ファンファは唇に指をあてて真面目な顔で考える。

冒険者を多数抱き込んでいるファンファなら、街に溶け込んだ者たちを使って、さりげなく探るくらいはできるのだが、もしばれた場合には手ごまの命はない。

あまりにリスクが高すぎる。

王女は二人して頭を悩ませるが、グレイの方は、まどろっこしい話だと思いながら、アイディアを提供するでもなく黙って茶をすすっているのであった。