軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

古巣の確認

「ふむ。お主ら、随分とクルムのことを気にしておるのう」

わざわざジグの方から懐に飛び込んできたことから、グレイは前々から抱いていた違和感をぶつけてみる。

噂に聞いた話では、この男、スカベラと変わらぬ程度の実力しか持っていないとのことだったが、こうして近くで向き合ってみるととてもそうは思えない。筋肉のつき方や、こうして話している間にも油断することのない体の重心の置き方などを見るに、間違いなく数段上の実力者だ。

訓練では何らかの理由で実力を抑えているのかもしれない。

「そんなつもりはありませんでしたが」

「ではお主ではなく、ハップスの方が、じゃな」

しれっと答えた副団長に対して、グレイの方もしれっと王子の名を呼び捨てにする。十分にあり得ることだと知っていたジグだが、流石に表情をひきつらせた。

人通りの多い場所にもかかわらず、一切躊躇せずにずかずかと踏み込んでくる様は、グレイの戦いのスタイルとも酷似しており、その人間性をはっきりと示しているようであった。

やはりクルム陣営を気にしているのは、騎士団ではなく、ハップス個人だ。

グレイの見立てによれば、あのハップスという王子は、割と真っすぐな男だ。

それなりに筋が通っており、敵に回ったとしても気持ちよく殺してやれるタイプである。クルムがそれに気づかない限りは、いつかそれは現実になりかねない。

ただグレイには、それをどうにかしてやるような恩も義理もない。

幾度かクルムに忠告はしてやったが、過去に囚われている部分があるのか、未だに目が曇っているようである。

「ところで、街でスカベラとやらを見かけたが、まだ捕まえられんのか? 情けないのう」

「……どこかで見かけましたか?」

ジグが怯んでいる隙に挑発。

すぐに調子を取り戻して尋ねてきたジグに対して、グレイはさらに続けた。

「うむ、二度ほどな。裏町に溶け込んでいるようじゃが……、まぁ、三下の騎士では返り討ちか。情けない部下を持つと苦労するものじゃのう」

同情するような表情付き。

並みの精神の持ち主であれば激高していてもおかしくない場面だが、一度精神の均衡を取り戻したジグは、眉をピクリと動かしただけで耐え抜いた。

「ご心配をかけて申し訳ない。この通りだ、ご容赦願いたい」

往来で謝罪までさせたグレイは、はたして、つまらなそうな顔をしていた。

これだけ挑発して何もないとなると、ジグに迂闊な行動をさせることは難しいだろう。

「……そうじゃ、少し前お主の部下が〈要塞軍〉の大隊長に絡んでおったぞ」

「ハップス様から聞き及んでいます」

「なるほど、では教育はしっかりするんじゃな。世の中ただで済むことばかりじゃないからのう」

知っているということは、おそらくクルムが〈要塞軍〉の下へ出かけていたことも推測できているはずだ。グレイに聞いてきたのは確認のためであろう。

グレイが無茶苦茶な行動ばかりするものだから、乱暴なだけで知恵の回らないものと侮っていたのかもしれないが、どうやらそれは藪蛇であった。このグレイという男、意外と学生時代の成績はよかった。

そして敵対するものに対しては、頭を使うよりも殴った方が圧倒的に話が早い場合が多いので、解決手段として暴力を用いているだけなのだ。

「肝に銘じます」

しかしこれでジグは、グレイが暴力だけの老人ではないことを思い知った。

次は迂闊な接触はしてこないだろう。

グレイはふらりと王宮から街へ出て行く。

話の区切りだったので、特に何も考えずの行動であったが、まぁ、時には気の向くままに街へ出るのも悪くない。

グレイは一応クルムからの忠告を気にしつつも、プラプラと街の散策を続ける。

大通りを歩いている限り、あとをつけられているような雰囲気もなければ、いつも以上に注目されているような雰囲気もそれほどない。

時折視線が気になって振り返ってみれば、それはクルムを応援している店の主人であったりして、特に攻撃的な意図は感じなかった。

あまりに何も起こらなかったので、そのまま大通りを抜け、グレイが引っ越しを頼んでいた商人が使っていた店の前を通り過ぎ、だんだんと治安が悪くなっていくのを気にも留めずに街の端の方へと向かっていく。

ちょいとばかり時間が空いたことで、二十数年間暮らした家が今どうなっているか気になって、そちらへ向かっているのだ。

家へ近づくと治安はますます悪くなっていき、喧嘩の声や、女の嬌声なんかが聞こえてくることすらある。一時期よりまた治安が悪化しているが、まぁ、自分が住んでいない以上、あまり気にすることもなかった。

そもそもこの辺りが昔よりもますます治安が悪くなっているのは、大本をたどればグレイにもその責任がある。

掃きだめの中でもまともそうな人物や、将来有望そうな子供を教えては中央へ送り出しているうちに、段々とこの辺りを仕切って安定させるような人物がいなくなってしまったのである。

そんなたかが二十年でと思うかもしれないが、これに加えて本当にやばそうなろくでなしのまとめ役は、秘密裏に早い段階でグレイに屠られている。ただの爺だと侮って喧嘩を売って返り討ちにあったのだから、それも仕方がないことであった。

極めつけはパクスのスカウトである。

パクスは、いわゆる治安の悪いこの辺りの地域を中心に、青田買いをして部下を育て、自分の店を任せている。こんな場所から拾ってもらった恩に加えて、子供の頃のつらい経験から、彼らは自分の力で逆境を乗り越えるだけの根性がある。

これはパクスの店が爆発的な成長を成し遂げている一つの要因であった。

まぁ、とにかく、色々な要因が重なって、この辺りにはどんどん本当の落伍者ばかりが集まるようになってきてしまっているのである。

道中で三人ほど顔面を凹ませて、地面とお友達にさせたあたりで、グレイは長年の住処の付近にたどり着く。

さて、どうなっているかと路地から一歩出ると、何やら役人めいた男女がグレイの古巣のドアを叩いていた。

「せんせーい、死んじゃったんですか? いや、ホントに死んだのかなー、もしかして。おーい、せんせーい」

「縁起でもないことを言わないでよ。せんせ! 死んでたら返事してください! ……多分臭いがしないから生きてると思うんだけどな」

両方碌なものじゃなかった。

そしてこの男女、どちらもお察しの通りグレイの教え子である。