軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

老い先短い

挟みこみつつ進路をふさぐようにして襲ってきた炎の塊を、スカベラは僅かに減速することで回避する。目前でぶつかり合った炎は、互いの身を焦がすかのように炎の柱を発生させて消滅。

ぶつかって消えるかと思いきや、更に威力をあげた魔法に、スカベラの前髪が焦げ、あたりに嫌な臭いを漂わせる。

スカベラはそれでも足を止めなかった。

膝の力を抜くことで炎の柱を左に躱し、体勢を傾かせたまま無理やり足を前に出し、失われた速度を取り戻そうとした。

そして慌ててさらに膝の力を抜き地面に転がる。

直後、頭頂部の髪の毛を焦がしながら炎が通り抜ける。

直撃すれば命はなかっただろう。

「糞爺! 舐めやがって」

明らかに殺す気で放たれた魔法だった。

だというのに、顔を見れば先ほどと同じ、一見穏やかに見える涼しげな笑みを浮かべている。これだけ殺意の高い攻撃がなされたというのに、副団長が戦闘を止めようとしないのも、スカベラには不思議だった。

ルールに抵触するようなことがあれば、普段の堅物副団長なら必ず間に入ってくるはずだ。

そんなに俺のことが許せねぇのか、とスカベラはぎりりと奥歯を噛む。

将来有望で若手最強のスカベラは、噂通り街に出てその剣の切れ味を試し続けてきた。初めのうちは犯罪者どもを相手にしていたが、段々と治安が良くなってくると、強そうな奴を適当に犯罪者に仕立て上げて試し切りするようになった。

自分が強くなれば、結果的に国のためになる。

まぁ、まわりまわって善行のようなものであるとスカベラは考えている。

しかしつい先日、年寄りを一人斬り殺してしまったのが失敗だった。

爺でよぼよぼの癖に、スカベラの善行に因縁をつけてきたのが悪いのだ。

むかついたので、散々なぶった後に殺してやった。

一応コソ泥をしていた犯罪者だと申告したのだが、それがまた良くなかった。

まさか騎士のお偉いどころに身内がいるとは思ってなかったのだ。

検死をされたせいで散々なぶって殺したこともばれてしまった。

スカベラだって反省をしているのだ。

次はちゃんと相手を見極めてぶち殺そうと。

どこまでも身勝手な男である。

しかしそんな理不尽な怒りは、そのままスカベラの闘争心にさらに薪をくべた。

止めないのならば、それはそれで好都合だと考え直す。

先に仕掛けたのはあの爺なのだから、殺したって文句は出まいという話だ。

先日死んでもなお自分の足を引っ張った老人と目の前のグレイを重ねながら、スカベラは心の中で『老い先短い爺の癖に』と口汚くののしった。

転がってからもすぐに立ち上がったスカベラは、自らの足に身体強化の魔法をかけた。魔法の的にならぬようにジグザグに走りながら、無理やり加速減速を繰り返す。

その間にもスカベラの殺意の籠った目線は、常にグレイの方へ向けられていた。

「ほほっ」

誰にも聞かれないほどの小さな声でグレイが笑う。

しかしスカベラにはその口の動きが良く見えていた。

『舐めやがって、魔法使い風情が』と怒りはさらにボルテージはさらに上がっていく。

無限に逃げることのできる広大な場所であればともかく、こんな閉鎖された空間で、魔法使いが剣士に勝とうというのが間違いなのだ。舐めているとしか思えない。

スカベラは魔法をよけ続けながら徐々に距離を詰めていく。

そんなスカベラに対してグレイのやったことといえば、魔法を放ち続けるだけ。

少しずつ着弾点がずらされ、着々と距離が詰められていく。

いよいよ距離もつまり、スカベラの剣が振り上げられた。

「死ね!!」

渾身の力を込めて振り下ろされた剣。

長身のグレイを脳天から真っ二つにする威力がこもったそれを見て、副団長は「やめろ!」と叫んだが、そんなことでスカベラが止まるはずがなかった。

見守っている四人が息をのんだ。

スカベラが必殺を確信した。

そしてグレイが笑った。

「ほっ」

グレイの体が僅かに沈んだ。

左腕がうなり、腰の入った掌底による一撃が放たれる。

その手のひらには鈍い橙の光が宿っていた。

高速で振り下ろされる剣の腹を捉えた掌底は、小さな爆発音とともに剣を破壊。

まだ剣がはじけ飛んでいる間に、右足の踏み込みと同時にグレイの右手が繰り出される。

その右手は驚愕の表情を浮かべるスカベラの顔を、覆うようにして完全につかんだ。

顔面全体に衝撃を受けたスカベラの目に星が飛ぶ。

鼻の頭から顔全体に響くような衝撃が走り、それに呻く間もなく、吊り上げられる形で体が持ち上がった。

グレイはそこで一瞬ぴたりと止まり、『止め』の言葉をかけずに唖然としている副団長に向けて、にっこりと邪悪に微笑んだ。

意識を置き去りにするような勢いで振り下ろされる右手。

グレイの体が大きく沈み、スカベラの体が後頭部から始まり全身くまなく地面にたたきつけられる。

ならされた地面が僅かにへこみ、スカベラの意識は完全に喪失していた。

本来ならばここでさらに、左手で剣に向けてはなったような魔法を発動させるところなのだが、そこまでやると流石に百パーセント死亡する。

一応殺さないという約束の勝負であった。

グレイは右手を離すと、血と体液で汚れたそれをスカベラの服で丁寧にふき取った。

立ち上がったグレイは、一瞬その手で鬚をなでようとしてから、じっと手のひらを見つめ、やっぱり左手で顎鬚をなでながら言った。

「一応生きておるはずじゃから、儂の勝ちで良いな?」

突然現れた得体のしれない化け物に、副団長は剣に手をかけながらごくりと唾を飲むことしかできなかった。