軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リゾルデの本気

リゾルデは話し合いの場をきちんと整えてクルムたちを待っていた。

昨日訓練を見学していた場所にテーブルセットを用意し、訓練の見学をしながら話を進められるようになっている。

〈要塞軍〉がクルムの後ろについていることは公的に発表しないが、ここまで使いを寄こして調べている者には、もうそれとなく知られても良いというスタンスだ。どうせ何度か話をしていればばれることである。

そもそも訓練場など敷地内に不審人物は入れ込めないので、ここで話し合ってもそれを目撃できるような凄腕が相手ならば、隠れて屋内で話しても無駄である。

もちろん尋ねられれば、教育係であるグレイの縁で、クルムもお邪魔していただけ、という話になるのだけれど。だからこそ、公的な会談であればもっと丁寧に扱うところを、訓練場の脇で雑談程度、のように見えるよう工作している側面もあった。

リゾルデはアンに対して驚くほど丁寧であった。

「〈要塞軍〉参謀、リゾルデと申します。この度は招待に応じていただいたこと感謝申し上げます」

クルムからの提案であったはずなのに、まるで待ちに待っていたかのように、リゾルデは丁寧に言葉を紡いでいく。軍服をぴったりと着込んで真剣な面持ちだ。

アンは驚いた。

随分とあせた記憶であるが、アルムガルド家が無くなった後にやってきた貴族共は、従うのが当たり前のような顔で初対面から偉そうに命令してきたものだったのだ。

クルムのお願いだから、多少は偉そうでも話くらいは聞いてやるつもりだったが、まさかこれ程丁寧に来るとは思ってもみなかった。

「王女様から話を聞かされたからねぇ。〈要塞軍〉があたしらの力を必要としているってのは本当かい?」

「はい、本当です。〈要塞軍〉は五十年、この土地を魔物から守ってきました。この〈リガルド〉は、たくさんの命の上に成り立っている街です。本来ならば早い段階で狩人の皆さんへの協力を仰ぎたかったのですが、なにぶん来たばかりの時は引継ぎもなく、魔物の情報も不足しており、旧アルムガルド家の街へたどり着くことも叶いませんでした。街を発展させればやってきてくださるかもと思っておりましたが、そのようなこともなく、こちらから出向いたときには魔物の巣窟となっておりました」

「……少なくとも、あんたらより前に来た貴族は、ちゃんと街までやって来たみたいだったけどね」

そして街に残る狩人たちに命令をして、無理やり案内役に仕立て上げた。

二人目までは言うことを聞いた狩人たちであったが、三人目からは身を潜めて相手にもしなくなったのだが。

「我々は王都の鼻つまみ者でした。協力をしてくれる貴族などいなかったのです。地図も、魔物の情報も、街も、人集めも、全て寄せ集めの〈要塞軍〉主導で行いました。我がことながら目が回るように忙しい五十年であったと感じます」

「そりゃあ、ご苦労なことだったろうね」

アンからすれば故郷を離れ、慣れぬ冒険者暮らしも中々大変であったが、旧アルムガルド領が甘いだけの土地ではないこともよく知っている。

皮肉ではなく本心から出たねぎらいの言葉でもあった。

「お恥ずかしい話、呪い谷や竜食山付近の魔物の情報に関しては、未だ圧倒的に不足しております。できることならば狩人の皆さんの知恵と力をお貸し願いたく」

「なるほどねぇ……。ちなみにそれに協力すると、私たちにはどんな利益があるんだい?」

「〈要塞軍〉の特別部隊として給与をお支払いいたします。そしてもしお望みならば、旧アルムガルド家の街を復興するお手伝いをさせていただきます。もちろん〈要塞軍〉の拠点の一つという形になりますが、道を整備し、壁を作り直し、家を建て直せば、移住する者もいるでしょう」

「……そりゃあ嬉しいが、何年もかけてやることだろう。老人たちが死ねば、そんな話はなかったとなるんじゃないかい?」

「いえ、これに関しては採算が取れると踏んでいます。森の中腹に街ができれば、こちらにやってくる魔物も減るでしょう。ある意味囮としての街のような役割になりますが、見捨てることは決してしません。そしてより安全になった〈リガルド〉の街を、他の地域との貿易の中継地とすることで、より商業を発展させていきます。ご心配だというのであれば、今すぐに予算を準備し、計画表をお見せします。それから決めていただいても構いません。いかがですか」

熱のこもった言葉に、アンは気圧される。

ずっと冒険者として活動してきたとはいえ、政治的なやり取りはしてこなかった。

聞けば聞くほど現実に故郷の復興が見えてくるようだが、とはいえ、簡単に騙されるものかという気持ちもあって更に尋ねる。

「ここを守るのに精いっぱいなんじゃないのかね? 戦力を割けるのかい?」

「ここだけの話……、今は冒険者のギルドに協力を仰いでおり、近く前線にもう一つ街を作りたいと話をしておりました。〈リガルド〉の街も大きくなり、商機を探している商人や、独立したがっている加工職人の弟子も十分に育っています。狩人の皆さんの協力があれば、十分に街を維持することは可能。狩人と冒険者と商人の街を作り、魔物の素材を集める拠点。長年冒険者をされていたというアンさんであれば、狩人に加えて、冒険者の知り合いを呼び込むことも可能なのではないかと。いかがでしょうか」

「そりゃあ、まぁ、伝手はなくはないけどねぇ……」

「では、是非」

つい先日のクルムとの話し合いでは、グレイを恐れるあまり受け身となっていたリゾルデであったが、基本的にはこの〈リガルド〉の街をその頭脳で背負い、ここまで大きくしてきた傑物だ。

しっかりと準備をして攻勢に出ることができれば、これだけの熱量で人を口説き落とすこともできる。

クルムはこれも勉強と、口を挟まずに真面目な顔をして話を聞く。

実はこの気持ちの入った交渉は、多少クルムに感化されてのものであったが、どうやら本人はあまり自覚がないようであった。