軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

〈要塞軍〉の組織

「次期国王を決めるのに、王の子供たちが名乗りを上げて功を競い、支持者を増やす争いじゃ。仮にも一軍の長をしておるんじゃから、お主のところにも話が来たじゃろうに」

「……なるほど、それで一時期知らん王子王女から挨拶に来いとか言われていたのか。今でこそ〈リガルド〉は安定しているけどな、当時はまだまだ忙しかった。いつ何時魔物が襲ってくるかわからんのに、挨拶になんか行けるものか」

「そうなんじゃろうな」

「しかも話が通じん。忙しいと言っているのに、来ないとどうだとかなんだとか、俺がここを離れたら折角これだけ増えた人が死ぬかもしれんのだ。この街をでかくするためには随分と時間と労力をかけたんだぞ」

「まさかお前にそんな才があったとはな、驚きだ」

出来てから数十年。

立地も悪くなく、唯一の懸念点はラウンドを中心とした〈要塞軍〉がなんとかしてくれるとはいえ、街の栄え具合は大したものだ。

パクスから聞いた話によれば、税が軽く、街で暮らす人々にとっての優遇措置も様々あるらしい。出会い頭に、鬼瓦のような顔をして、人のフルネームを叫びながら殴ってくる奴が作り出した街とは到底思えない。

「ぶあっはっは、俺が作れるわけないだろ。俺はずっと魔物を殺してただけだ。北へ行けと言われれば北へ、東へ行けと言われれば東へな。あとはリゾルデとその部下共が勝手に発展させたんだ」

「誰じゃそいつ」

「うちの参謀。実質的にこの街を回してるのは俺じゃなくてそいつだ」

「ほう、どこでそんな優秀なのを拾った」

「〈要塞軍〉発足の時に、投獄されてて気合いの入ってそうなのを全員ボコボコにして連れてきた。殴り合って分かることもある、と言ったのはお前だろう」

「馬鹿じゃなぁ、お前」

グレイが適当に言ったことを覚えていてしっかり実行したらしい。

確かにグレイとラウンドは日常的に殴り合い、それでも仲が悪くなかったので間違ってはいないのだが、それにしたってよくもまぁこれだけ上手くいったものだ。

「馬鹿で結構。立候補したはいいものの誰も付いてくる者がおらん。軍というからには人手が欲しいと訴えたら、『牢獄にいるのでも連れて行け、お前にはお似合いだ』と言われてな、それじゃあと連れて出たわけだ。途中で『やめろ』とかなんとか言ってたが、そいつも殴って黙らせておいた」

「ふはは、愉快な人生歩んどるのう」

「まあな。お前はどうだ、楽しんでるか」

グレイに導かれたと言っても過言ではないラウンドは、ぎょろりとした目を輝かせて問いかける。グレイがつまらない人生を歩んだなどとは、つゆほども疑っていない表情であった。

「どうじゃろうな。……まぁ、今は程々に楽しんでおる」

「そりゃあいい。俺はずっと、お前が何してんだかだけが気がかりだった」

「こんな立派になって馬鹿なこと言っておるのう。儂がなんだというのだ」

「俺のたった一人の喧嘩友達だ、気にするに決まっている」

グレイの脳裏に学生時代の馬鹿な殴り合いの日々が呼び起こされる。

筋肉ダルマになって戻ってきたときには驚いた。

しかし何度叩きのめしても次の日には復活して勝負を挑んでくるラウンドが、途中から面白くなってしまっていたのも事実だ。

いつしか互いの思いを語る日もあった。

ラウンドはグレイが何をやっているか尋ねることもなかったし、声をかければ文句を言わず手を貸してくれる男だった。

言われてみれば、ラウンドは確かに友達だったのだろう。

「さぁて、仕事に戻るか」

グレイが考えている間にラウンドは立ち上がり、のっしのっしと歩き出す。

そのまま見送りそうになったところで、グレイは急に自分が何をしに来たか思い出してラウンドを呼び止めた。

「おい、待たんか」

「なんだよ」

「結局訓練はつけるのか?」

「おう、そうだったな、その話は参謀のリゾルデとするからついてこい」

「……お前が決めるんじゃないのか?」

「俺は相手がお前か確認したかっただけだが?」

つまり今日の呼び出しはリゾルデには通っておらず、ラウンドの独断専行であったというわけだ。いや、ラウンドこそ軍の長なのであるから、独断専行という言葉は似つかわしくないのだが、話をまとめるとそうとしか言えない。

「クルムを連れてきた話についてはどうなんじゃ」

「これから話す」

「儂については?」

「まず先に俺が会うつもりだったから話してない」

「……じゃあ何も話が進んでおらんってことじゃな?」

「だからそう言ってるだろ」

グレイは思わず振りかぶった手を、ラウンドの後頭部にたたきつける。

バチンと音がして、ラウンドの後頭部に特大のもみじマークができる。

あまりに大きな音だったせいで、背中を向けて外を監視していた兵士も思わず体を跳ねさせたが、振り返るなと指示をされているのか、緊張した様子でその場に立ち尽くしている。

「何すんだ!?」

「いや、腹が立った。お前が相手だとはじめからわかっていたら、儂ももうちょっと何も考えずにここに来たものを……。深読みせずクルムの奴も連れてくればよかった」

「わけのわからねぇこと言ってんじゃねぇよ。ったく、久しぶりの再会だと思って飯の準備までしてやってるってのによ」

「それも聞いとらんわ、まったく」

二人の背の高い老人が、肩を並べて歩く。

実に半世紀ぶりの友人の再会は、暴力を伴いはしたものの、彼らにしてみれば昔と変わらぬ和やかなものとなったようであった。