軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーヒーブレイクはダンジョンブレイクの香り

「飲みますか?」

「……貰おう」

若造が片手に持ったコーヒーを顔の位置まであげて聞くと、筋肉スーツはゆっくりと頷く。

その答えを聞いた若造は、無表情で追加のコーヒーを淹れはじめる。

「……」

「……」

お互い言葉もなく、カチャ……とカップの擦れる音だけが粗末な事務所内に流れる。

私はその光景を机の下で息を潜めながら、冷や汗ダラダラで見ていた……。

ふぅ〜〜〜…………

総ダン長だぁあああ!!!!

ちょ、ちょっと待て!! さすがにエンカウント早すぎる!

私の予定では設置した監視カメラを使って、少し離れた場所から観察するつもりだったのに!

こんな赤外線通信が届きそうな距離で相まみえるなんて聞いてないんですけど!

ヒィイイ!!

スキマ作って隠れるか? いやダメだ! 作る時の光でバレちまう!

いま総ダン長は、事務所の台所のような場所でコーヒーを淹れる若造を無言で立って見ている。

少し腰を屈めながら……。いやデケェんだよこの筋肉スーツ! 屈めなきゃ天井に頭擦っちまうんだね! 大きいねキミ、なんかスポーツやってる?

若造の一.五倍位の身長あんじゃねぇのか。

若造兄ちゃんだって、ヒョロく見えるけど身長は高めで脱いだら凄そうなタイプだぞ。

「どうぞ。砂糖が必要ならご自分で」

やがて若造はテーブルにコーヒーをおくと、椅子に座って飲みはじめた。

んでオメェは何でそんなに余裕やねん……。

総ダン長様にぶっきらぼうな態度取るんじゃねぇよ! 怒りに触れて事務所爆散させられたらどう責任取ってくれんだ! 子供がいるんですよ!

「……うむ」

だけど総ダン長は、わずかに頷くだけで若造の態度に気を悪くする気配はない。

そして表情の変わらない岩のような無骨な顔が、チラリとコーヒーの前に置かれた椅子をジッと見つめた。

「座らないんです?」

若造は優雅に椅子に座りながら、片目を開けて聞く。

「…………粗末な椅子だな」

それに対して若造は、片眉をあげて対面の椅子を眺めた後、納得したようにため息を吐いた。

「分かりづらい言い方ですね。言葉が足りないんですよ」

そう言って若造は、部屋の端に置いてあったソファーを三つ持ってくると、並び替えて一つの大きな椅子へと変形させた。

「……助かる」

筋肉スーツの総ダン長は、その並び替えられた椅子にソッと腰を下ろした……。

ミチィ……と合体ソファーが苦しそうな音を立てる。

「……」

「……」

お互い無言だ……。そんな光景を私は机の下から覗いている。位置的に総ダン長の斜め後ろからデカすぎる背中を眺める形だ。

向かいに座る若造は、目を瞑りながら優雅に無言でコーヒーを飲む。

やがて総ダン長は、テーブルに置いてあった砂糖の瓶を指二本で開けると、器用に摘んでコーヒーに投入しはじめた。

ポチャンポチャン……

「……どうだ?」

視線をコーヒーに落としたまま、総ダン長は表情の変わらないゴーレムのような無骨な顔で口を開く。

ポチャンポチャン……

「砂糖入れすぎですよ。まぁ楽しくやってます」

「……そうか」

やがてコーヒーの取ってに指が入らないことに気づいた総ダン長が、カップをオチョコのように掴んで啜る。

「「……」」

そしてまた無言の時間……。

どーしたのコイツら。なんで思春期の親子みたいな雰囲気出してんの?

「……それで、どうして空港なんか作らせたんですか? 何を考えているんです総ダン長……」

「……今は業務外だ」

「……はぁ……地上の購入に建設のエネルギー、そちらが持ってくれたそうですね。……父さん」

親子だったわ……。

なんだよ若造……お前坊ちゃんだったんかい! コネ入社ッスね。

……まぁ正直な話……たぶんコネじゃねぇな。

幹部つっても周りの反応的に知らねぇんじゃね? それか総ダン長の息子って肩書きに惑わされない、キツネ顔の器のデカさとかね。

「……」

「まぁいいでしょう」

「……中央に来ないか?」

「だから言葉が分かりづらいんですよ……行きません。あと緊張するんで抑えて下さい」

総ダン長が、すまぬと短く呟くとビリビリ震えるような圧力が消えた気がした。

「ふぅ……休憩中にまで変なプレッシャー掛けられたら休まりませんよ。……最近機嫌が悪いようですね。ウチのダン長がぼやいてましたよ」

「……新しく人工ダンジョンを増やす。 長(おさ) の候補に……クイックもどうだ?」

「話聞きませんねこの人。都合が悪いとプレッシャーを掛けて黙らせているんですね。やりませんよ」

「……そうか」

組織のトップと、その末端組織の幹部の会話にしては随分と若造の方が主導権を握っているように見える。

うん、というかやっぱり気まずい親子の会話だねコレ……。

しかし、その空気は若造の次の言葉で吹き飛んだ。

「……機嫌が悪い理由……『小悪魔』ですか?」

ブワリと……

総ダン長の周りから暴風が吹き荒れるように……強烈な圧力が吹き出した。

カタカタと震えるテーブル。

波打つコーヒー。

ピシリとヒビの入る窓ガラス。

プレハブ小屋の簡易事務所が軋む。

そんなプレッシャーを放つ総ダン長からは、明確な『怒り』を感じた。

「ただの子供がッ! ……勢力などふざけているのかッ!」

「……ッ」

安易なセリフで親の逆鱗に触れた若造は、強烈な圧に汗を掻きながらも、わずかに口元は笑みの形になっていた。

「ふっ……」

「……なにが……おかしい」

「いえ、それでこそ総ダン長に相応しいと思いましてね」

「……」

「貴方は人間を超えた化け物だ。もはや老いすらしない。そんな貴方がかつて敗れた男……」

「……」

総ダン長の怒りの圧力はどんどん強くなり、部屋をガタガタと揺らす。それでも若造は煽るのをやめない……。

「その男すら……手も足も出ずに敗れた教会の巫女……あぁ当時は巫女ですらない一信者ですね」

「……」

「すごいですね『勢力』は……だから貴方はなった。人工ダンジョンという腕力以外の力を持って『勢力』に」

「……そうだ」

「ダンジョンという無限のエネルギー源を得て、馬鹿げた資金と貴重な遺物を持って恐ろしいほどの組織に、そしてついに『勢力』と認められた」

「……」

「だから許せないんですね……無力な子供でありながら勢力となった『小悪魔』が」

やがて総ダン長の圧力は徐々に抑えられ、落ち着くようにため息を吐いた。そんな親の姿を、冷や汗を掻きながら若造は楽しそうに見つめる。

「……クイック……お前は……」

「ふふ、目の前に小悪魔がいたら、辺り一体を吹き飛ばしそうな気迫ですね」

そういって若造は、少し冷めたコーヒーに口を付ける。そして……

「…………?」

机の下にいる私達の姿を視界に入れて、ピタリと動きを止めた……。

「……ぶ」

は、はぁ〜い……どーも、見つかったら辺り一面を諸共滅ぼされそうな私達でーす……。

若造は瞳孔を激しくバイブレーションさせて、徐々に顔色を悪くしていく……。

オメェそんな顔すんなら煽り散らしてんじゃねぇぞサイコパス息子がよぉ!!

「ぶふーー!!」

「……」

愚かな若造サイコパス坊ちゃんは、口に含んだコーヒーを目の前の総ダン長の顔面に吹き掛けて咳き込む。

「ゲホゲホゲホッ!!」

「……」

コーヒー塗れになった総ダン長は、焙煎させた匂いをさせながら、ポケットからハンカチを取り出して顔を拭く。

そして……岩のような顔面が……

「「ッ!!」」

ギロリと机の下に隠れる私達に向けられた……。

総ダン長はヌ……と立ち上がり、ドス……ドス……とコチラにやってくると、片手で机を持ち上げる。

「ど、どーも総ダン長様」

「……お、おひがらもよく」

「………………」

総ダン長は、しゃがんでいる私達を見て、岩のような目から視線を向けてきた。

ブワリとプレッシャーが私達を襲う。

ギィギィとプレハブ小屋が悲鳴を上げた。

「ええっと!! 総ダン長!! アレです! そろそろ時間じゃないですか!?」

その巨大な体の後ろからワタワタと焦っている若造が、土色の顔をしながら叫んでいた……。

オメーはよぉ!!

そんなになるんならなんで総ダン長様を煽ったんだよ! どーすんだよこれ!!

ダンジョンごと潰されんの嫌だぞ私達は!