軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

負け犬ニーサンってパワハラしやすそうな顔してるよね

「おや? ……んーん、どうやら僕の他にもお客さんのようだね」

ハイテンション町長が窓を見たかと思うと、くだりの階段に視線をやる。

……そして今度は私達にチラリと視線を向けてきた。

ん? なんだその目……お客さん?

何が言いたい?

「………………」

もしかして町長は私達に何かを伝えようとしているのかな? いや口で言えやとも思うんだけど…………なんか嫌な予感がするね……。

コチコチコチコチ……

私はスキマ作成時に発生する光る時計を幼女ちゃんで隠しながら、コッソリ負け犬の部屋の扉にスキマを作る……。

誰かが階段から上がってくる足音が聞こえてきた。

ここまで来ると町長だけでなく負け犬も気づいたようで階段を見ていた。

チーン!

全員の視線が外れたことで私はスキマにヌルりと滑り込む。そして私と同じく嫌な予感を覚えた幼女ちゃんも一緒についてきた。

そして階段を上がってきた人物が見えてくる。

「なるほど……ナイスっすわ町長様」

「……いのりの巫女?」

脇目も振らずに真っ直ぐに階段を上がってきたのは、紫色の袴を着た【祈りの巫女】さんだ。

あぶねぇあぶねぇ、鉢合わせする所だったぜ……。

町長の視線は『巫女さんくるけど隠れたほうがいいんじゃないか〜い?』ってことね?

いや〜助かりますわぁ〜。

ところでお前……なんで私達が巫女さんと喧嘩してんの知ってんの?

言ってねぇよなぁ!

お前マジで何なんだよ!

――――――――――――――――――――――

「んーん! これは祈りの巫女殿〜! 今日はどうしたんだい?」

階段から上がってきた祈りの巫女に対して、ハイテンション町長は両手を広げて歓迎のポーズを取る。

「あら、町長じゃない。アンタこそどうしたのよ?」

「アーハー? ……んー、ほらぁリード君のことだよ。『クロックシティーを救った英雄』今や彼は時の人だから……ねっ!」

「はん、だから町長の映像に出演させようって? 相変わらず人気取りに必死ね」

「大事だよ〜だって僕っ、町長だもの!」

「あーはいはい、分かったわよ。でも悪いけど先に私の用を済ませるわよ。アンタも分かってんでしょ?」

祈りの巫女は面倒くさそうに町長をあしらうと、視線を外して集合住宅の通路を見渡す。

そんな祈りの巫女に、熱にうなされたような顔でパーカー兄貴が擦り寄ってきた。

「どもっ! この間は危ないところを助けてもらってありがとうございます! 自分エルロイド パペルって言います! ウチのリーダーに御用ですかね?」

「あ、居たわね」

そしてパーカー兄貴の姿が見えていないかのように通り過ぎた祈りの巫女は、あろう事が負け犬に話しかけてきた。

「えっあ……の、なに、か?」

「チッ、シャンとしなさいよ気弱男ね。そんなんだから妖魔に入り込まれんのよ」

「ヒィ! す、すみません」

「…………ふん、まぁいいわ。リードいる? ここに住んでんのは調べがついてんのよ」

祈りの巫女はイライラしながらも、目的の人物がいないか辺りを見渡す。

「り、リーダーさんは今日は忙しくて……あの、忙しいです……」

「忙しいのは分かったわよ……いないのね? アンタの連絡先をよこしなさい。そしてスグにリードをセッテ区域の教会支部に連れて来んのよ」

「え、俺の? い、イヤ……」

「あぁ? アンタ死にたいの? リードはウチの信者になったから早いとこ教会で手続きしないとマズイのよ。必要なの」

現状このクロックシティーはリードの結界の力を柱にして窮地を免れている。

盤石にするためにもリードを正式に教会の信者にするのは急務だ。

「ひぃ! わ、分かりました! 時間の調節をして近いうちに連絡さしあげます!」

「分かればいいのよ……チッ、イライラするわね」

祈りの巫女は盛大に舌打ちをする。

「アンタ覚えてないでしょうけど、腕に属性纏わせて結晶化させてたでしょ。アレ……魔物向けの技術よね? あれどこで学んだのよ」

「え、俺そんなことできないですけど……」

「使ってたんだから見たことはあるはずよ。それとも……妖魔自体がアイツにイジられてた? まぁいいわ。早く連絡しなさい」

そう言って祈りの巫女は階段を降りていった。

「アーハー、僕も今日は帰るよ。あ、リード君を僕の映像に出すのも忘れないでね! 頼んだよオリバー君!」

そしてハイテンション町長も負け犬の背中をバンバン叩いて降りていった。

――――――――――――――――――――――

「うぃ〜ッス。お疲れ負け犬ニーサン」

「…………疲れた」

祈りの巫女が居なくなったので私はスキマから出て、心なしか目の下のクマが濃くなった負け犬に声を掛ける。

いや〜、それにしても負け犬のヤツ、巫女さんに認識されちまったねぇ……。

うん! しばらくコイツに近寄らんとこ!

「…………おい長髪」

「ん? なんスか?」

疲れたように蹲る負け犬が、震える声で声を絞り出す。

「俺が……祈りの巫女に話しかけられた時……アレどんな顔してた?」

「ん〜あ〜……パーカー兄貴のことね。分かりやすいよね〜、自分は相手にされてないのに見下してる負け犬ニーサンが話しかけられるのが気に食わないんだってさ」

「やっぱり……怒ってたよな……はぁ」

「大丈夫大丈夫! 巫女さんに話しかけられてワタワタしてる負け犬ニーサンのこと笑って見てたよパーカー兄貴」

「ほ、ホントか?」

うん、ホントホント。

「笑いながら血走った目で槍舐めてた」

「それ大丈夫じゃねぇなぁ!」

「大丈夫大丈夫。あ、しばらく私達忙しいから負け犬ニーサンの前から消えるね!」

「……さらば負け犬」

「全力で俺のこと切り捨てに掛かってんなぁコイツら!」

あたりめぇだろ……どう考えてもお前パーカー兄貴からパワハラ受けるもん。巻き込まれたくねぇからお前から離れるに決まってんだろ。

頑張れ、応援してるから。

そしてお前は草葉の陰から私達を応援してくれ。

――――――――――――――――――――――

「よし、準備できたぞ。待たせたな」

「お、ダンジョンに行く準備できました? オケオケ、全然気にしてないっすよ。色々仕事増えたんでしょうし……」

「……ホントな」

負け犬の仕事を部屋の外で待っていた私たちは、疲れた顔で部屋から出てきた負け犬に声を返す。

いや〜大変だねアンタも。

主役ヅラを巫女さんのところに連れて行くスケジュール調整してたんだろ?

しかしコイツ、主役ヅラのマネージャーが板についてやがる……それでいて私達とダンジョンに行くプライベートまで確保するんだから何気に裏方のスペック高いよね。

「あ、オリバーさん今帰りました」

「ども」

「……」

負け犬が部屋の鍵を閉めたところで、階段を上がってくる主役ヅラパーティー。

お、パーカー兄貴と女二人も一緒かい。負け犬ハブいてみんなでご飯でも行ってたのかな?

「あ、リーダーさん。スケジュールの変更がありますんで後で確認しておいてください」

「教会の手続き? ……あ〜、そう言えばボク、教会所属になったんだっけ……」

困ったような顔の主役ヅラに、パーカー兄貴は鼻息荒く捲し立てる。

「ははっ、そう言うなよリード。教会つったらクロックシティーでも有名な一大組織だぜ。駆け出しの俺たちにとって名誉なことだよ」

「そうか……そうだよね。最近取材ばっかりで大変だけど必要な事だもんね」

「そうそう、俺たちが有名になればなるほどスポンサーも喜んで金を出してくれるし、冒険者で上を目指すには必要な事だ」

「うん……ボクはもっと自由に冒険者をやりたい気持ちもあるんだけど……ね」

「そう言うなよ。お前はどう足掻いてもそのうち頭角を表しちまうんだ。遅いか早いかの問題だったんだよ。それにお前は英雄になっちまったけど、それでも今は割と自由に冒険者やれてんじゃん?」

「うんありがとうエル……そしてオリバーさん」

「……………………あ“ぁ“?」

うお……パーカー兄貴の笑顔の顔からドス黒い声が出たんだけど……。

「え? 俺……ですか?」

「うん、オリバーさんが面倒な調整をしてくれて助かってるよ。ボクたちじゃできなかった。変にボクが有名になっても比較的自由に出来てるのはオリバーさんがいるからだよ……ありがとう」

この主役ヅラ負け犬でも攻略しようとしてる?

「お、おいリードッ! それはちょっと言い過ぎ……」

「ほら、やっぱりあの時オリバーさんに声を掛けたのは間違いじゃなかっただろ? エルもそう思うよね!?」

「……ッ……そうだな“ぁ“ぁ“……俺もそう思うよぉお……やっぱ『あの時』だよなぁあ?」

褒める主役ヅラ……そして何処からともなくナイフを取り出して舐め始めるパーカー兄貴……。

いや気付け主役ヅラ! お前は鈍感系主人公かっ!

「ヒィ!」

ほら察しのいい脇役ポジションの負け犬は敏感にパーカー兄貴の嫉妬心を感じてるじゃないか。

たまには友人ポジションのパーカー兄貴にも目を向けてやれよ。

そいつ友人ポジションだけに主役ヅラに対する好感度を測るのは得意そうだよ。

「あぁそういえば……オリバーさん。やっぱり見つからなかったよ」

思い出したように主役ヅラが負け犬に対して肩を落とす。

「ん? あ…………ま、まぁまぁ在庫の記入ミスもあるでしょうから気にしないでいいんじゃないですか?」

そんな主役ヅラの言葉に動揺したように負け犬は挙動不審に陥る。

ん? なんだ? ……負け犬、お前なにか隠してるか?

「どうしたんだリード。見つからないってなにが……」

「エル、この間ダンジョンで見つけた剣あったよね」

「………………そうだったかな?」

「あったんだよ。もしかして特殊な魔法でも掛かった剣かもしれないって後で鑑定しようってオリバーさんと話してたんだ」

「……へえ」

「それでボクたちの借りてる倉庫に保管してたんだよね。ボクもオリバーさんの負担を減らそうと思ってたんだ。でも慣れなから見つけられなかったんだよ。おかしいな〜、何処にもないんだ」

その話を妙な汗をかきながら負け犬は聞いている。

お前もしかしてコッソリ売り払って懐に入れたか?

「……いや違ぇな」

「……うん」

私の言葉に、小声で答える幼女ちゃん……。

あ、キミもそう思う?

さすがに認めるけど……負け犬って結構仕事出来んのよ……。そんな負け犬が素人が簡単に調べただけで発覚することしねぇよな?

「もう……やめましょうやオリバーさん」

あぁコイツかぁ……。

「エル?」

「……俺知ってんだよ。アンタが盗んだの。俺……信じてたんだぜ? お前が自分で返すのをよお」

名探偵パーカー兄貴の爆誕ですわ。

は〜い! 気にくわねぇ負け犬を追い出す口実見つけちゃったねぇ〜。

んははは、分かりやすすぎてウケるんだけど。

オーケーオーケー、だいたいお前の事が分かってきた。底が知れたわ。私的には分かりやすいヤツ好感持てるよ。

てかもしかしなくてもお前だったりする? その剣盗んだの。

こういうのって厄介だよね。

多分だけどこのパーカー兄貴ね。

本気で自分が悪いなんて思ってないよ。

パーカー兄貴は本気の本気で負け犬が悪くて正義は自分だと思ってるんだ。おかしいよね?

こういうタイプってさぁ……『自分に言い訳』するのが得意なんだ。

頭では自分が盗んだのを分かってるんだけど、ソレが自分が悪いと思い込むことはない。

そして心の奥底で自分に言い訳をするんだ。

例えば『これはパーティーの為にやった事』であり、自分は泥を被っただけ……とかね?

意味分からんよね。でも本当なんだよ。

いや、私はいいと思うよ……自分が大事で……ホント。

「にひひひ、だから誰もアンタを相手にしないんだろうねぇ……」

「……あ“ぁ“?」

あやべ、口に出しちゃった。

パーカー兄貴の暗い目が私に向けられた。

あれ? 怒った?

内心で抱えてたコンプレックス付いちゃったかな?