作品タイトル不明
いただきます……。
どーも私です。
幼女ちゃんから時間稼ぎをするよう、お願いされました。
というか結構無茶言うよね……。
だってこの世界で会ったことある化け物クラスって、みんな頭おかしいヤツばっかなんだもん……。
まぁ、なんにせよ私がやる事は一つだけ……幼女ちゃんの用事が終わるまで、巫女さんから時間稼ぎをすること。
ねぇ、ちなみにどれくらい稼げばいいの?
私的には、『どーもこんにちは!』からの雑談に花を咲かせて『お話ありがとうございました。それじゃこの辺で……』って感じで適当に時間を潰せばいいかと思ってたんだけどさぁ……。
「答えろ……お前は何者で、何が目的だ?」
出会い頭からバチバチに喧嘩腰なんだけど、この巫女さん……。和やかに談笑する雰囲気じゃねぇわ。
目的ならさっきも言ったでしょうが!
「……出てってくれません?」
「妖魔を操って何を企んでいる?」
話通じねぇよ! この馬鹿巫女!
何なんだよ……巫女さんってのは神様の言葉に耳を傾けるお仕事なんじゃねぇのかよ?
恐ろしいほど聞く耳持たねぇじゃん。
「妖魔ですかぁ……私は普通の子供なので、そんな事できないっすよ?」
「……ほざけ、キサマは人間じゃない」
ビルをチョン切って、ぶん投げるヤツに言われたくねぇんだよ。
こちとら、お前よかよっぽど人間やってるわ!
「妖魔ってアレでしょ? 黒いやつ。本当に私とは関係ないんですってぇ……」
「妖魔が見えてる時点で関係ないワケないでしょ……」
若干呆れたような顔をしながらも、祈りの巫女は棒を私に向けたまま警戒を解く様子はない……。
マジで面倒臭せぇな……。
この巫女さん、本当に妖魔とやらを、私が操ってると勘違いしてやがる……。
「妖魔……妖魔ねぇ……」
あの悪霊……妖魔って言うんですねぇ……。
私は心の中で頭を抱える。
タダでさえ、この世界の常識がよく分かってねぇのに……なんで私は、この世界の『裏側』みたいな情報を知らなきゃいけねーんだよ。
それ一般常識じゃねぇだろ。
この世界でも知ってるヤツが一握りとか、そんな感じの世界観じゃん!
そんでこの巫女さんは夜な夜な、人にあだなす妖魔を狩るとか、そんな感じの魔法少女的な存在でいいんだよな?
やーい、いい歳こいて魔法少女め! クソが!
ふざけんなし!
しかも私のこと妖魔を操ってる親玉みたいに言いやがって。私ゃアニメの中盤くらいに出てくる怪人を従えた意味深な敵キャラかっ!
「どうしたら信じてもらえますかねぇ? 妖魔なんて初めて聞きましたよ」
「だったらその薄寒い笑顔を止めることね……」
「笑顔は敵意がないことを示す、大事なコミュニケーションツールだと思いません? それとも出会い頭に罵倒するのが巫女さんの流儀だったりします?」
「よく口の回るヤツね」
「そう言う巫女さんは、あまり頭の回転が良くないようで……」
「……」
おわぁ……思わず言い返したら目付きがナイフのように鋭くなったではありませんかぁ……。
「人間のフリが上手いわね……」
でも、時間稼ぎと言う点で見れば悪くないんじゃない。
どうやら、この巫女さんは、私のことを妖魔操る敵幹部とでも思ってるようだからね。
適当に会話してるだけでも時間は使ってる……とか思ってたら。
「ッ!」
シャン……
鈴のついた棒を巫女さんが、地面に突く。
「マズっ!」
私は、ジェットブーツを起動して側転飛びし、ブランコの柱に片足をついてグルリと回転しながら駆け上がる。
すると私の立っていた位置に、縄が鞭の如く迫った。ほーらすぐ手を出す!
「……いきなり何もしていない普通の少女に攻撃するのはヒドくないっすか?」
「そんな動きをする普通の少女がいる訳ないでしょ……」
ブランコの上に立ちながら見下ろしてみれば、巫女さんの持っている棒はピタリと私に向けられたままだ。
たぶん今のはわざと外した感じかな?
負け犬の時より余裕があるというか、予備動作が多かった気がする……。もっとも避けなきゃ当たってたけど。
攻撃してみて私がどんな行動を取るのか、観察したってところか?
話も聞かないおバカさんにしては、クレバーというか私に対して油断がない。
まぁ……私の正体とか裏に何かいるのかを疑っているんだろうね。情報を聞き出すまで、一気にブスリとやるつもりはないらしい。
「……さぁ、さっさと答えなさい。オマエは何者?」
「ふぅ〜、分かんない巫女さんですね。ただの子供だって言ってるでしょ?」
「妖魔を操って何を企んでいる?」
「あれ? この会話繰り返します?」
別にいいよ? 時間稼ぎが目的なんだし……。
「……そう、まともに答える気はない……か」
あ、ヤバい……。
繰り返すのは二回までだったらしい。巫女さんの目が鋭くなった。
仏さん見習って三回まで繰り返してもいいんじゃない? 巫女さんの所の神様は二回までだったかな?
「だったら……体に聞くまでよ」
そう言って巫女さんは、再び鈴のついた棒を地面に打ち付けようとする。
待って待って、もう少し会話で長引かせたいんだけど。
「…………ジャンケンしません?」
「…………あ?」
棒が地面に付く寸前で止まる。
「いや、このままじゃ平行線でしょ……」
「……ジャンケン?」
少々強引だけど……それくらいがいい。
怖いのは実力行使されるパターンだからね。
意味の分からない言葉で混乱させて、話を継続させ時間稼ぎをする。
「そうそう、ジャンケンっすよぉ! 私、暴力は嫌いなので平和的に勝負を決めようって寸法ですわ!」
「…………」
「私が勝ったら、巫女さんは大人しく帰る。そして私が勝ったら私は大人しく帰る!」
「……舐めてるの?」
「まま待って! じゃ、じゃあ私が勝ったら……質問に大人しく答える……とか?」
「…………」
「はい、出っさないと負っけよ! じゃーんけーん………………」
ギョン……
すぐ横の私の立っていたブランコの柱が、振動すらなく切り裂かれる……。
「……ぽぉん」
……ち、チョキでいいのソレ? ブランコ切ったからチョキってことだよね?
じゃあグーを出した私の勝ちってことで……。
「もういいわ……直接聞くから」
「ひぇ!」
違ったみたいですね!
巫女さんの棒から五本の縄が蛇のようにしなる。
ジャンケンはお好みしゃないようで! もしかしてこの世界にジャンケンとかなかったかな!?
「う、うぉおおお! ちょっタンマ! ストップ! 止まれ止まれ止まれ! 止まれっつってんだろボケ!」
巫女さんの操る五本の縄により、ブランコはグシャグシャに曲がる。わーすごいねソレ! いつの間に公園のブランコはゴム製になったんだろうね!
子供の怪我を防ぐ為かなー!?
「いままさに子供が大怪我しそうなんですけどー!! ジャンケンだめ? じゃあ駆けっこで勝負しない? 暴力は良くないって!」
ズドンズドンと足元に撃ち込まれる縄から私は公園を逃げ惑う……。
――――――――――――――――――――――
「…………負け犬」
座っていた歯車から飛び降りた白髪幼女は、感情のこもらない赤い目を負け犬に向ける。
「……このゴーストタウンの歯車って……回らないんだ……」
「グ、グギギギ……」
「……ずっと探ってて……ようやくわかった……この町は『壊れて』るんだ。だからオマエみたいなのがいっぱい発生した……」
白髪幼女は静かに語りかけるが、負け犬には届かない。
そして、負け犬は獣のように腰を落とす。
「ッ……こっちだよ」
白髪幼女は飛びかかられる前に走り出す。
彼女が逃げ込もうとした場所は、地下駐車場の入り口。
車を入れる為に下りになっている坂道を、白髪幼女は駆ける。
今は使われなくなった地下駐車場は、暗く遮蔽物もあるので隠れるのには打ってつけだ。
「ガァアアア!」
本能的に、そこに隠れられると面倒だと感じた負け犬は白髪幼女を追いかける。
「……たいみんぐバッチリ」
しかし、白髪幼女は坂の途中で振り返ると、壁に手を突いた。
バチリと紫電が迸る。
「……閉まれ」
「ガ、ガァアアア!」
白髪幼女を追って、地下駐車場の入り口までたどり着いた負け犬の横から、勢いよく鉄製の開き門扉が迫った。
それは駐車場に勝手に入られないようにする為のフェンス。
「……力がないなら見た目で騙して……ワナを張ればいい。オバケ姉ちゃんが言ってた……わたしの見た目は油断させるのにさいてき……」
白髪幼女は、門扉に轢かれるという稀有な現象を作り上げた。
「……今の負け犬はボロボロだから……」
「ガァ、ァァアアァァアア!!」
「…………ちょっとソレは聞いてない……」
重厚な門扉にはねられたハズだった……。
しかし、白髪幼女の目に映ったのは、迫ってきた門扉を片手で押さえ込んでいる負け犬の姿だった。
そして、その門扉をギュリギュリという鉄を引き裂く音を立てながら、地面のレールもろとも持ち上げる。
「……わかった。はなしあおう」
負け犬は、門扉を振りかぶる。
「……わたしよりイキのいい子供がいるぞ……そっちを差し出すから……わ、わたしを見逃すがいい」
予定の狂った白髪幼女は、両手をバタバタさせて説得を試みるが、話が通じるならこんな事はしていない。
「……ッ」
横に飛んだ白髪幼女の後に、鉄の塊が着弾する。
冷や汗を掻きながら、その光景を見た白髪幼女の目の前にはいつの間にか、負け犬の姿があった。
そして……
「…………ぐぇ!!」
振り抜かれた負け犬の腕により、幼女は坂をバウンドし、ゴミ袋のように地下駐車場に横たわった。
――――――――――――――――――――――
「ぎぃやぁああああ!!」
地面に亀裂が入る。
真横のビルが倒壊する。
進行方向にある大地が陥没する。
「しりとり!! 尻取りならどーですか!?」
「逃げるな」
「ぴぎゃーー!!」
ジェットブーツを使いながらゴーストタウンを逃げ惑う少女と、天変地異を起こしながら追う、祈りの巫女。
近所迷惑な鬼ごっこだか、それを気にする住民など、このゴーストタウンには存在しない。
「なんで化け物クラスは話聞かねぇヤツばっかなのかなぁ!?」
髪の長い少女は、個人に向けられる自然現象のような暴力に叫びを上げる。
いまだに少女が殺されていないのは、祈りの巫女が手加減しているからだ。
だからと言って少女に手心を加えているとかではない。
まだ、少女に見えるナニかの正体を聞いていないからだ。
この地で何を企んでいた?
妖魔との関係は?
他に仲間はいるのか?
この髪の長い少女は、ふざけた態度で逃げながらもコチラを誘導している。
逃げた妖魔から自分を遠ざけようとしているのだろう。だが、それもそろそろウンザリだ。
「オマエの目的の一つは分かったわ……妖魔が逃げる時間稼ぎね」
「んべべべべっ!! そそそんなことないっしょー!」
当たりらしい……。
「逃した妖魔も面倒だし……そろそろ終わらせるわ」
「わぁ! わぁ! わー! 鬼ごっこ! 鬼ごっこで勝負しましょ! ね?ね?ね?」
シャン……
地面に突いた錫杖から鈴の音がなる。
地響きと共に……大地が揺れる……。
「……嘘でしょ?」
少女の目の前から真横に地割れが起きて、断層が上にズレて行く。
その光景に少女が上を向きながら、呆然とした声を呟いた。
「え、え〜とぉ……『土地転がし』ってそういう意味じゃなくない?」
縄でビルを切って持ち上げる……ではない。
縄で大地ごと切り取って持ち上げる。
持ち上がった大地は、数軒のビルと民間……そして広場を内包しており、それを持ち上げた光景はまるで『空に浮かぶ大地』のようだ。
「よく分かったわね……これ今からオマエに向かって転がすから」
一人の少女に向かって……大地が転がされた。
――――――――――――――――――――――
「……よかった……オマエがバカで……」
地下駐車場に倒れた白髪幼女が、弱々しく上半身を起き上がらせる。
「……負け犬の意識があったら……きっと気づかれてた」
白髪幼女は、坂の上を見上げて呟く。
「ア、が、ガァ……ァァアア……」
負け犬は、白髪幼女をぶん殴った場所から動いてはおらず、ときおりビクンビクンと体を震わせる。
「……そんなボロボロの体じゃもう……抜け出せない」
そう言って白髪幼女は、ソフトボールほどの水晶を取り出す。
「……これ……天然コアぞ」
天然コア……マフィアから盗んだ遺物。
これは決して、魔力を大量に保有したリソースなどではない。もちろん魔力を大量に貯めるという目的にも使えるが……本質はソコではない。
人類が魔術プログラムでしか再現できない物を超越した……演算装置。
「……まきとれ」
コアが光を放ち、周りをグルグルと模様が飛び交う。
白髪幼女はそれを、キーボードのようにカチカチと操作する。
「……ァァアアァァアア!」
カタカタカタカタカタカタ……規則正しい音が響く。
ズリ……ズリ……と負け犬の足が後ろにゆっくりと下がる。下がるというより引き摺られる。
天然コアは、ソレ自体に直接的な力がある訳ではない……。
「ァァアア!! ガァアアア!」
後ろに引き摺られる不思議な現象に、負け犬は自分の体を見渡した。
糸だ……。
負け犬の体には、頑丈で見えにくい糸が巻き付いていた。
「……イエグモの糸。ばんぜんなら力づくで千切れたかもね」
負け犬が売れないと言っていた宝箱から出た糸。
それを白髪幼女は回収していた。
そして、それを地下駐車場の入り口に張っていた。
白髪幼女を殴った際に、それが体に巻き付いていたのだ。
「ガァ……アアア……」
「……もうすぐ終点」
ズリズリと糸により後ろに下がり続ける負け犬に、白髪幼女は歩きながら付いていく。
何者かにより物凄い力で糸は引かれる。
そしてようやく、人を引っ張っていた人物が姿を現した。
「……オバケ姉ちゃんは……ここをダンジョンにしたとかほざいてたけど……そんなワケないよね」
カタカタカタカタカタカタ……
「……だって……ここにダンジョンなんてできるはずがないんだもん」
カタカタカタカタ……
「……でもオバケ姉ちゃんはダンジョンだって言い張ってるんだ……」
カタカタ……
「…………そして、本当にソレっぽいもの作っちゃった……こわいよね?」
糸を引っ張っていたのは……『歯車』だった。
糸は動くはずのない歯車に巻き取られ……負け犬を引っ張っていたのだ。
「ガッ……ガァアアア!!」
歯車に巻き込まれる……。
それを悟った負け犬が強烈に暴れるが……朽ちる寸前の宿主では糸を引きちぎることができない。
負け犬は獣のような顔で焦り、白髪幼女を視界に入れて……笑った。
コポリ……と開けた負け犬の口から黒いモヤが顔を覗かせた。
『この宿主はもうダメだ……』
意思のないソレは、本能でそれを悟り……次の宿主に乗り換えることにした……。
『ォォォオオオオ……』
ズルリと口から這い出たソレは、グネグネと蛇のように白髪幼女に向かって飛びかかった。
「……やっぱりバカでよかった」
『ォォォオオオオ?』
「……負け犬なら知ってた……この街の歯車は巻き込まれない……」
次なる宿主の幼女に入り込む寸前で、進まなくなる。
「……ようやく出てきた……」
妖魔の不定形の体は……只人には触れるどころか目視すらできぬソレは……白髪幼女の手に掴まれていた。
そして、彼女はソレを泥団子でも丸めるように圧縮し始める。
「……オマエが欲しかった……」
妖魔は……本能で……意識などなくとも……危険だと判断した。
暴れようとするが、体はびくとも動かない。
そして……指先ほどにまで圧縮された妖魔は……白髪の幼女と目が合う……。
赤く光る目で見下ろす幼女の口が、パカリと大口を開ける……。
妖魔は……
その瞬間……
思考などないにも関わらず……
「……いただきます」
恐怖のような模様を顔に浮かべた……。