軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逃げることと、立ち止まること

よっせ! よっせ!

スコップ両手に壁を掘り進める。

ん〜……たぶんコッチで合ってるはず……。

なかなか開通しねぇなぁ。

ザクザクとトンネルを掘り進める。

「あ、どーも私です」

えー今なにをしているかと言うとですねぇ。

ダンジョンの壁を掘ってます!

いや、本当に掘ってるワケじゃないよ。イメージよイメージ。

現実の私は、スキマの中で胡座をかきながら目を閉じてる状態だね。

ほら、【ダンジョンを作る能力】の元となったゲーム、『ハーメルンの笛吹き大魔王』にもあったでしょ?

壁を掘り進めて、何処かにある空間に通路を繋げるシステム。

ゲームではダンジョンポイント(DP)を使って掘ってたけど、今の私は感情エネルギーを使用して掘り進めているんだね。

「実際に、私のダンジョンに穴を開けてるワケじゃないけどね」

そもそも、フィールド型の範囲ダンジョンだから壁なんてないし。

……なんて言えばいいかな? 領域畑の外に向かって手を伸ばしてる感じ。

んで、何処に向かって掘り進めてんのかって話なんだけどねぇ……感覚的には、もうすぐのはずなんだよ。

お、ほら来た。ようやく開通したよ……。

「どぉも〜……この度お隣にダンジョンを作りました。同業者同士仲良くやりましょうや……」

ねぇ……お隣のダンジョンさん。

ふふふ、いま開通したダンジョンは、私たちが普段負け犬野郎と一緒に探索している、神殿のダンジョンだよね?

近くのダンジョンつったらアソコだろうしね。

まぁ開通とか言ってるけど、感覚的な物だし、行き来ができるとかじゃなくてね。

「少しだけ情報いただきますよぉ〜」

ダンジョンとしてのシステムが欲しいんだよね。

今から私は、冒険者を呼び込むためのダンジョンを作るワケだけど……。

旨みがなくちゃ、冒険者は来てくんないよね?

冒険者がダンジョンに来る理由なんて、金しかねぇでしょ。まぁ、金っていうか、ゲーム的にいうとアイテムだね。

宝箱やら、ドロップアイテムやらのね。

もちろん、私の作るダンジョンにも宝箱なんかを設置する必要があるワケよ。

「んで? その中身ってどーすんの?」

って話になっちゃうよね。

私と幼女ちゃんが、他のダンジョンからアイテムを持ち帰って宝箱にぶち込む?

いやいや……やってられるかよンなもん!

持ち帰ったアイテムは売って金にするわ。

じゃあゲームみたいにダンジョンポイント(DP)……というか感情エネルギーを消費して、アイテムを入れるってことになるよね。

オーケー、それならまぁ分かる……。

でもね、それをすると困ったことが起きるんだ。

「……なんのアイテムを入れりゃいいのかね?」

いままで色んなアイテムを、ダンジョンから持ち帰ってきたけどね。それでも種類が多いとは言えない。

そんな少ないアイテムリストじゃあ冒険者はやってきてくれないよ! カサマシにオリジナルアイテムでも入れるのにも限度があるわ!

「そこで、この穴掘りよ」

この世界の宝箱が、どんな原理で作られたり、補充されているのかは知らないよ。

領域畑ってのは、突き詰めていくと万能空間『私の領域』に近づけることができるからね。

つまりは、感情エネルギーさえ大量に使えば、原理の分からん宝箱のシステムを、私のダンジョンにも流用できると踏んだんだ。

もちろん、宝箱の中身をそのまま私のダンジョンに設置したりなんかは無理。いや、無理というか感情エネルギーの消費が膨大過ぎてやってらんない。

今ある感情エネルギーを全部注ぎ込んでも、到底不可能だね。

「だから情報だけだ」

宝箱に入っているであろうアイテムの情報を盗み出す。

盗み出すってのはちょっと人聞き悪いね。

結局のところ、あっちから何か減っているワケじゃないし、本当に穴を開けて情報をコピーしてるワケでもない。

よく分かんない部分を、ゲームの穴を掘るというシステムに当てはめて、再現しているに過ぎない。

ほんで宝箱の中身は、自前の感情エネルギーで生成するってね。

「ただし、ここで残念なお知らせです!」

領域畑の効率の悪さを覚えてますかー!

いくらなんでも、アイテムを感情エネルギーで作り出すなんて割に合わない。

いくら冒険者を呼び込む為とはいえ、冒険者が来るたびにお土産を渡してたら感情エネルギーが破産しちゃうよ。

ゲームで出来たことなのにね!

そもそも、感情エネルギーを使ってホイホイアイテムを作り出せるなら、ソレ売って金にしたほうがマシ……。

「だから私は、『制限』を付けることにしました!」

うん、困ったら制限で出力を上げるのは、私の得意技だからね。結構ガチガチの制限になっちゃうけど、しょうがない。

まず第一に、そもそも何故アイテムを作り出すのが効率悪いのかを潰してしまおう。

⚫︎感情エネルギーによって生み出したアイテムは、自分の物にはできない。

そう、これが出来てしまうから効率が悪くなるんだ。

さっきも言った通り、自分でアイテムを作り出せるなら売ったほうがいいんだ。

だから、アイテムを冒険者を呼び込む一点だけの存在にする。ドロップアイテムとしての役割に徹することで、安く済ませられるはずだ。

⚫︎ダンジョンにやってきた存在が、アイテムをダンジョン外に持ち去った瞬間、初めてそこで物質化する。

冒険者が宝箱を開けて、アイテムを手に入れたとしよう。実際に手に持てるし、重さもあるよ。

冒険者は、アイテムを手に入れたと思うだろう。

ただし! ソレは間違いだ。

きちんとした手順でダンジョンから脱出した瞬間に、ソレは初めてアイテムとして存在を確立する。

言わばクリア報酬だ。

私の設定するゲームオーバーに引っ掛かったら……金庫に入れて保管しようが何をしようが消滅する。

当たり前だよね。実際は存在しない物なんだから。

まぁ、逆に言えば冒険者が落としたアイテムを私が拾う事も出来ないんだけどね。

「おけ……これでエサの用意はできた」

これならギリギリ、感情エネルギーの採算が取れるはずだ。私のする事は、宝箱にどれだけの感情エネルギーを注ぎ込むか決めるだけ。

アコギな商売をするなら、感情エネルギーを少なくするって感じかな。注ぎ込んだ感情エネルギーによって宝箱の豪華さが変わるはずだ。

「あとは……ダンジョンと言ったらモンスターよね」

感情エネルギーの収穫のためにも、欲しいところ……。これもアイテムと一緒で、情報を抜くか。

ゲームリンクを使った、オリジナルモンスターも実装したいな。

こう考えると、勝手にダンジョンにやって来て、お土産もいらないパリピが上客に見えてくるから不思議……。

――――――――――――――――――――――

逃げなければいけない……。

自分が手を出してしまった存在は、決して俺を許さない。

甘い言葉に惑わされた俺が馬鹿だった……。

全て……

全て掌の上だったんだ。

俺なんかが敵に回していい存在じゃなかった。

逃げる後ろから、黒い影と笑い声が追って来る。

笑いながらも、憎しみが伝わってくる。

そして、ついに逃げ切ったと思い、後ろを振り返ると……。

俺は、巨大な掌の上に立っていた。

そんな俺を……恐ろしげな化け物が覗き込んでいた。

絶対に……逃しはしない……。

「ウワアァ!? はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」

俺は、人気のない路地裏で目を覚ました。

「はぁはぁ……ゆ、夢か……」

悪夢を見ていた俺は、両手で顔を塞ぎ安堵のため息を吐く。覆った両手に汗の感触が伝わる。

酷く……酷く悪い夢をみた。

逃げても逃げても追いつかれる悪夢。

いや、夢なんかじゃない……今現在も、目が覚めたとしても続く現実だ……。

「…………いた」

「ヒィ!?」

項垂れていた頭から声を掛けれ、心臓が搾り取られるような感覚がした。

後ろの壁に後頭部を打ちつけ、怯えた目を向けると……サイズの合わない帽子を被った幼女が立っている。

「はぁ! はぁ! ……なんだ……お前か」

最近俺をつけ回している二人の幼女……その片割れ。

鬱陶しく思っていたが、コイツらは異能持ちで非常に有用な能力を持っていた。

故にだろう。

どうやら、コイツらも俺と同じで追われている身らしい。

サイズの大きい帽子を被っているのも、目立つ白髪を隠す為なのだろうと察せられる。

「……ダンジョンに行くからはやくして」

白髪幼女は感情の籠もらない目を向けて呟く。

それはまるで……見下されているようで。

しかし、そんな目に怒りを覚える気力は……俺にはなかった。むしろ……興味を持たれていない事に安心感すら覚える。

そうだ……コイツらは俺に興味がない。

俺を利用する為だけに近づいているだけだ。

それが……俺には酷く安心できる。

そして、恐らくコイツらも……。俺と同じなのだろう。

「……なにしてるの……はやくして」

「今日は……行かない……帰れ」

動かない俺に業を煮やして、白髪幼女が煩わしそうに話しかけてくるが、俺の返答は拒否だ。

悪夢のせいでそんな気分ではなかった。

今は誰もいないところで隠れていたい……。

白髪の眉間に僅かにシワが寄る。

「……関係ない……はやくして」

「……」

俺は膝に顔を埋める。それでも声を掛けてくるが、無視をした。何を言われようが俺は動きたくない。

「……負け犬の事情とかどーでもいい。他に利用価値がないんだから……はやくして」

「……」

言い過ぎじゃない?

なんでコイツこんなに俺にキツイの?

「……オマエが動かなくても、状況はよくならない」

「……」

「……お金は減るし、お腹も空く」

「……」

「……追って来るヤツは止まらないし、探すのをやめない」

コイツなんでこの歳で……こんなに腹……括ってんだよ……。

俺とオマエでは事情が違うんだ。このガキが何から逃げてるかはしらないが、俺よりヤバいワケがない。

それでも……。

「……でも、金があれば選択肢がふえる……って言ってた」

お前だって追われているのに、なんで折れないんだよ……。

「……動けるなら……はやくして」

「………………分かったよ」

俺はノソリと立ち上がると、ダンジョンに足を進める。これ以上、心を痛めつけられたくなかったから。

それに、白髪の言っていることは、いやでも正しいと分かっている。

どんなに心を病んでいても。

俺は死にたくないから。

まだ、生きていたいから……。

だから、立ち上がるしかないんだ。

「もう一人はどうした?」

「……オバケ姉ちゃんは……今日はこない」

「俺は駄目で、アイツはいいのかよ……」

「……拠点を強くしているらしいから、しょうがない……」

「そうか……拠点の強化は大事だな……」

「……ぬ。大事。ダンジョンをつくってる」

「何言ってんだお前?」

「………………なにいってるんだろう……わたし」