軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王領 クロックシティー

キモノお嬢は帰り際に不敵に笑いながら『また、明日来るわ』と言っていた。

……四日前にね。

「来ねぇなぁ!」

いや、あれから全然顔見せないんだけど! もしかして忘れてる? そら見たことか、結局ペットってのはお母さんが世話する事になんだよ……。

「という事で、お母さん。今日のメシなに?」

「だれがお母さんだ……」

はい、お母さんこと、傷グラサンです。

キモノお嬢がペットフードを寄越しやがったから、これからの食事は全部ペットフードなんだと思ってたけど、一応普通の食事が提供されている。

まぁ傷グラサンにエサの用意は任せるとか言ってたから人間用の食事になったんだろうね。あのままキモノお嬢がエサ当番だったら、三食ペットフードの始まりだったわ。

「ほい幼女ちゃん、デザートあげる」

「……ん」

差し出された小さい手に、果物を落とすとシャクシャク食べ始めた。

「……」

「ん、なんすか? 兄さんも食べます?」

何か言いたそうね? まだイッパイあるから傷グラサンにもお裾分けしてあげようか?

「いや嬢ちゃんよ……ホントに何処から取り出してんだソレ……」

「ははは、何言ってんすか! 食事に付いてましたよ」

「ついてねぇよ! 用意したの俺だぞ」

そりゃ食べ物用のスキマから取り出したんだよ。てか私が何もないところから食べ物取り出すの、いい加減慣れなよ。

「お嬢が目をつけるだけあってマトモじゃねぇってことかよ……」

「……オバケ姉ちゃん。布団ちょうだい」

「ほい、船のリネン室からパクってきたやつ」

ズルリとスキマから布団を取り出して幼女ちゃんに渡してやると、食器を片付ける為に後ろを向いていた傷グラサンが顔色を悪くしていた。

なんすか? 布団は二組しか持ってないからあげないよ。

「おい、ふざけんな。食べ物は最悪ポケットに入れていたでいいよ……。布団はおかしいだろ」

「ははは、何言ってんすか! 食事に付いてましたよ」

「付くわけねえだろっ! そんなバリューセット用意しねえわ!」

うるせぇな……。

そういうモンだって納得しろよ。ある程度自由に行動できる牢屋と違って、檻の中はスキマの能力を晒さなきゃ快適度が悪いんだって。

あと傷グラサンの反応がイチイチ楽しいのがいけない。オマエんとこのお嬢様にストレスかけられてるんだから、オマエがストレス解消に付き合えよ。

「クソがっ! 何なんだよこのガキども……」

イライラすんなよ。私のイライラが解消されるだろ。

――――――――――――――――――――――

「いい天気ね。散歩、行くわよ?」

「へぇ、いい天気なんすね。窓もないからそんな事も分かりませんでしたよ」

「ふふ、無知なのね」

ようやく顔を見せたキモノお嬢がやってきてそんな事を宣った。

相変わらずの糸目に、張り付いたような仮面の笑顔。

正直不気味だし生理的嫌悪感がすごい。

「ところで、私の記憶が確かなら、ここってお空の上ですよね? お散歩ってできます?」

まさかスカイダイビングとか言わんよな? せいぜい船内を歩くだけだよね?

「何言ってるの。もう空港に着いてるわよ」

「何言ってんでしょうねホント」

だから窓もねぇのに分かんねぇつってんでしょ!

イカれお嬢様がよお!

「アナタこの子たちを連れて来てね。……逃すなよ」

「へい」

傷グラサンは、キモノお嬢が出て行ったのを確認して大きくため息をはいた。

「はぁ、面倒くせえな……」

そう溢しながらも檻の鍵をカチャカチャと解除すると、首だけで出てこいと指示してきた。

「おや? 出てもいいんで? ……逃げちゃうとか思わないんスか?」

「はっ、本当は檻なんて必要ねえんだよ。お嬢の趣味でペットを檻に入れてるだけだ」

そう言って私たちの首に付いてる首輪を指差す。

あぁ、なるほどね。幼女ちゃんに聞いたけど、この首輪って魔力を乱すと同時に、一定以上離れられないような仕掛けが施されているらしい。

まさしく犬のリードって感じかな。

今現在は、檻を基点にリードが伸びてるらしいから、本来なら檻がなくても離れられないらしい。

つかやっぱり檻に入れられていたのはキモノお嬢の趣味かよ……。

「お宅のお嬢様は随分と良い趣味をお持ちで……控えめに言って、頭の出来が一般人とは隔絶しておられますね」

「お嬢の目の前で言うんじゃねえぞ……」

「はは、頭がイカれ遊ばれていらっしゃるのは間違いないかと」

「随分と迂遠な言い方だな」

「……キチガイクソ糸目」

「お前の方は少し回り道しようなっ!」

私が頑張って遠回りしながら悪口言ってたのに、幼女ちゃんはバッサリ言っちゃったよ……。素直でいい子だねぇ〜。

傷グラサンに連れられて外に出れば、確かに地上に着陸していたらしい。

ここが王領クロックシティーってことか。

誰もいない通路を傷グラサンの後を付いて歩く。

ふむ、通路には誰もおらんな。

割と大きな空港に見えたけど、もしかして専用の通路だったりすんのかね? VIP専用で一般人が使わない通路みたいな?

まあ一般人に混じってマフィアがいたら嫌よね。

通路を抜けた先には湖が広がっていた。

「ほほう。観光地っぽくていい雰囲気じゃない」

ただ、湖には一つ。不釣り合いな物が見える。

「ん〜……なにあれ? でっけぇ歯車?」

なんか湖の真ん中に古びた歯車があるんだけど……水車って感じじゃねぇな。

「……オバケ姉ちゃん……あれ」

「ふむ……」

幼女ちゃんが湖より向こうの空を指差す。

「なるほど…… クロックシティー(時計仕掛けの街) ね」

遠くに天を貫くような巨大な建造物。

時計塔だ。

薄くモヤが掛かっている事から、恐らく相当遠くに建っているのだろう。しかし、その塔の文字盤は確認できる。

つまりアレ、かなりデカい時計塔ってわけだね。

縦だけじゃない。横にもデカい建造物なんだ。

遠くて分からないけど、もしかしたら横だけで数km……もしくは数十kmはある可能性も……。

この世界、建造物に関しては元の世界より上だ。

元の世界であんな建物は存在しないし、作れない。

「ようこそクロックシティーへ。良かったな、もうすぐ街の名物が見れるぞ」

馬鹿にしたような傷グラサンの台詞。

その言葉のすぐ後に、湖に鎮座していた歯車がゆっくりと回転を始める。水をかき乱し、バシャバシャと跳ね上げるその光景は、それこそ水車みたいだ。

そしてその後に、カーン、カーンと小気味の良い音が聞こえた。

「ん〜兄さんよ……時計塔が鳴ってるんですかね?」

「そうだ。時間になると、街中にある歯車が回転して鐘を鳴らすんだよ。不思議なことに、近くでも遠くでも鐘の音は同じように聞こえる」

たしかに時計塔からここまで鐘の音が聞こえるなんて、普通だったら近くは爆音になっちまうわな。

「いったい何のために、あんなん街中に建てたんすかね?」

街の名物と言われたらそれまでだけど、少々大袈裟過ぎんかね?

「ああそれは――」

「ふふ、逆よ」

おわっ! ビビった!

説明に興が乗ってきた傷グラサンの言葉を引き継いだのはキモノお嬢。

「街に時計塔を建てたんじゃないわ。誰も知らないほど昔から、誰が作ったかも判明していない時計塔が建っていたの。その周りに街が出来たのがクロックシティー……と言われているわ」

と、言われているね。本当の所はどうか分からんってことか。

「ふふ、それにしても……随分と私のペットに懐かれているじゃない。……嫉妬しちゃうわ」

「うっ! えっ! お嬢! 勘弁してください!」

「ふふ」

本気じゃないんだろうけど、キモノお嬢の言葉に顔を青くして焦り始める傷グラサン。

ふむ……。

「お兄様〜」

「き、キサマ! ヤメロ! 離れろ!」

傷グラサンの足にしがみついて猫撫で声。

そして幼女ちゃんに目配せをしてやれば、彼女もキラリと目を光らせた。

幼女ちゃんよ……分かってるね?

「……お兄ちゃーん……」

「や、ヤメロッ! 違うんですお嬢! これはコイツらが勝手に」

よく分かってる白髪幼女だ!

そうそう他人がとうすれば嫌がるか、チャンスは逃さないように考えるんだよ。

「……」

「ヒッ!」

無言で、糸目の奥の瞳を向けているキモノお嬢の顔は、笑顔にも関わらず恐怖を感じる物だった。