作品タイトル不明
個人的理由
「どういう、意味でしょう? 私は家を抱えるわけでもなく、ましてや要職すら持たない身。国の存亡を考える今、私の価値などは路傍の石と変わらぬはずですが・・・?」
素直な意見だった。
何1つ、見逃していない意見だったはずだ。
だが陛下は大きくため息をつくと、
「其方が本気でそう思っているなら、それはもう何かの病だぞ」
呆れて言う。
「曲がりなりにも、其方はこの国の窮地を救ったのだ。それも1度ならず、2度3度とだ。そのような腹心を捨て石になどしてみろ。私の威光など地に落ちよう。それにだ。其方は教会にとっても、替えの利かぬ神なのだぞ? 使い捨てようものなら、今度こそ宗教によって国が転覆するとは思わぬか? それとも、私のためにお題目まで考えてくれておるとでも言うのか?」
「お題目ですか? 前者は私の懇願だと言えば面目は立つでしょう。後者についても、件のドラゴンが加護を奪う存在であることを明かせば、神が討伐に乗り出しても不思議には思われないかと。例えそれが失敗したとしても、いくらでも言い分は残るでしょう。帯同者が少ないなどの予想しやすい文句ならば、被害を増やさぬために足手まといは連れなかったとでもおっしゃればよろしいかと」
「むっ⁉ いや、違うぞ‼ それらを除いても、其方は我が息子クライフの親友でありながら、孫ライザードの師でもあるのだ。これほど重要な役が務まる貴重な人材は他にはおらぬ! ただ同然で手放すなど、それこそ愚かというものではないか⁉」
「御父上の側近にベルザフォンという侯爵家の息子がいます。アレもクライフ皇子の友であり、元皇都防衛鎮圧部隊の隊長を務めた男でありますから、師としての素質も十分かと思います。替えならば是非、彼の者を推薦いたしますが?」
「待て待て‼‼ その者は個人でS級の冒険者になれるほどの逸材なのか? 個人S級ともなれば、ギルドが手放すものかと特大の権能を与え、戦力として抱える――いわば兵器のような人間であるはずだ。過去この国に尽力してくれた自由騎士殿の様に。其方は既にそれだけの結果を残したのだ。それに替わるだけの力があるというのか?」
「陛下、ご冗談を。私の冒険者としての最終等級は個人A級で、パーティーとしての最終等級ですらA級に止まります。ベルザフォンならばその程度、容易く届き得る範囲でしょう。御父上が彼を高く評価し側近としたように。私も彼ならばと思う次第。それに、個人兵器がお望みであれば、候補はそこにもいるではありませんか」
ぶすくれた表情で睨んでいたジーナを指で差して示す。
「随分と勝手を言うねぇ? 皇王陛下が御自ら君が必要だとおっしゃってくれているというのに、贅沢なんじゃないのかい? 何より、君はギルドからS級の打診を受けただろう? いや、打診どころか脅迫まがいの囲い込みだったと記憶しているのだけれどね? 破り捨てられたはずのカードだって送られてきたんだろう? それは君を手放したくないという表れで、ギルドが執着する即ち、君にはS級の実力があるということじゃないかい?」
「公爵閣下もご冗談がお好きなようで。陛下のご心配は光栄至極の痛みではありますが、国あっての王――というでしょう? 陛下の個人的な思いが国にとって最善であるとは限らず、そうでない時には具申することこそが忠臣たる証明。そして、ギルドの真意というのならば、カードに刻印された情報こそが他ならぬ証拠ではありませんか? しかしそれはこれこの通り。等級の欄には刻印がなく、役職についても職員となっています。これこそギルドが私を職員と認めた証拠であり、それ以上を望んではいないという証明でもあるはず」
ギルドカードの枠を掴み見せながら、その下に皿のようにした手を添えて強調する。
胸の位置に鎮座するそれを食い入るように睨めつけながら、ジーナはぐぬぬと奥歯を噛んだ。
「ゼネスよ。其方は何故、死に急ぐ? そうまでして命を消費しなければならない理由があるのか? 其方は私にとっても掛け替えのない存在なのだ。納得のいく理由でなければ、その命を粗末にすることは許されぬ」
ふぅと1つ息を吐いた陛下は真剣な眼差しで語りかけてくる。
決して。ふざけているわけじゃぁねぇんだが・・・、
「気に入らないから―――・・・それだけでは、いけませんか?」
どうしようもなく腹立たしいこの感情を。
他に表現しえなかった。