作品タイトル不明
記憶を呼び起こす
「静かにしろって言われてもよ・・・ヨハンの故郷ではアンタとヨハンの2人だけでどうにかなったんだろ? 考えすぎなんじゃねぇのかよ? 軍人が残ってるのだって、領民が操れないからとかなんじゃねぇのか?」
「それで失敗して、どうなった?」
「は? なに言ってんだよ? 俺様はまだ失敗なんて―――」
「忘れたのか? 敵は蟻と同じ性質を持ってる人間だぞ?」
アスクレ岩礁地帯。
もう随分と昔に感じられる出来事だが、本質は似ている。
女王を絶対として命令通りに動く兵隊。
死ぬことを当然と受け入れて、ただ使命のままに。消耗も欠損も恐れず、怯むことなく突っ込んでくる敵の怖さ。
忘れたわけじゃなさそうだ。
蟻と言う言葉に忸怩たる思いを掘り起こされたのか、苦味に咽たような顔をジェイドが見せる。
「人間だろ・・・? あんな機械みたいなことになんのかよ・・・?」
「完全じゃぁねぇからな。無感情になるわけじゃねぇさ。むしろ・・・歓喜に湧き上がった表情を見せつけられる可能性すらある」
「・・・考えたくねぇな」
「囲まれようもんなら正気をやられるかもな」
喜び勇んで迫りくる敵の不気味さは異常の一言。俺も過去に1度しか見た覚えがない。それも人じゃなかったからまだマシだったが・・・よだれまで撒き散らすその様は生理的な嫌悪を引きずり出させた。
ヨハンの実家。ルーヴェント領はそこまでじゃなかったが、ルーフロンス領がそうじゃねぇとは限らない。教祖にこれ以上の逃げ先がないのであれば、万が一は考慮するべきだ。
「そうは言っても、乗り込まねぇわけじゃねぇんだろ? それとも敵を誘き出すような策でもあるのかよ?」
「そんな策があればとっくに使ってる。今はただ、待ってるだけだ」
「待ってるって・・・これ以上ここで得られるもんなんてねぇだろ」
「そうだな。ここで、ならな」
「―――すみません。遅くなりました」
ジェイドとの問答に割って入ったのはリミアだ。
その胸元には大きな紙が握りしめられていた。
「覚えてる限りで書きましたが・・・家には数年帰っていませんし、あまり注意して街を見回したことはないので自身はありません。それと、線が汚くなっていますが、これは机が無かったせいですので」
そう言いつつ、広げられた紙には簡易的な地図が書かれている。
リミアの記憶にある領都の形だ。
大雑把に。
領主屋敷は街の中央より西側、そこから更に南西の位置に教会がある。
比較的に近い位置で存在するのは、元が懇意にしていたからだろう。
都の中央には広場があるが、これは市場や公園などではなく、それぞれの門へ直通する太い道を繋いだ結果のようだ。その用途も馬車同士の旋回や通過のためと予想できる。
「この道はどの程度の幅がある?」
「馬車が十分な距離を保ってすれ違う時に、両側に1人分の隙間がある程度――でしょうか? 本当に何気なく窓から見た光景ですので曖昧ですが」
大人10人かそこらの道幅か・・・思っていたよりはずっと広いが、
「横道は描かれてないが、全く存在しないのか?」
「そんなわけないでしょう! ですが、描けるほどには覚えてなく・・・」
「道幅はわかるか?」
「大人2人がギリギリ並んで歩けるかどうか・・・」
こっちは予想より狭いな。狭すぎる。武器や道具を構えて隊列を形成するのは無理だろう。精々、一列になって突っ切るくらいが関の山か。作戦行動とは言い難いな。
「建造物の高さはどうなってる? 平均何階まである家屋多い?」
「4階が平均的な高さでしょうか・・・5階や6階にまで及ぶものもあったはずです」
登って屋根の上・・・ってのも無理だな。
背の高い建造物は雪が積もらないよう屋根が鋭角になっていることも多い。十分な足場にはなりそうもない。
他に気になる所と言えば、門の位置とそれに向かう道の交わる角度だが、
「門の位置がなんでこうなってるか・・・わかるか?」
「この門には100年以上の歴史があります」
「ま、そうだよな」
わかるはずがないでしょう? と返される。
垂直にした方が色々と効率的だと思うが・・・当時の領主の都合だとかもあったんだろう。
残るは―――、
「この謎の四角・・・これはなんだ?」
領主屋敷から北西の位置に、空白のような四角が鎮座していた。