作品タイトル不明
被さるは自らの影
「悲劇っていう割にはあっさりした内容だったな? もっと呪詛じみた恨み辛みが入ってるもんだと思ったが・・・」
「あくまでも私の記憶に残った内容ですからね・・・それに恐らくですが、あの手記は記録として残すために後から書き直したものかと。字も丁寧で、書き損じもほとんどなかったので」
「なるほど。一応、配慮された代物だったってわけか」
「元々、いつか私に伝えるための物だったのかもしれません。本当に隠したいものなら、子供の手に届くところへは置かないでしょうから」
少し恥じるように呟くリミア。
詳しく掘り下げないが、父の書斎でも漁ったんだろう。
そうさせるほどの疑問があったか、あるいは父の態度がそうさせたのか。
「でも、加護Lvの低下・・・ですか。聞いたことがないですね」
「確かにそうだな。もっと大事になって、俺様達の耳に入っててもおかしくないはずの事件だが・・・」
「同じ東領のヨハンでも聞いたことがないんじゃ、皇都にいた私達が知らなくてもおかしくはないわね。それにリミアが生まれる前ってことは、私達も生まれる前か、生まれて間もなくってことでしょ? 知らなくても仕方ないんじゃないかしら?」
「そうでもないと思う。加護Lvが下がったなんて事例は他に聞いたことがないんだもん。もし本当なら、もっと噂が流れてるはず。言い方は悪いかも知れないけど、馬鹿にしたような煽り文句みたいに根付いてても変じゃない。そんなことしてると女神さまに見放されて加護Lvが下がるぞ・・・とか」
「ウチは南の辺境だからなんとも言えないけど、こっちでもそんな噂は聞いたことがないね。10数年前じゃぁあたしもまだガキんちょだから絶対とは言えないけど、それでもアンタらの言う通りだと思うね。普通なら隠蔽してたって、もっと情報として漏れ広がってても不思議じゃない。だから、他に何かあったんじゃないか? もっとこう、盛り上がるような別の話題がさ」
全員がリミア誕生前後の記憶に頭を悩ませるが、一番年上のケイでさえ20かそこらだろう。その当時の記憶が曖昧でも、なんなら何も知らなくてもおかしくはない。
この中で唯一。15年前相当を鮮明に思い出せるのは俺だけだが、
「俺も。聞いた覚えはねぇな。つっても、その頃の俺達は駆け出しだったし、情報を集めてたわけでもねぇが・・・既に言った通り、ルーフロンスの家名だけなら、聞いた覚えはある。爵位の辞退は話題になってたからな。けど、その内情までは今聞くまで知らなかった。他に思い当たる当時の話題なんざ、教皇の変更ぐらいだろう」
思い当たる節はこれだけだ。
グレアムの爺さんが教皇になった。
これが一番デカイ話題だったはずだ。
「―――それじゃないでしょうか?」
不意に声を上げたのはユノ。
「爺さんがもみ消したってことか? なくはねぇだろうが・・・」
「いえ、お爺様が・・・というより、教会全体が。そのように動いた可能性はありませんか?」
そう言われて思い出すのは爺さんとの会話や、その時に聞いた悩み、愚痴のような文句まで。
息子グレンゼーとの確執もさることながら、余計なことを―――だとか、私欲に溺れるなど―――だとか、言っていたような気もする。
爺さんは教皇になることを望んでいた。
それは間違いないが、はたして。
その理由は何だったか?
俺は、知っているようで知らなかったのかもしれない。