作品タイトル不明
条件と孫
「条件?」
爺さんは大仰に頷いて、
「孫娘ユノが聖女認定試験を受けたがっておってな・・・」
「付き合えってのか? 冗談だろ?」
「大真面目に言っとる」
「釣り合いが取れねぇよ」
聖女認定試験。
聖女の資格を持つ見習いが受ける試験で、内容は知らないがそれなりの試練が用意されているらしく、同行者には結構な危険が伴う。
なにしろ、聖女の資格は加護レベル3以上なのに歴代聖女は全員が加護レベル4以上。
ってことはつまり、加護レベル3じゃ突破できないような試練になってるっつーことだ。
それに付き合う報酬がお手伝いの権利なんて、笑えねぇよ。
「わかっとる。だから、製薬の手伝いではなく、出来上がった薬を買取る形にしよう。そうすれば、纏まった金額をそのまま手に入れられるだろう?」
「それでも足りねぇと思うがな」
「ほう? ではどうする? 実家に泣きつくか?」
「・・・わかってて言ってんだから性質悪いよなぁ」
それは出来ない。
実家・・・もっといえば、当主代行を務めている兄上にそんなことを言うわけにはいかない。
この間の件で皇都にいると知ってすぐに、調子はどうだ? と手紙を寄こすほどには気遣ってくれているとはいえ、だからといって甘えていいはずがない。
むしろ、出来る限り迷惑にならないように近づかない方がいいんだ。
辺境伯領では、未だに俺は神に見放された子供のままなんだから。
それでも、引退の時に最悪実家に帰ればいいと言えたのは兄上のおかげだ。
金の無心にも答えてくれるだろう。
だからこそ、それだけは出来ない。
そして、そのことをこの爺さんはよく知ってる。
俺が初めてギフトを教えた相手で、クライフを除けば最も俺を見てきた人物なんだから。
「どうする?」
どこか勝ち誇ったようにも聞こえるその問いに、否とは言えそうになかった。
「始めまして、聖女見習いのユノです。お話は兼ねてより聞き及んでいます。この度はお会い出来て嬉しいです」
そう言うなり、目の前の少女はぬるっと腕を組もうとしてくる。
とっさにかわしながら爺に視線を飛ばすと、
「ユノはお主の話を聞いて以来、ずっとそんな調子でなぁ。ホの字ということだのぅ」
「んなこと聞いてねぇんだよ! どこまで話した!」
「・・・・・・概ね・・・?」
「アンタなぁ‼」
「大丈夫だ! まだ15だが、ええ身体しとるだろう? すぐに気にならんくなる!」
「そういう問題じゃねぇだろうが‼」
言っている間にもユノはどうにかして張り付こうと、少女らしからぬ狩人のような動きで狙ってくるのだった。
「すみません。私としたことがつい興奮してしまいました・・・」
どうにか逃げ切り、机を挟んでの対話に成功した。
「興奮って・・・。なにを聞かされれば、あんなことになるんだか?」
「ありのまましか話しとらんぞ? 両親がおらんせいでこんな爺しか話し相手になってやれんかったが、だからといっておかしな話を聞かせてきたわけではないぞ」
「はい! ゼネス様が立派な方だということは、おかしな話などではございません!」
「だったらそうはならねぇだろうが・・・」
「なぜですか?」
「なぜって・・・」
そんなたいした人間じゃないからだ。
出来ることだけをやって、出来ないことは諦めてきた。
成功した人間ではなく、失敗してきた人間だからに他ならない。
「お爺様のこともですが・・・困っている人を助け、導いてきたのでしょう? 蔑まれ、バカにされてもなお・・・挫けることなく、特別な力に気付いてもそれに頼ろうとせず、自らの力で歩もうとする人に憧れるのはおかしなことでしょうか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ものの見事に、ほとんど全部ゲロってくれてんじゃねぇか。と思って爺さんを見るが、黙って真剣な顔のまま虚空を見つめてやがった。
結局は俺のギフトのことを知って、加護が絶対の教会に来ないなんてすごい! とかいうしょーもない感想だ。
言葉だけで、その目は俺を人として見てはいない。
爺もそれをわかってるから目を合わせないんだろう。
「はぁ・・・」
恋に焦がれるとか、まぁそういう年頃か。
また面倒にならないうちに、本題の話をするしかねぇな。