作品タイトル不明
side――ヨハン1
「しゃがめ‼」
そう言われた瞬間には僕の体は従っていた。
あるいは身体の限界だったのかもしれないけれど。
なにせ窓から飛び降りたんだから、足を痛めていても不思議じゃない。
今は痛みなんてわからないけど、後から忍び寄ってくるのかも。
もしかしたら、それを見抜かれていて・・・戦力外だと思われたから、座ってるって言われたのかな?
―――なんて、弱気になりそうにもなった。
でも、それが見当違いだったのは直後の攻撃を見れば明らかだった。
頭上を通り抜ける風の刃。
それは的確に大人の頭や首へ目掛けて飛んでいく。
大人と子供の差を利用した的確な攻撃。
であればこそ。
子供達は僕が止めなくちゃいけない!
瞬時にそう理解できた。
眼前の魔法道具に手を伸ばして、追加で魔法を起動する。
皆が皆、僕の方へ来てくれれば良かったんだけど。
近付いて来てくれたのは最初だけ。
当然だ。
僕らの作戦は筒抜けだ。
だって僕自身が先生へ口頭で伝えたんだから。
周りにだって聞こえている。
そして、子供達だって何も考えてないわけじゃない。
そう見えるように振舞ってはいたけれど、そうじゃなかったことはついさっき痛感した。
家族と暮らしたい。
そんななんてことない願いを、必死で叶えようとしていた。
そんなものを希望としてチラつかせたのは・・・他でもない僕の―――。
それなら、僕が叶えるべきだ!
僕の力で! 出来る限りで! 勝ち取るべきだ!
そのためなら、断ち切って見せる。
自分の弱さぐらい‼
そう思えたから、飛び降りる勇気が湧いたんだ‼
ありったけの魔力を込めて、全神経を集中して、子供全員の動きを止める。
隙を見て魔力を回復。
これを繰り返した。
10人。20人。30人でもう、息切れを感じた。
罠の魔法道具の中にあった魔力も底をつく。
多少使って居後はいえ、先生の魔力もあったのに、それでも。
飛び降りた時に怖くなって魔法で減速したのが駄目だったのかな?
断ち切れなかった弱気が僕を苛む。
そんな姿を見てか、
「ヨハン! 最後まで付き合ってもらうぞ‼」
先生が僕の名前を呼ぶ。
「ッ! はい! ・・・でも!」
どうにか答え、それでいて弱音を吐きそうになる。
そんなことで何が出来る!
どんな願いが叶えられるって言うんだ‼
すくなくとも! 先生なら‼
僕に生き方を教えてくれた先生。
生きる場所を与えてくれた先生。
僕のため心を痛めてくれた先生。
心を気遣って考えてくれた先生。
絶対に傷付いて欲しくない。こんなところで。こんな方法で。
これ以上、無理をさせたくない。
なんてことないような表情をさせて、苦労を掛けたくない。
なのに、
「大丈夫だ。魔力なら―――俺が送ってやる」
今までで。
一番やさしい声を聴いた。
悲しくて泣いた僕をあやすように許してくれたあの時より、自分の役目を終えたように僕らを送り出してくれたあの時より、この場所であの人に会うことを心配してくれたあの時より。
こんな場所で、こんな状況で、怒りに燃えてささくれだっていたはずの声からは考えられないぐらい。
優しく、澄んだ声だった。