作品タイトル不明
上がる狼煙が呼ぶものは7
「よく来たものだ・・・・・・いや、よくも来れたものだなと言うべきか」
思ったよりも狭く暗い部屋―――むしろ通路と呼ぶ方が近いか?
狭く、暗く、ついでに短い廊下みたいな空間だ。
「まるで俺達が来ることを分かってたみてぇに言うじゃねぇか?」
「当然だろう? この都は私の管轄。気付かぬはずがないだろう?」
「その割にはザルな警備しかいなかったようだが?」
「あれらは不完全な代物だからな。忠誠心を第一に、運動能力を第二に選別したが・・・次からは運動能力以外を重視することにしよう」
「次があればな・・・」
「あるさ。そうでなければ、これほど悠長になどしていない。違うかね?」
「悠長な自覚があったとは驚きだな。逃げ道ぐらいは用意してるってか?」
「逃げる必要があるのは君の方だ。なにやら面白い仕掛けをしてくれたみたいじゃないか。それがどんな結果を呼ぶのか・・・君にはわからなかったのだろうが、自ら墓穴を掘ってくれているその姿は、実に滑稽だったよ」
軽い牽制による刺し合い。
焦りでも見えるかと思ったが、どうやら余裕の面は取り繕ったわけじゃなさそうだ。
ヨハンに対しての反応もよくない。
「おとうさ――」
「貴様に父と呼ばれる筋合いはないぞ。出来損ない風情がッ!」
掛ける言葉に迷った挙句、呼び声さえ掻き消されるヨハン。
領主の顔には純然たる怒りのみが表立つ。
「ああ、よくも! よくもだ‼ ここへ顔を出せたものだな‼ 貴様のような出来損ないが居なければ‼ 計画はもっと早く、今より確実な幸福を積み上げられたというのに‼ 処分をさせるだけでなく‼ あまつさえ邪魔をしようなどと‼」
そこには後悔も未練も、罪悪感さえも感じない。
ただただ腸を通した憤りだけが沸き立っている。
もはやそれが人の感情であることを理解できないほどに。
「幸福⁉ あんな子供達を奴隷のように使って、それのどこが―――ッ‼」
「幸福だろう‼ 生きる意味と価値を示してやったのだ‼ 出来損ない共に‼ 貴様であっても! なにかの役に立つかもしれぬと、高い学費を支払い学園へ通わせてやっというのに! なにも成しえぬどころか‼ 成績は下位! 交遊も碌に広げられず‼ そこまでして生きる意味とはなんだ⁉ 貴様のどこに価値があるというんだ⁉ この恥知らずの役立たずが‼‼‼」
ヨハンの、いや出来損ないと判断した存在の言葉など聞く気がない。
言葉にしなくとも、そう伝わるほどの問答無用。
「だからって、奴隷は禁止されて―――」
「禁止されているのは奴隷という身分だ‼ それだけだ‼ 奴らは公僕よ‼ 身分はあくまでも市民! 公に仕事を与えられている役人と同じだ‼ 基準通りに働けばいい! 簡単な話じゃないか! それのなにが禁止されているというんだ⁉ 誰が禁止しているというつもりだ⁉ 役人を奴隷と罵る者が居るというのか⁉ だとしたら見てみたいものだな‼ 生中な見世物よりも余程面白かろうよ‼」
「その人達は自分で選んで―――」
「アレらも自分達で選んださ‼ 価値を示して生きるか! 潔く死ぬか! どちらでも構わんのでな。好きにさせたまでだ。だが貴様は、それをやめさせろというのだな? 働けなくなったアレらがその後、どうなるかも考えず、自らの正義だけで労働の場を奪い、対価を失わせ―――それで貴様が救世主だと! 笑い話にしても三流以下だな。それで喜べるのは庭園から出たことがない乙女ぐらいのものよ」
「後のことだって考えてる・・・皇王陛下はきっと、僕に味方してくれる」
「それが本音だろう? 貴様はアレらを理由に、ただ自らがこの領地の頂点に腰かけたいだけなのだ。出来損ないのくせに、この私に冷遇されたと思い、私の立場を奪いだけもすぎん。みっともないほどの強欲だ。己が幸福だけを追い求めるその面の厚さ。いったいどこで学んだのやら・・・・・・貴公に心当たりはないかね?」
どこまでも蔑み、見下したものいい。
正しく見下げ果てたとはこの態度のことを言うんだろう。
「生憎、気にしたことがなくてな」
「それは実に迷惑なことだな。周囲に気も使えないのかね?」
「周囲の幸福より、不幸にばっか目が行く連中だらけでな。本当に、迷惑なこった」